八曲目『絶望と希望』
地上に向かって急降下する機竜艇の上で、やよいのアコースティックギターの静かな音色が激化している戦場に響き渡る。
サクヤの流れるようなピアノサウンドと共に奏でられたイントロを聴きながら、ゆっくりと吸った息と一緒に<僕は君の風になる>の歌詞を歌い上げた。
「君が迷いそうな時 僕は君の風になる 大空を吹き渡る背中を押す風になる 君が挫けそうな時 僕は君の風になる 草原をなびかせて 心地よい風になる」
Aメロが終わるのと同時に、リズム隊のウォレスと真紅郎が横ノリのリズムで演奏を始める。
音色と共に戦場に心地よい風が流れていき、地上にいる巨大な四体のドラゴンの真上に魔法陣が展開されていった。
すると、それを見たシリウスさんが味方陣営に向かって声を張り上げる。
「合図と共に、巻き込まれないように全軍退避です!」
シリウスさんを含めたユニオンマスターたちは、この曲のライブ魔法での効果を知っている。
ナイス判断、と心の中で思いつつBメロに入った。
「泣き叫びたい気持ちは抑えなくていい 君の心が 晴れるなら ゆっくりでいい 歩いて行くんだ」
ビブラートで震わせた歌声と、全員の演奏が波紋のように広がっていく。
そして、真上に展開された魔法陣が俺たちの魔力を吸収し、紫色に発光し始めた。
「羽のリングは 僕の翼 君をどこまでも 連れていく リングの石の 生まれた国 また 君と 笑いたい」
「__全軍、退避ッ!」
サビに入ったのと同時に、シリウスさんが味方陣営に向かって指示を出す。
全員が退避した瞬間、一際強く発光した魔法陣から音の重圧が放たれた。
全てを押し潰す音圧により、四体のドラゴンを含めた敵陣営が足を地面にめり込ませながら、動きを止める。
広範囲制圧魔法、それがこの曲のライブ魔法の効果だ。
メキメキと音を立て、四体のドラゴンが頭から地面に押し潰される。
「遠距離から一斉に魔法攻撃!」
シリウスさんの号令に、ユニオン連合軍が一斉に魔法を放った。
放たれたさまざまな属性の魔法が、音圧によって潰されている敵たち襲いかかる。
「グルォォォォォッ!?」
そして、一体のドラゴンが悲鳴を上げながら黒い魔力になって霧散した。
これで、残りは三体。
三体のドラゴンは上から押し潰してくる音の重圧に耐えながら、一歩ずつ味方陣営に近づこうとしていた。
魔法の嵐を受けても動き続けているドラゴンたちを見た俺は、すぐに次の曲に切り替える。
「<赤い月>」
曲名を告げると、演奏がピタリと止まった。
タイミングを見計らい、思い切り吸い込んだ息を歌声に乗せてマイクにぶつける。
「どこまでも どこまでも 果てない地平線 その上に煌めく赤 怪しげに 怪しげに 世界を彩るよ 囁かれることなく」
一音一音を力強く歌い上げると、サクヤの機械的なシンセサイザーの音色が混じり合い、戦場に響いていった。
サビから始まった<赤い月>を歌うと、やよいたちの演奏が華やかでどこか妖艶に奏でられる。
「夕闇が花を 赤く染め 赤いドレスになる夜は 君を連れ出そう 妖艶に 煌めく蝋燭のように」
ステップを踏むように抑揚をつけて歌い、色気を醸し出しながら演奏が追従する。
徐々に盛り上がっていく演奏に合わせて、三体のドラゴンの周囲を取り囲むように無数の魔法陣が出現した。
「心が躍る 血潮の躍動 情熱の火が 二人を導く」
激しさを増してサビに向かっていく演奏に呼応されるように、魔法陣から赤黒い魔力で出来た鎖が伸びる。
ジャラジャラと音を立てた無数の鎖が、三体のドラゴンに巻きつき、縛り付けた。
「どこまでも どこまでも 果てない地平線 その上に煌めく赤 怪しげに 怪しげに 世界を彩るよ 囁かれることなく」
最後のフレーズをフォールで歌い上げると、魔法陣から伸びた鎖が三体のドラゴンを持ち上げ、空中で磔にする。
磔にされたドラゴンたちに向かって魔法が撃ち込まれていくも、まだ倒せそうにない。
だったら、その魔法を強化する。
手を振り上げて、やよいたちに合図を出してからマイクに向かって次の曲を告げた。
「__<Magic>」
すると、ロックな<赤い月>から跳ねるような明るい演奏に切り替わる。
ゆったりとしたポップサウンドに合わせて、俺はマイクに向かってサビから歌い始めた。
「Music is the magic to make your dreams come true ポケットから 溢れ出した 憂いが」
熾烈な戦場に似つかわしくない曲調だけど、ヴァべナロスト王国軍の騎士たちはすぐに魔法の準備を開始する。
そして、レイラさんが号令を出した。
