二十三曲目『Realizeメドレーライブ』

 俺とヴァイクは拠点を走り抜け、結界と外の境界まで急ぐ。

 そこでは騎士団たちがモンスターの侵入を防ごうと、必死に戦っていた。

 それを見たヴァイクは体に巻きつけているいくつものホルスターから、二丁のフリントロック式の銃を引き抜き、引き金を引く。

 二丁の銃口から放たれたのは、風の刃ウィンド・スラッシュ炎の槍フレイム・ランス

 風の刃と炎の槍は騎士と戦っていたオークの群れに直撃し、他のモンスターを巻き込んで吹き飛ばした。

 ヴァイクは撃ち終わった二丁の銃をホルスターに戻し、新しく二丁の銃を抜きながら俺に目を向ける。


「……俺はこのまま結界の防衛に回る」

「分かった! 俺たちは最前線で戦う!」


 ヴァイクは結界の防衛をしている騎士団たちに混ざり、俺はそのまま戦場に飛び出した。

 すると、後を追っていたやよいたちが俺と合流する。


「タケル! レイラさんに会えた!?」

「あぁ! 今にも前線に殴り込もうとしてた!」


 斧を振り下ろしてアーマーリザードを押し潰しながら、やよいは俺に声をかけてくる。対して俺は、やよいの後ろにいたオークを斬り捨てて答えた。

 そこに紫色の魔力弾が上から降り注ぎ、他のオークたちに着弾する。

 魔力弾を放った真紅郎は銃口から硝煙を漂わせながら、苦笑いを浮かべた。


「あはは……レイラさんらしいね」

「ハッハッハ! それで! 今からどうするんだ!?」


 ウォレスは二本のドラムスティックに纏わせた魔力刃を巧みに振り、オークの体に無数の傷を刻みながら聞いてくる。

 そして、最後に魔力を纏わせた拳をウォレスが斬りつけたオークに叩き込み、遠くまで吹き飛ばしたサクヤが口を開いた。


「……かなり、多い。キリがない」

「俺もそう思う! 騎士団もそんなに持ちそうにない!」


 俺たちは話し合いながら、モンスターたちを片付けていく。

 ザッと見る限り、上空を飛び回っているワイバーンを含めて__六百体・・・以上。

 しかも、その数は減るどころかどんどん増えている気がした。


「……やるしかないか」


 戦況はこっちがかなり不利。前触れもなく奇襲をかけられ、対応が遅れて後手に回っている状態だ。 

 だったらまずは、前線を押し戻すことが最善。

 そう判断した俺は、オークを斬り捨てながらみんなに叫ぶ。


「__全員、定位置に着け! ライブするぞ!」


 ここはライブ魔法で、モンスターの群れを一掃する。

 俺の呼びかけに全員ニヤリを笑い、目の前にいるモンスターを片付けてから定位置に着いた。

 剣の切っ先を地面に突き立てて柄に取り付けてあるマイクを口元に持ってきた俺は、思い切り息を吸い込んで__マイクに声を叩きつけた。


「__ハロー! ヴァべナロストを守る勇敢な騎士諸君! 俺たちRealizeが戻ってきたぜぇぇッ!」


 マイクを通した俺の声が、戦場にビリビリと響き渡る。

 モンスターと戦っていた騎士団たちは驚いたように俺たちの方に目を向けてから、疲労に染まっていた表情が一転して歓喜に変えた。

 戦場に雄叫びに似た歓声が沸き上がる。絶望的な空気が、希望と期待の空気になっていった。

 騎士たちの反応に口角を歪ませながら、続けてマイクに向かって声を張り上げる。


「Realize再来ライブを今から始める! その間、どうにか持ち堪えてくれ!」

「__オォォォォォォォォッ!」


 騎士団たちは野太い声で返事をすると、足並みを揃えて動き出した。

 モンスターにライブを邪魔されないように、俺たちを取り囲んでモンスターと戦い始める。

 これなら思う存分、ライブをぶちかませそうだ。


「みんな、準備はいいか!?」


 振り返りながら、声をかける。

 すると、ギターを構えたやよいが楽しそうに頬を緩ませた。


「もちろん! 早速、お披露目だね!」


