二十一曲目『Realizeの参戦』

 闇属性の軍勢に襲われているヴァべナロストに向かうために、俺たちは準備を整える。

 その時、やよいが慌てた様子で俺たちに駆け寄ってきた。


「み、みんな大変!」

「どうした、やよい!」


 血相を変えて走ってきたやよいは、腕に眠ったままのキュウちゃんを俺たちに見せる。


「キュウちゃんが目を覚まさない! どうしよう!?」

「まだ起きないのか……」


 この神域に飛ばされてから、キュウちゃんは一向に目を覚ます様子がない。

 体に異常はないってことでソッとしていたけど、今からヴァべナロストに向かって戦いになるのに、このまま放って置く訳にはいかないよな……。

 キュウちゃんをどうしようかと悩んでいると、アスカさんが声をかけてくる。


「準備出来たよ! みんな、急いで!」

「あ、アスカさん! キュウちゃんどうしよう!?」

「キュウちゃん?」


 やよいに泣きつかれたアスカさんはキュウちゃんを見つめると、力強く頷いた。


「そうだね、キュウちゃんは私が預かるよ。さすがにこのまま戦場に送り出すのは、危険だからね」

「いいんですか!?」

「うん。キュウちゃんが目を覚ましたら、すぐにそっちに送り出すよ。だから、心配しないでキミたちはヴァべナロストに向かって」


 アスカさんの提案に乗って、キュウちゃんを預けることにする。

 やよいは小さく寝息を立てているキュウちゃんの頭を優しく撫でてから、ムンッと気合いを入れた。


「キュウちゃんをお願いします! みんな、準備はいい?」

「ハッハッハ! 当然、出来てるぜ!」

「うん、大丈夫だよ」

「……やるぞー」


 やよいの呼びかけにウォレス、真紅郎、サクヤが答える。

 そして、やよいは俺の方に目を向けた。


「タケルは?」

「あぁ、いつでも行ける。アスカさん、お願いします」

「うん、こっちだよ」


 俺たちはアスカさんに連れられて、武家屋敷の玄関前に向かう。

 そこには紫色の魔力の渦が作り出され、大きなトンネルのようになっていた。

 魔力の渦の前に立った俺たちは、キュウちゃんを抱いたまま心配そうに俺たちを見つめるアスカさんの方を振り返る。


「それじゃあ、行ってきます」

「……私はここで見守ることしか出来ない。みんなが大変な時に、何も出来ない無力な神様。それでも__ッ!」


 自嘲するように首を横に振ったアスカさんは、気合を入れ直すように頬をパチンと叩いた。

 そして、ニッと笑いながら親指を立てる。


「キミたちのことを、ここから応援してる! それに、キミたちならきっと大丈夫。だって__Realizeが揃えば、無敵なんでしょ?」


 アスカさんの言葉に、俺たちは頬を緩ませた。


「ハッハッハ! そうだぜ! オレたち全員が揃えば誰であろうと関係ねぇ!」

「アスカさんはここでボクたちが勝つところを見てて下さい」

「そうそう! それに、あの憧れのアスカさんに応援されたら、闇属性なんて楽勝!」


 ウォレス、真紅郎、やよいが笑いながら親指を立てて返していると、サクヤはアスカさんを見つめながら口を開く。


「……アスカも今は、Realizeの一員」

「あはは! うん、そうだね。私もRealizeの一人! 離れてても、一緒だよ!」


 サクヤの言葉に嬉しそうに頬を綻ばせるアスカさん。

 そうだ、アスカさんは今やRealizeの一人だ。神様だとか英雄だとか、関係ない。

 仲間が応援してくれるだけで、俺たちは強くなれる。


「よし、みんな行くぞ!」


 俺の呼びかけに全員頷き、同時に魔力の渦の中に飛び込んだ。

 その瞬間、俺たちの体は奥へと吸い込まれていき、視界が一転する。

 全てを飲み込む青白い魔力の奔流が、うねりを上げて渦を巻いている真っ白な空間__時空の渦。

 俺たちは時空の渦の奔流に飲み込まれることなく、アスカさんが作ってくれた紫色の魔力のトンネルを一直線に進んでいった。

 トンネルの先に、白い光が見える。多分、そこがゴールだ。


「__全員、あの光の先を通ったら戦闘態勢に入るぞ! 油断するなよ!」


