九曲目『希望の降臨』
Realizeの新しいメンバーと聞いて、味方陣営がざわついていた。
あの人がここに現れたら、かなり驚くだろうな。そう思いながら、演奏が始まる。
やよいが静かに奏でたアコギの音色から始まったイントロに、サクヤが滑らかなピアノサウンドを響かせる。
アコギとピアノの二重奏からウォレスのドラムと真紅郎のベースが混じり、四重奏に。
優しく、それでいて力強さも感じさせるロックバラードの演奏を聴きながら、マイクを通じて歌声を世界中に響かせる。
「しがらみばかりの日々に あの日の夢は 消えてしまった 灰に染まった空を 眺めてキミは 何を思うの?」
マイクを通した俺の歌声とみんなの演奏が、戦場に波紋のように広がっていった。
そして、俺たちの魔力が綺麗に合わさり、向かい合っている味方陣営と敵陣営のど真ん中に紫色の魔法陣が展開される。
「探したいなら 歩き出して 信じて前に 踏み出して きっと見つかる 追いかけて」
サビに向かって盛り上がっていく演奏に呼応するように、魔法陣が眩く光り出した。
さぁ、出番だ。みんなを、闇属性を、世界中を__驚かせ!
「Today is the day 想いを胸に 涙を拭いて」
サビに入ったのと同時に、強く発光した魔法陣から光の柱が空に向かって伸びる。
空を覆い尽くす暗雲を切り裂くように伸びた光の柱が、徐々に細くなっていった。
「翼を広げて 心のままに 前だけ見つめ」
サビを歌い終えると、細くなった光の柱の中に人影が見える。
そして、その姿がこの戦場にいる全員と、世界中の人の目に露わになった。
長い黒髪を後ろで結び、金の装飾が施された純白の鎧。風に揺れる白いマントと、手には俺が持っているのと同じ、柄にマイクが取り付けられた細身の両刃剣。
目を閉じたその女性は、剣を薙ぎ払って光の柱をかき消した。
「なんだと……まさか……ッ!」
その女性の姿を見て、闇属性が驚く。
ここにいる全ての人が、この戦場を見ている世界中の人たちが、唖然としているのを感じた。
<Today is the day>はある人の曲。それを、俺たちがカバーした。
その曲のライブ魔法での効果は__召喚魔法。
「__アスカ・イチジョウ!」
怒りを露わにしながら、闇属性がその人を__アスカさんの名前を叫んだ。
アスカさんはニヤリと笑うと、闇属性に声をかける。
「久しぶりね、闇属性」
「なぜ、貴様がここにいる……貴様は、もう死んでいるはずだ」
「えぇ、そうよ。ここにいる私は、属性神となった私の分身体。タケルたちが作ってくれた、魔力の体。それでも、私は間違いなく、アスカ・イチジョウ」
そう言ってアスカさんは剣を構えた。
左足を前に出して半身に構え、剣を握った右手を顔の横に持っていき、水平にしながら切っ先を前に。
空いた左手は差し出すように前に軽く伸ばしながら、まるで指揮者のように構えたアスカさんは、鋭い眼光を敵陣営に向けた。
「__英雄と呼ばれたアスカ・イチジョウにして、Realizeの新メンバー。この世界を守るため、タケルたちの道を切り開くために……今再び、現世へと舞い戻ってきたわ」
英雄アスカ・イチジョウの登場に、味方陣営から雄叫びのような歓喜の叫びが上がった。
一気に士気を上げた味方陣営の先頭に立ったアスカさんは、グッと足に力を込める。
「覚悟しなさい、闇属性。あなたの目論見は、今日終わらせる!」
そして、アスカさんが走り出した。
地面を踏み砕きながら前に出たアスカさんは、尋常じゃないスピードで敵陣営に飛び込み、剣を薙ぎ払う。
払われた剣は暴風のように敵たちを吹き飛ばし、斬り捨てられていた。
まさに英雄の一撃。アスカさんの活躍に、レイラさんが味方陣営に指示を出す。