 次にベースを構えた真紅郎が、小さく笑みをこぼす。


「どのくらいライブ魔法が最適化されてるか、楽しみだよ」


 続けて、目の前にドラムセットを模した魔法陣を展開したウォレスが、ドラムスティックを天に掲げながら豪快な笑い声を上げた。


「ハッハッハ! 生まれ変わったRealizeのパワー、見せつけてやろうぜ!」


 最後に、開いた魔導書から魔力で出来たキーボードを展開させたサクヤが、親指を立てる。


「……全力で、やる。終わったら、ご飯」


 全員の準備が整ったのを確認してから、俺は改めてモンスターの軍勢に目を向けた。

 そこでは俺たちの壁になってくれている騎士団を押しながら、ヴァべナロストに向かおうとしているモンスターたちの姿。

 俺はそいつらに向かって人差し指を向けて、不敵な笑みを浮かべる。


「モッシュもダイブも、マナー違反だぜ? そんなアンモラルな奴らには……ドデカいの、お見舞いしてやるよ」


 チラッとウォレスに目で合図すると、ウォレスはドラムスティックで魔法陣を叩き、ビートを刻んでいく。

 激しさを増すビートに合わせて肩を揺らし、ゆっくり息を吸い込みながら__マイクに向かって曲名を告げた。


「ライブはマナーを守って、楽しく聴くもんだ。アンチマナーな客には、お帰り願うぜ__<壁の中の世界>」


 そして、やよいはディストーションを強くかけた音をかき鳴らす。

 やよいに続くように、ウォレスの激しいドラム、真紅郎の這うようなベース、演奏に彩りを加えるサクヤのキーボードの音色が戦場に轟いた。

 炸裂するように始まったイントロ。縦ノリのリズムに肩を揺らして、Aメロを歌い始める。


「君に届いているだろうか あの日の地の温もりは 君に聞こえるているだろうか あの日君に伝えたかった言葉は」


 演奏しながら俺たちは、魔力をライブ魔法が発動する最低限にまで最適化させていく。

 音と魔力を調律し、完全に均一化すると__俺たちの周りを取り囲むように、無数の紫色の魔法陣が展開された。

 魔法陣は俺たちの魔力を吸い込み、演奏に合わせて眩く発光し始める。


「遠く離れた見知らぬ土地で 君は同じ空を見て何を思う?」


 Bメロに入り、ウォレスのドラムが激しさを増していった。追いかけるように真紅郎は上体を低くしながら、ベースの重低音を奏でていく。

 やよいは疾走するようにギターを弾き、サクヤは跳ねるように鍵盤を叩いて機械的なシンセサイザーの音を響かせた。


「金魚鉢を買った 部屋の小窓に置いた 水も砂も 魚も入れずに」


 Cメロの歌詞を歌い終わり、サビに入る前に全員の演奏が一瞬だけ止まる。

 無数の魔法陣は魔力の充填を終え、早く撃たせろと言わんばかりに紫色に強く発光していた。


 いいぜ。思う存分、ぶっ放せ__ッ!


 静けさを打ち破るように演奏が再開し、駆け抜けるようにサビに入った。


「夜になると 君が見ているだろう星を入れるために 僕の声は小さな部屋でしか響かない」


 サビに入った瞬間、無数の魔法陣から紫色の光線が放たれる。

 <壁の中の世界>は、対軍殲滅砲撃魔法。まさに、今の状況に打って付けのライブ魔法だ。

 紫色の光線は騎士団と戦っていたモンスターの軍勢を薙ぎ払い、吹き飛ばす。

 モンスターの悲鳴と、地面を砕く音、放たれた光線が奏でる轟音が響く中、俺たちは演奏を続けた。


「音は 広がる 世界を超えて 音は 繋がる 君にどうか」


 音程を下げながらシャウトし、一番の歌詞を歌い終わる。

 足並みを揃えてヴァべナロストに行軍していたモンスターたちは、無慈悲に放たれる無数の光線の嵐に逃げ惑い始めた。

 散り散りになっていくモンスターたちが、光線から逃れようと走る。

 それを見た俺は手のひらを動かすと、その動きに合わせて魔法陣が動き、逃げるモンスターを追尾して光線が放たれた。

 