 どんどん近づいていく白い光に吸い込まれながら、俺はみんなに叫ぶ。

 そして、白い光はより一層輝きを増して、眩い光が俺たちを包み込んだ。


「うぉっと!?」


 光が消えた瞬間、足が床に着いて慌ててバランスを取る。

 振り返るとそこには、古い大きな石板が鎮座していた。


「戻って、きたのか?」


 俺たちが立っているのは、機竜艇の倉庫。最初に俺たちが神域に吸い込まれた場所だった。

 無事に戻って来れたことに安心しつつ、俺たちは魔装を展開して戦闘態勢に入る。

 すると、外から爆発音が鳴り響き、ビリビリと機竜艇が揺れ動いた。


「__回避だ! 面舵いっぱい!」


 機竜艇の内部に張り巡らされた伝声管から、野太い男の声が聞こえてくる。

 それを聞いた俺はすぐに伝声館に向かって叫んだ。


「ベリオさん! ベリオさん、俺です! タケルです!」

「あぁ!? た、タケルか!? 今までどこに行ってやがった!?」


 男の声の正体は、機竜艇の船長。<ドワーフ族>と人間のハーフ、ベリオさんだ。

 切羽詰まった様子のベリオさんの声が伝声管から聞こえ、すぐに返事をする。


「説明は後で! それより戦況は!?」

「ちぃッ! 今、ヴァべナロスト上空でモンスターの軍勢と戦闘中だ! 数が多い! とにかく、操舵室に来い!」

「分かりました! みんな、行くぞ!」


 俺たちは倉庫から飛び出て、足早に操舵室に向かった。

 操舵室の扉を開くと、舵輪を忙しなく回しながら指示を出す髭面の大柄な男、ベリオさんの姿。

 ベリオさんは俺たちに気付くと、鼻を鳴らした。


「どこほっつき回ってやがった! 遅刻した分、働いて貰うからな!」

「た、タケル兄さん! みんな! ご無事で何より!」


 ベリオさんに続いて機竜艇の計器を確認していた少年、ボルクが嬉しそうに声をかけてくる。

 色々話したいところだけど、今は戦況の確認が先だ。


「心配かけてごめん! ヴァべナロストは無事!?」

「結界でどうにか持ち堪えてるが、そんなに持たねぇ! 地上で騎士団連中と<六聖石>が最前線で張ってるが、押し込まれつつある!」


 選ばれし六人の騎士__六聖石と騎士団が最前線で戦ってるけど、数の暴力に押されてるとベリオさんが声を張り上げて伝えてくる。

 窓から地上を見てみると、物凄い数のモンスターがヴァべナロストに向かって押し寄せていた。

 空中には翼と前足が一体化しているドラゴン種の<ワイバーン>、地上には豚の顔をした<オーク>を始めとして、色んな種類のモンスターが大挙している。


 そして、その全てのモンスターから、闇属性の魔力を感じ取った。


「なんて数だ……ッ!」

「ヘイ! このままだと結界がぶっ壊れてちまうぜ!?」

「急がないと__危ない!?」


 窓から状況を確認していたやよいが、機竜艇に向かってくるワイバーンに気付いて声を上げる。

 そのままワイバーンは機竜艇に攻撃をしようとした時、機竜艇の甲板から放たれた風の刃によって切り裂かれ、地面へと落下していった。


「今のは……」

「シリウスが甲板で援護射撃してる! こっちも砲撃したいが、人が足りねぇ!」


 シリウスさん__ユニオンを取り纏める最高責任者。<エルフ族>の上位種族<ハイ・エルフ族>の男だ。甲板で魔法を放っているのはシリウスさんだったのか。

 機竜艇も砲撃したいけど、船員がいないから出来ないとベリオさんは舌打ちする。

 俺は顎に手を当てて思考を巡らせ、ベリオさんに向かって叫んだ。


「俺たちは地上に降りて前線に向かいます! 高度を下げれますか!?」

「止まってる時間はねぇ! 地上スレスレまで高度を下げるから、適当に飛び降りろ!」

「それでいいです! あと、ベリオさんたちは機竜艇で上空にいるモンスターを牽制して下さい! 出来れば一纏めに集めて!」

「フンッ、戻ってくるなり無理難題を押し付けてきやがって……ッ!」


 俺の指示にベリオさんは鼻を鳴らしてから、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 そして、ガラガラと舵輪を回しながらボルクに向かって声を張り上げた。