「英雄アスカに続きなさい! 全軍、突撃ぃぃぃッ!」
『オォォォォォォォォォッ!』
足並みを揃えて、アスカさんを追うように味方陣営が戦場を駆け抜けた。
敵味方入り乱れながらの戦争が再開される中、俺は伝声管に向かって叫ぶ。
「ミリア! 今のうちに地上に!」
このまま機竜艇で城下町まで行きたいところだけど、上空のモンスターは倒しても倒した分だけ増やされる。
だから、機竜艇艦隊には上空のモンスターを任せ、俺たちは地上に降りて城下町に向かった方がいいだろう。
そう判断した俺の指示を聞いたミリアの返事が、伝声管から聞こえてくる。
「分かりました! ボルクさん、タケル様にあれを!」
「あいよ!」
俺の指示に機竜艇が降下していき、地上に近づいていく。
すると、ミリアに言われて甲板に来たボルクが、俺に向かって何かを投げ渡してきた。
それは、石が取り付けてあるイヤリングのような物だった。
「おっと……これは?」
「それは、<
「つまり、インカムか! サンキュー、ボルク!」
このイヤリング__インカムを使えば、ミリアとも他のリーダーとも会話出来るようだ。
すぐにイヤリングを付けると、機竜艇は地上スレスレを飛んでいた。
みんなに目を向けてから、甲板の柵に手をかける。
「__Realize! 行くぞぉぉぉぉぉッ!」
俺に続いて、やよいたちも一緒に機竜艇から飛び降りた。
そして、下に黒い騎士がいるのが見えた俺は、剣を構える。
「てあぁぁぁッ!」
全体重を乗せて、空中で剣を振り下ろして黒い騎士を真っ二つに斬り裂きながら着地。
その勢いのまま飛び出し、飛びかかってきた狼型のモンスターたちを薙ぎ払った。
「<ディストーション!>」
続いて、やよいは斧を地面に振り下ろし、音の衝撃波を地面に伝えて一気に黒い騎士たちを吹き飛ばす。
「ハッハッハ! やるぜやるぜやるぜぇぇぇッ!」
ウォレスは着地と同時に魔力刃を展開した二本のスティックをクロスさせるように振り下ろし、四足歩行の人型モンスターを斬り捨てた。
そして、目の前に魔法陣を展開し、思い切りスティックでぶっ叩く。
「
魔法陣から放たれた衝撃波に飲まれ、モンスターの群れが宙を舞った。
そこを、地面を滑りながらベースを構えた真紅郎が、銃口を向ける。
「一網打尽だよ……はぁぁぁッ!」
スリーフィンガーによる速弾きで弦をかき鳴らし、無数の魔力弾を放って宙を舞っていたモンスターの群れを一掃した。
さらに、姿勢を低くした真紅郎は弦を強く弾き鳴らす。
「<スラップ!>」
銃口から放たれた高密度に圧縮された魔力弾が、螺旋を描きながらモンスターの群れを貫いた。
最後に、サクヤが空中で右足を高く上げながら落下していく。
「__シィッ!」
短く息を吐きながら、サクヤは踵落としで黒い騎士を地面にめり込ませた。
地面にめり込んだ黒い騎士を中心に、地面が隆起していく。
倒れた黒い騎士を踏み台にジャンプしたサクヤは、両拳と魔力を一体化させた。
「<レイ・ブロー・
レイ・ブローの二連撃を黒い騎士の腹部に打ち込み、轟音と共に吹き飛ばす。
さらに、サクヤは両拳と両足に魔力を集め、一体化させて駆け出した。
「<レイ・ブロー・
レイ・ブローの四連撃。
右拳で狼型のモンスターを貫き、その場で回転しながら後ろ回し蹴りで黒い騎士を薙ぎ払い、勢いのまま左回し飛び蹴りで襲いかかってきたワイバーンの横っ面を蹴り飛ばした。
最後に、着地と同時に左拳で闇の兵士を後ろにいた敵を巻き込むように殴り飛ばす。
流れるような連撃を喰らわせたサクヤは、息を吐きながら両腕に装着していた蒼い籠手を打ち鳴らして構えた。
「……他愛なし」
「きゅッ!」