「__今だ! 押し戻せぇぇぇぇッ!」


 その声を皮切りに、騎士団たちが動き出す。

 俺たちのライブ魔法によってモンスターの軍勢に穴が空き、押し返すチャンスが生まれた。

 騎士団たちは雄叫びを上げながら進軍し、徐々にモンスターの軍勢を押し返す。

 攻め込まれ、防戦一方だったヴァべナロストが__ようやく攻勢に出ることが出来た。


「この機を逃すな! 攻めろ攻めろぉぉぉッ!」

「おんがくを聴きながら戦えるなど、早々ない! 気分が高揚するな!」

「あの方々がいれば、勝てるぞ!」


 音楽を聴いて、騎士団たちの士気がうなぎ上りになっていく。

 苛烈な戦いの中でも音楽を楽しんでくれて、思わず笑みがこぼれた。

 ふと、俺は空を見上げる。そこには無数のワイバーンが飛び回り、押し返されつつあるモンスターの軍勢の援護をしようとしていた。

 すると、機竜艇が全速力で旋回しながら撹乱し、徐々にワイバーンの群れを一箇所に集めていく。


「__次、行くぞ!」


 ここが、好機だ。

 そう判断した俺は歌うのをやめて、上空にいるワイバーンを指差す。

 

「<僕は君の風になる>」


 静かに次の曲を告げると、激しいロック調の<壁の中の世界>からロックバラードの<僕は君の風になる>に演奏が移り変わった。

 やよいはエレキギターからアコースティックギターの音を変え、切なさを感じさせる静かな音色を奏でる。

 そこにサクヤが機械的な音シンセサイザーからピアノサウンドに変えて、流れるように音色を響かせた。

 二人が奏でるイントロを聴きながら、ゆっくりと息を吸って囁くように歌い始める。


「君が迷いそうな時 僕は君の風になる 大空を吹き渡る背中を押す風になる 君が挫けそうな時 僕は君の風になる 草原をなびかせて 心地よい風になる」


 神域での修行によって、俺たちはライブ魔法で消費する魔力を極限まで・・・・抑えることが出来るようになった。

 災禍の竜との戦いでもやった、ライブ魔法の連続使用__メドレーライブ。

 その時以上に俺たちは流れるように、余裕を持ってライブ魔法が使える。


「泣き叫びたい気持ちは抑えなくていい 君の心が 晴れるなら ゆっくりでいい 歩いて行くんだ」


 Bメロの歌詞を歌い、ウォレスと真紅郎のリズム隊が横ノリのリズムで演奏していく。

 戦場に吹く穏やかな心地よい風のような演奏に合わせ、一箇所に集まっていたワイバーンたちの上空に大きな紫色の魔法陣が展開された。

 やよいのギターがサビに向かって力強くかき鳴らされ、サクヤのピアノサウンドが弾むように響く。

 その音色に合わせて、俺はマイクに向かってサビを歌い上げた。


「羽のリングは 僕の翼 君をどこまでも 連れて行く リングの石の 生まれた国 また 君と 笑いたい」


 俺たちの演奏が波紋のように広がり、上空に展開していた魔法陣が魔力を充填して光り輝く。

 そして、一際強く発光すると、魔法陣から音の重圧がワイバーンの群れを押し潰した。

 <僕は君の風になる>は音の重圧で敵を押し潰す、広範囲制圧魔法。

 その効果によって飛び回っていたワイバーンの群れが、地面に向かって一気に墜落していった。


「グ、ゲ……ッ!?」


 ワイバーンの群れは苦悶の表情を浮かべながら、音圧に潰される。

 地上にいたオークやアーマーリザードも、メキメキと地面にめり込んでいった。

 地面に押し付けられて身動きが取れずにいるモンスターの軍勢。その隙を逃さず、騎士団たちが剣や槍で攻撃していく。

 ライブ魔法を操作して騎士団たちを巻き込まないようにしながら、俺は機竜艇が誘導してくれた残りのワイバーンの群れも地面に落としていった。

 六百以上もいたモンスターの軍勢は、一気にその半数以上が殲滅している。

 一転攻勢。このままモンスターの軍勢を全滅させる……そのつもりだった。


 __地面がグラグラと揺れるまでは。


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