猫だって中二病したい! -私のもとに現れたのは、人の姿をした飼い猫でした-
いずも
1/5 死地に陥れて然る後に生く(訳:雨宿りしようとたまたま選んだのがここでした)
「せっかくの休みなのに雨かー」
窓越しにベランダを眺めながら、私こと
社会人になって日が浅く、貴重な休日を部屋でゴロゴロして過ごすのも悪くない、と思えるほど疲れ切ってもいないのだ。
「雨かー」
もう一度呟く。
もちろん状況は変わらない。
こないだ観た映画のように、祈るだけで晴れたりはしないのだ。
ピンポーン。
不意にチャイムが鳴った。
誰だろう。
注文していた通販の商品でも届いたのだろうか。
姿見で寝癖が無いかだけチェックして玄関へ向かう。
「はーい。どちらさまー……」
ドアを開けると、そこに居たのは高校生くらいの男の子だった。
しかも全身ずぶ濡れ。
うつむいて顔は見えないが、ツンツン頭から滴る雨粒がポタポタと足元に落ちていく。
「えっ、えっ!?」
私が混乱していると、男の子が顔を上げる。
私より少しだけ背が低いせいか、三白眼のような見上げるような瞳が印象的だった。
割とイケメン。
水も滴るって感じ。
でも幼さもあって、どちらかというと守ってあげたくなる系。
いや、ちょっとだけ、ちょっとだけ、ね。
なんか懐かしさを感じちゃって、どうしてだろ。
しばらくお互いに見つめ合う。
……いや、黙っていても何も解決しないよ?
ようやく少し落ち着いてきたところで、声をかけようとしたら向こうが口を開いた。
「――問おう。お前がオレのマスターか」
「あ、そういうの間に合ってます」
バタン、と。
真顔でドアを締めた。
「あ゛ーっ!」
外から悲鳴が聞こえる。
「逆か!? オレがお前のマスターだったのか!?」
「いや何いってんの」
「とにかく開けろ。開けてってばー。ねー。開けてくーだーさーいー!」
だんだん涙声になっていた。
「……で、あんた何者よ」
チェーン越しに少しだけ扉を開ける。
「……っ! ふ、ふはははっ! その言葉を待っていたぞ!」
しょんぼりしていたのだが、開けた途端に急に態度が変わった。
なんという変わり身の早さ。
「我こそは冥界より蘇りし、無秩序にして混沌たる帰還者。その魂を人の身に宿し――」
「あの、そーゆーのいいんで」
ちょっとだけドアを閉めようとする。
「ああっ、待て、待って! 待ってください!」
からかうと面白いなこの子。
赤の他人とは思えない。
「コホン。つまりだな、我が主、
「えっ、なんで私の名前を? もしかして、ストーカー?」
「ストーカーはお前だっただろう!」
「は!? なんのこと?」
「忘れたとは言わさんぞ。学校が休みのたびに、朝から我に付き纏っては隣の家の盆栽を蹴散らしたり、スカートでフェンスをよじ登って怒られたり、我を見失ってはしょんぼりしながら家に帰っていってばかりだったではないか」
「――!? なっ!?」
どういうこと。
そんなことを知っているのは。
「もしかして――」
私は、かつて実家で飼っていた愛猫の名前を口にする。
「シシシ!? 「レオ」
食い気味で否定された。
「シシ「レオ」
「シ「レオ!」
「レオ、な。なんでレオって名前あんのにわざわざ違う名前で呼ぶんだ!」
「えー、だって自分だけの呼び方ってあると特別感出るでしょ」
「そもそも『シシシ』ってなんだ」
「歴史の授業で
「お前がオレをそう呼ぶたびに返事していたように見えたかもしれないけれどな、あれは今みたいに否定してたんだぞ。オレの名前はレオだ、って」
「ガーン……」
そんな馬鹿な。
あれは喜んで猫なで声を出していたわけじゃなかったの!?
「……ま、いいわ。当時の私と違って今の私は大人だから。あなたがレオって呼んでほしいならそう呼ぶけど」
「ふふふ、ようやく我に屈したか……ハクシッ!」
「ああもう、いつまでもそんなところで突っ立ってたら風邪引くわよ」
私はチェーンを外し、レオを中に招き入れる。
「誰だよ外で放置したの……」
こうして、私はかつての飼い猫を自称する男の子と出会ったのである。
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