『真紅郎』

 

 __今までのボクの人生は、嘘だらけだった。


 国会議員の父さんはテレビでは綺麗事を語り、その裏で利用出来るものはなんでも利用し、平気で嘘を吐いて色んな人を騙すような人だった。

 そんな父親に集まる人たちも自分をよく見せようと、利益を得ようと嘘を吐き、欺瞞に満ち溢れた酷い騙し合いばかりしていた。


 だから、そんな人たちに囲まれていたボクも__嘘吐きなんじゃないかと、思っていた。


 唯一の味方は母さんだったけど、その母さんも今はいない。

 それからの父さんはボクに厳しく当たり、優秀であれ、一番であれ、他人を信じるな、蹴落として利用しろ……そればかり、言われ続けてきた。

 嫌気が差したボクは家を飛び出し、音楽に出会った。今までの鬱憤を晴らすように、ベースにのめり込んだ。


 そして、ボクはRealizeに出会った。


 最初は、やよいとウォレスの三人。そこにタケルが入り、この異世界に来てサクヤ、キュウちゃん、驚くことに憧れだったあの一条明日香までもRealizeに加入した。


 Realizeのみんなは、ボクが知っているような他人とは違っていた。


 ウォレスはいつも明るくてハイテンションで、バカなこともするけど周りをちゃんと見ている、頼れる存在。

 やよいは年下の女の子なのに初期のRealizeをまとめていたリーダーで、タケルが加入してからは女の子らしい一面を見せるようになった、気心の知れた存在。

 タケルは困っている人がいると見過ごせなくて、時々考えなしに猪突猛進なところがあるけど決めるところは決める、本人には言えないけどカッコいい憧れの存在。

 サクヤは最初は何を考えているのか分からなかったけど、意外と感情豊かで音楽の才能がずば抜けている、ちょっと生意気な弟みたいな存在だ。


 最初の頃、ボクはみんなから一歩引いた立ち位置にいた。遊んだり音楽をやる友達であり仲間だとは思っていたけど__あと一歩、前に出ることが出来ずにいた。


 その理由は、みんな素直で真っ直ぐだったから。


 嘘を吐くのが下手で、自分の感情に素直で、真っ直ぐに前を見ている。そんなみんなが、眩しかった。

 ボクの周りには、そんな人はいなかった。

 だけど、みんなのことを周りの人たちは『バカ』と呼ぶんだろう。父さんもそう評価するはずだ。


 ボクは、バカになれない。どこかで無意識にブレーキをかけて、一歩引いたところで笑うだけ。

 それが、『頭がいい』生き方だと教えられてきたから。


 でもそれは本当に……ボクがしたい・・・・・・生き方なんだろうか?



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