逃げ水に

光るもの 在り

轢き潰されて

滑稽な

蛙の貼りついた

炎天下の

アスファルト


夏が 終わる


  ★


暑いですねぇ

夏が壊れていますね


水をもらえません?

苔が焼けてしまいまして

熱いんですよ

石なものですから


気が利かなくてすみません

どうです?

少しは楽になりましたか?


かけてもかけても微温湯になってしまうのが悩みです


暑いですからね

こうしていつしか皆

すっかり壊れてしまうんですね


   ★


猛暑にあてられ、

外回り中の頭がハレーションを起こします。

持ってきた田中純「闇に哭く」は嵩張るし。

もっと薄い本にすれば良かった。

涼むために、ちょっと首を吊ってきますね。

では後世でお会いしましょう。


    ★


鬱蒼とした森に入ると光に馴れていた眼は影の多さに戸惑い、暫く靄を泳ぐように手探りで歩いた。視界の整わない世界で、ぽぅっと灯りが投げられ、揺れていたものに近づいてみると彼岸花が咲いてしまったことを詫びるように四、五本の群れを作っていた。また誰かが何処かで亡くなったのだ。私の、花。


    ★


午後最初の打ち合わせを終えて紅茶を飲んでいます。日傘をさす婦人、スポーツタオルで汗を拭う女子高生、暑さにしり込みする犬を連れている子供、足元に目を落とし信号が変わるのを待っている男性。僕は悩みなど内包していないようにガラスの内側で彼等を見、あと数分後には同じ光の下に出て行きます。


    ★


夏が続いている。いずれ凩に晒されれば「あの夏の」と思い出すのだろう。本当に人間とは勝手なもの、特に僕に至っては。流れる汗と周囲を焦がす陽射しが疎ましく、政治的喧噪にも苛立ちながら団子坂を上る。甲子園は準々決勝。温泉卵になる思考。鴎外先生はこの夏をどう描くだろう。坂はまだ続く。


    ★


真っ黒になるまで日焼けするなんてみっともない。女の子なのに。母が言う。私は知らん顔して音楽を聴いている。服を着る位はちゃんとしなさい!私は「はーい」と言って腰をあげる。母は知らない。日焼けした皮膚が剥がれる時に私の体の汚れも落ちて行く。そうして私は真っ白になるの。爪先から全部。

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