「聞いたなボルク! 急降下してからまた一気に急上昇するぞ! 炉の火を上げろ!」

「了解、親方!」


 ボルクはパチンパチンとスイッチを押し、レバーを引き上げる。

 すると、機竜艇の心臓部がドラゴンの咆哮のような音が鳴り響いた。

 そのまま機竜艇はグンッと地上に向かって急降下していく。


「甲板から降りろ!」

「分かりました!」


 俺たちは操舵室を出て、甲板に走った。

 そこでは白に近い長い金髪を後ろで結んだ、眼鏡をかけた柔和な青年__実際は長い年月を生きているシリウスさんの姿。

 シリウスさんは俺たちを見て目を丸くすると、すぐに優しげな笑みを浮かべていた。


「タケルたち、戻ってきたんですね。ご無事で何よりですよ……こんな状況で言うのもなんですが」

「すいません! 後で説明します! 俺たちは今から甲板から飛び降りて前線に向かいます!」

「そうでしょうね。いきなり急降下されて驚きましたけど、キミたちを見てすぐに察しました。せめて一言、声をかけてもいい気がしますけどね」


 やれやれと肩をすくめながら、シリウスさんは魔法を唱えて風の刃を飛ばす。

 放たれた風の刃は襲いかかってきたワイバーンを真っ二つにした。

 そうこうしている内に、地上がかなり近くなっている。俺たちは甲板から身を乗り出し、タイミングを見計らった。


「着地と同時に、ぶちかますぞ!」


 地上に対して鋭角に近い角度で急降下する機竜艇の上で、俺はみんなに向かって叫んだ。

 全員が頷いたのを確認してから、俺は腰元にあるパワーアンプを起動した。


「__行くぞぉぉぉぉ! <ア・カペラ!>」


 音属性の魔力が体から噴き出し、敏捷強化アレグロ一撃超強化フォルテッシモの効果が俺に付与される。

 そして、体に纏っていた真紅のマントを頭まですっぽりと覆いながら、甲板から勢いよく飛び出した。

 すると、俺が飛び出した先にワイバーンが躍り出てくる。

 俺に向かって火球を放ってきたワイバーンに、俺はそのまま火球に向かって錐揉み回転しながら突っ込んだ。


「__うぉぉぉぉぉぉッ!」


 真紅のマントは先生からの贈り物、並大抵の攻撃を通さない特別性のマントだ。

 火球を物ともせずに雄叫びを上げて回転しながら剣を振り、火球を斬り払う。

 紫色の光の尾を引きながら火球を突破した俺は、目の前にいるワイバーンに向かって突撃した。


「最初から、全開だ!」


 息をするように剣身と魔力を一体化させ、回転した遠心力を使いながら一気にワイバーンに向かって剣を薙ぎ払う__ッ!


「__<レイ・スラッシュ!>」


 紫色の閃光となった俺は、すれ違い様にワイバーンを斬り裂く。

 剣を振り抜いた体勢で地面を削りながら着地した俺は、すぐにオークの群れへと駆け出した。

 稲妻のように鋭角に走りながら剣を振り、一気に三体のオークを斬る。


「行くよぉぉ! <ディストーション!>」

「ハッハッハ! 吹っ飛べブラストオフ! <ストローク!>」

「みんな、油断しないでね! <スラップ!>」

「……<レイ・ブロー>」

 俺に続くように、やよいは着地と同時に斧を地面に振り下ろし、地面を隆起させながら音の衝撃波でオークの軍勢を吹き飛ばす。

 ウォレスは空中で紫色の魔法陣を展開させるとドラムスティックを叩き込み、上から音の衝撃で押し潰した。

 真紅郎は着地してから片膝を着き、力強くベースの弦を弾いて高密度に圧縮された魔力弾でオークたちを撃ち抜く。

 最後にサクヤは魔力と一体化させた拳をオークに叩き込み、他のオークたちを巻き込むようにふっ飛ばす。


 __闇属性の軍勢とヴァべナロストの戦いに、俺たちRealizeが参戦した。



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