2/5 先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん(訳:このごわごわタオル、懐かしい匂いだニャー)
「んー、そのままじゃマズイよねー。ちょっと待ってて」
私はバスタオルを取ってきて、レオに差し出す。
「……ごわごわだな」
「うっ、柔軟剤入れ忘れたのよ」
「しっかりしているようで気が抜けているのは相変わらずだな」
「そんなことは――って、取り繕ったところで、全部お見通しだものね」
幼い頃からずっと一緒だったのだ。
一番気心が知れている。
「ある程度拭いてから上がってきてね、って、どうしたの?」
頭を拭いていたかと思うと急にピタリと動きを止め、無言で再びうつむいている。
体調が悪いのだろうか。
「もしかして風邪引いた? 温かい飲み物用意するわね」
「――い、だ」
「ん?」
「懐かしい、匂いだ」
バスタオルを鼻先に当て、クンクンと匂いを嗅いでいるようだ。
「え、そんな臭う?」
「うむ。懐かしい、これこそ
「なら良いけど。猫も嗅覚は鋭いって言うしねー」
ちょっと一安心。
生乾きのタオルだったらどうしようかと思った。
いや、それでも贅沢言うなって感じだけど。
「これは久々に堪能せねば」
スーハースーハー。
クンカクンカ。
スーハークンカクンカ。
文字通りそんな擬音が飛び交う。
「やめて! すごくいかがわしいっ!!」
実際、目の前でそんなことされるとめちゃくちゃ恥ずかしい。
やめて、そんな恍惚の表情しないで!
もう一度嗅ぎ直さないで!
頬ずりしないで!
もう自分のものとして所有権を主張されたので返してもらえませんでした。
「ところで、本当にレオ……なんだよね? いったいどうして」
「フハハハハッ、その言葉を待ちわびていたぞ、
「なんか悪役みたい」
「じゃあ……『その言葉が聞きたかった』とか?」
首をかしげる仕草が可愛い。
すごく猫っぽい。
「で、どういう理由よ? 聞きたいのはこっちなんだけど」
私が尋ねると、レオは部屋の入口で仁王立ちのまま胸を張って右手を突き出す。
「我こそは貴様に復讐するため、地獄から蘇りし
「なっ!?」
なんてことっ!?
「さぁ、思い出すが良い。今までしでかしてきた悪の所業をっ!」
「もしかして、夜寝るときにいつも枕にしてたこと? それともご馳走と言って腐ったメザシを食べさせたこと? 高いところから落としても大丈夫ってのを確認するために二階から全力で投げ飛ばしたことかしら? それとも――」
思い当たる節を次々と述べていくと、レオの顔が次第に青ざめていく。
「あの、冗談、冗談だから。それ以上思い出したくない過去の古傷をえぐるのは止めて」
「――13年生きた猫は化け猫として生まれ変わるという話を聞いたことがあるか」
「13年どころか、私が大学で下宿はじめたときにもまだ生きてたから、えーっと……15年くらい生きてたよね」
「そう、医療の進歩した現代社会では13年くらい余裕で生き延びる」
化け猫のバーゲンセール状態。
「今は16年は生きないと化け猫として認められないのだ」
「あれ、じゃあレオはちょっと足りないじゃない」
「そうだな、半人前といったところだ。しかしそれ故に無限の可能性を秘めた存在とも言える。実は魔界のとんでもない血統の持ち主だったり」
「いや、無いでしょ」
ただの茶トラと黒斑の雑種だ。間違いない。
「えっと、つまり化け猫に生まれ変わって私に会いに来てくれたってこと? それならちょっと嬉しいかも」
思い出の中の私はレオのことを結構ぞんざいに扱っていたのだが、彼の方はそれなりに懐いてくれていたのだ。
「まぁ、それもあるが。さらなる野望があるのだ」
「野望?」
私が聞き返すと、レオは部屋の中を闊歩してベランダのある窓際に立つ。
カチャッ。
ガラララッ。
「我こそがっ! この世界を支配するために遣わされた最凶の
「ちょ、やめて! 窓開けないで!」
バスタオルをもう一つ出す羽目になりました。
ええ、もちろん返ってきません。
でもなんか幸せそうな顔してるんでまぁ、いいかなって。
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