「全軍、魔法詠唱準備! 今度は私の合図で、一斉に発射しなさい!」
その号令に味方陣営の全員が詠唱を開始する。
この曲を知ってるからこその、的確な指示だ。
「Music is a wonderful magic that colors tomorrow 意思を持って 歩き出す 世界へ」
サビを歌い上げると、味方陣営の地面に紫色の魔法陣が展開され、その範囲にいる全員の体が淡く発光し始めた。
俺は空に向かって人差し指を立てて、このままAメロとBメロを省いてサビに入る、とやよいたちに合図を出す。
「Hello! My dream!」
祝福するように、高らかに。
空に向かって伸ばしていた人差し指を空中で磔になっているドラゴンに向けると__。
「__全軍、一斉掃射!」
レイラさんが号令を出し、味方陣営から魔法が一斉に掃射された。
<Magic>の広域魔法超強化によって、さっきよりも魔法は強化され、威力も段違いになっている。
磔にされていたドラゴンはもちろん、音の重圧によって地面に足がめり込んで身動きが取れなくなっていた敵にも魔法が襲いかかった。
爆音が轟き、七色の光が戦場を照らす。上空にまで立ち上った砂煙が晴れると、大半の敵が壊滅状態になっていた。
それを見たレイドが、声を張り上げる。
「今だ! 全軍、進めぇぇぇぇぇぇッ!」
雄叫びを上げ、味方陣営が一気に進軍していった。
城下町への門まで、残り五百メートル。敵もほぼ壊滅してる。このまま一気に、敵地へ__。
「__無駄なことを」
だけど、それで終わるほど闇属性は甘くなかった。
大気を震わせながら、闇属性の嘲笑する声が戦場に響いていく。
そして、先陣を切っていたケンタウロス族たちの目の前に、黒い魔力が噴き上がった。
「ぐぉぉッ!?」
「うあぁぁぁッ!?」
黒い魔力によって阻まれたケンタウロス族が急ブレーキすると、噴き上がった魔力の中から巨大な両刃剣が薙ぎ払われる。
咄嗟に防ぐも、その威力に負けてケンタウロス族と背中に乗っていたエルフ族が吹き飛ばされた。
すると、闇属性がクツクツと笑う。
「何度倒されようと、何度蹴散らされようと。私の力を持ってすれば、いくらでも兵は蘇る。貴様らの抵抗は全くの無駄だ」
その言葉通り、黒い魔力の中からまた黒い騎士が現れた。
他にもモンスターやワイバーン、さっき倒した巨大なドラゴンまでも復活している。
そこで、息を呑んだミリアの声が伝声管から伝わってきた。
「敵兵力、
絶望しているのはミリアだけじゃなかった。
地上にいる味方たちも復活した敵を見て、足を止めて唖然としている。
すると、闇属性の高笑いが響き渡った。
「クハハハハハハッ! そうだ! これこそが絶望だ! 絆の力などという目に見えない幻想に囚われ、曇っていた眼でしっかりと見ろ! そして、認めろ! 貴様らごときがいくら集まったところで、私に勝つことは出来な__!」
「__うるせぇぇぇぇッ!」
好き勝手言ってる闇属性の言葉を遮りように、俺はマイクに向かって叫んだ。
ビリビリと響く俺の怒声に、味方たちは目を丸くして機竜艇を見上げている。
ギリッと歯を食いしばった俺は、闇属性がいる城に向かって人差し指を向けた。
「それは俺たちだって同じだ! お前たちが何度でも蘇るなら、俺たちは何度でも倒してやる! 何が絶望だ……その程度の絶望なんかじゃ、俺たちは負けない!」
俺の言葉に、戦意を失いかけていた味方たちがザッと一歩前に出る。
負けてない。俺たちはまだ負けてない。
諦めなければ、負けじゃない。
「俺たちをナメるんじゃねぇぞ闇属性……お前こそ、その曇りきった眼でしっかりと見ろ」
__誰が、絶望してるって?
その言葉に、味方陣営の誰かが小さくもしっかりとした声で、呟いた。
「__アンコール!」
それは次第に大きくなっていく。
「アンコール! アンコール!」
波紋のように広がったアンコールは、地上にいる全員が合唱していった。
アンコールの大合唱に、魂が燃え滾っていく。
するとそこで、
その音色を聞いた俺は、小さく笑みをこぼす。
「闇属性、お前に見せてやるよ。絆っていう目に見えないけど、確かにある力を__
一万の敵? そんな戦局、なんてことはない。
絶望? そんなもの、
「ハロー! 俺たちRealizeの新しいメンバーを紹介するぜ! 世界中のみんなが知ってる、あの人だ!」
笑みを携えて、マイクに向かって曲名を告げた。
「<Today is the day!>」
出番を待っているあの人を召喚する、唯一の曲__ライブ魔法を始めよう。
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