ボソッと呟いたサクヤの頭の上に着地したキュウちゃんは、まるで自分がやったように自慢げに鳴く。
熾烈を極める戦場に再び、Realizeが参戦した。
俺たちは顔を見合わせてから、一斉に走り出す。
「タケルたちが行くぞ! 道を作れ!」
「行けー! Realize! 走れッ!」
俺たちを見て、周りの味方たちが道を作るように動き出した。
邪魔しようとするモンスターを剣で斬り、魔法で倒し、盾で防ぐ。
みんなが作ってくれた道を駆け抜け、先陣を切って敵と戦っているアスカさんの元へと向かう。
そこで、耳につけていたイヤリングからザザッと雑音が聞こえてきた。
「__ケル様! タケル様! 聞こえますか!?」
「ミリア! 聞こえてるぞ!」
上空を飛ぶ機竜艇にいるミリアに呼ばれ、イヤリングを指で抑えながら返事をする。
すると、ホッと安心するようにミリアが息を吐く。
「よかったです。では、今から指示を出します!」
「あぁ、頼む!」
「まず……敵陣営の正面は密集していて、通り抜けるのは難しいです! 右翼の陣形が薄くなっているので、そちらから城下町へと向かって下さい!」
「分かった!」
俺たちが向かっている方向は、敵陣営の正面。そこが一番戦いが激しく、かなり密集しているみたいだ。
ミリアの指示通りに、敵陣営の右翼__向かって斜め右の方向に進路を変える。
そこで、ミリア以外の声がイヤリングから聞こえてきた。
「タケル! 聞こえてるわね!?」
「この声は……レイラさん! はい、聞こえてます!」
「さっきのミリアとの会話は聞こえていたわ! 私たち王国軍で道を切り開くから、あなたたちはそこを通りなさい!」
その声はレイラさんだった。
ミリアとの会話を聞いていたレイラさんは、俺たちが通る道を作るように王国軍に指示を出し始める。
「それにしても……まさか、またアスカに会えるなんて思ってもなかったわ」
すると、レイラさんが懐かしそうにボソッと呟く。
アスカさんとレイラさんは、親友だ。その親友の、死んだアスカさんの姿をまたこの戦場で見て、思うところがあるんだろう。
だけど、レイラさんはグッと気持ちを抑え込んで凛とした声で叫ぶ。
「いえ、今は感傷に浸ってる暇はないわね! 行きなさい、タケル! あなたたちの道は、私たちが作るから!」
「__はい!」
怒号や爆音、悲鳴の声を聞きながら、止まらずに前へ。
だけど、押し止めていた騎士たちの間をすり抜けて、狼型モンスターが俺たちに牙を剥いてきた。
「__やらせんぞ」
そこで、黒い影が横から飛び出し、一振りで狼型モンスターを斬り捨てる。
俺たちを助けてくれたその人は、隻腕の老騎士。
「ローグさん!」
六聖石の一人で、アスカさんの剣の師匠でもあるローグさんだった。
ローグさんは腕がない左袖を揺らしながら、俺たちに背中を向けたまま剣を構える。
「征け、若き戦士たち。この場は老兵に任せ、先へ進むのだ」
背中越しに笑みを浮かべたローグさんは、飛びかかってきた人型モンスターを目にも止まらない速度で振った剣で斬り払った。
「来い、有象無象ども。貴様らのような雑魚に負けるほど、ワシは老いておらんぞ__ッ!」
歳を感じさせない動きでモンスターの群れを相手取るローグさんを横切り、俺たちは走る。
「うぐッ! Realizeが通るぞ! 道を、切り拓けぇぇッ!」
「俺たちのことは気にせず、行って下さい! てぁッ!」
「負けんじゃねぇぞ! 勝って、あんたらの、おんがくを! また聴きてぇから、よぉッ!」
騎士たちの声援を受けながら、俺たちは通りやすくしてくれた道を一直線に駆け抜けていった。
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