会社員、家政婦?を雇う

伊笠ヒビキ

プロローグ


一人暮らし。

 それはず~っとなにもない田舎の実家で学生時代を過ごし、都会の「と」もしらない人が夢見る生活だろう。

 もちろん、俺もその中の一人だ。

 近所には小さなスーパーと少し離れたところにコンビニ1件しかなく、電車は2時間に1本のスパン。

 バスも当然走っていない。

 街に行くのにも電車で片道1時間は当たり前。

 そんな超がつく田舎に数十年住んでいたので人一倍都会にあこがれていた。


 

 最寄りの大学を卒業し、やっと念願の都会での一人暮らしが始まった。


 しかし、そんな気持ちが昂っていた一人暮らし生活は一か月で泣きを見る羽目になった。


「うわ! 今日燃えるごみの日じゃん! 出すの忘れてた~」


 その次は、


「うわ寝坊した! なんで起こしてくれないんだよ! って俺しかいねぇんだった‥‥‥」


 その次も、


「うう‥‥‥風邪ひいちまった‥‥‥冷蔵庫にはなにもない‥‥‥つらい‥‥‥」


 さらには、


「ご飯つくるのめんどいなぁ‥‥‥コンビニ行ってこよ」


 そんなことが一人暮らしを始めて一か月の間に起こった事であり、いかに実家が天国だったかわかる。

 毎日ご飯作ってくれたり、ゴミ出したり、風邪の看病してくれた母ちゃんには頭があがらない。

 親のありがたみは離れてから感じるものなんだな。

 母ちゃん俺、お金たまったら親孝行するよ。

 

 そんな一人暮らしによる寂しさに免疫がついた頃だった、ある女性が家に訪ねてきて――



「八雲さん起きてください!」

「ああ」

「八雲さん! ご飯できてるんで食べてください!」

「ああ」

「八雲さん! 洗濯したものはベランダに干してあります!」

「ああ」

「その際、穴の開いたパンツを発見したので股下の部分を刺繍しておきました!」

「いや、それは捨ててくれよ!」

「もう一つTシャツの脇の部分にも穴が開いていたので羊毛フェルトで補強しつつ、星の柄をつけました!」

「さすがにダサいからやめてくれ!」


 どうしてこうなったのか。

 俺は頭を抱えながら、経緯を振り返る。

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