十三曲目『集結するRealize』

「タケル! そこからすぐに逃げて!」


 立ち止まったままの俺に真紅郎が叫ぶと、バジリスクに向かって魔力弾を放った。

 無数の魔力弾が弧を描き、あらゆる方向からバジリスクを襲う。

 すると、胴体と顔を繋いでいる黒いヘドロが蠢き、爆発したように大きく広がった。


「な……ッ!」


 驚いたことにバジリスクは広げた黒いヘドロで全ての魔力弾を受け止め、飲み込んだ。俺たちが戦った黒いヘドロで出来たモンスターと同じように。

 さっきまでのバジリスクならダメージを与えられたけど、黒いヘドロを自由自在に操作する今のバジリスクには、光属性以外の攻撃は効かないだろう。


「ジャアァァァァァッ!」


 雄叫びを上げたバジリスクは黒いヘドロを無数の鋭い針のように変化させ、防御に使っていた黒いヘドロを攻撃に使ってきた。

 無数に伸びた黒いヘドロの針は俺たち全員に向かって、雨のように降り注いでくる。

 俺たちは散開し、針に貫かれないよう走り出した。


「数が、多い__ッ!」


 だけど、避けきれない。俺は剣を振り、向かってくる針を斬り払う。 真紅郎は木を盾にしながら魔力弾で撃ち抜き、サクヤとウォレスは野生的な動きで躱していく。

 針は細いからどうにか捌けているけど、長時間は持ちそうにない。完全に劣勢に追い込まれ、どうにか打開策を考える。

 あのバジリスクを倒すには、光属性しかない。だけど、今の現状で光属性の魔力を引き出すために集中することは不可能だ。

 その時間稼ぎをお願いしたいけど、真紅郎たちもバジリスクの猛攻を避けるのに必死で難しい。

 舌打ちしていると、視界の端でバジリスクの太い尻尾が振り上げられているのが見えた。


「しま__ッ!?」


 黒いヘドロの針を捌くこと、打開策を考えることに思考を割いていた俺は完全に反応が遅れる。

 その間に尻尾は野太い風切り音を轟かせながら、俺に向かって薙ぎ払われた。

 どうにか剣を盾にして受け止めたけど、威力と衝撃に耐え切れずに軽々と吹き飛ばされる。


「__ガッ!?」


 吹き飛ばされた俺は木に背中から叩きつけられ、その衝撃に肺から空気が強制的に吐き出された。

 脳が揺らされ、ズルズルと木に背中を押しつけたまま尻持ちを着く。


「ジャラララ……」


 動けなくなった俺を見て、バジリスクが嗤うように喉を鳴らした。

 そして、ぼやけた視界でバジリスクの瞳に赤黒い魔力が集まっているのが見える。


「く……あ……」


 ここから逃げたくても痛みで体が思うように動けない。

 俺を助けようと真紅郎とウォレス、サクヤが近寄ろうとしても黒い針の猛攻が阻んでいた。

 そして、魔力を集め終わったバジリスクは俺に向かって石化光線を放とうとしている。


「__タケル!」


 遠くでアスカさんの叫び声が聞こえた。

 その声に体が反応し、剣を地面に突き立てながらここから逃げようとする。

 だけど、もう遅かった。無常にもバジリスクは俺に向かって石化する赤黒い光線を目から放つ__。


「__<ディストーション!>」


 その直前、聞き慣れた声・・・・・・が響き渡った。

 そして、音の衝撃波が地面を隆起させながらバジリスクへと向かい、胴体に直撃する。


「ジャアッ!?」


 思わぬ攻撃に避けられなかったバジリスクは驚いたように叫び、衝撃波によって木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいった。

 衝撃波を放った張本人は地面にめり込んでいた斧型の赤いエレキギターを、力一杯引き抜く。

 風で靡く長い綺麗な黒髪。勝気そうな目を釣り上がらせ、鼻を鳴らすRealizeのギタリスト。


「__さっきからうるさい!」


 ずっと眠ったままだったやよいが、プンプンとバジリスクに向かって怒鳴っていた。

 まさかの助太刀に思わず笑みをこぼしながら、剣を杖にして立ち上がる。


「やよい、起きたんだな……よかった」


 その華奢な体格からは想像がつかないほどの膂力で固有魔法のディストーションを使ってバジリスクを吹っ飛ばしたやよい。

 助けられた俺たちは笑みを浮かべながら、やよいに近寄って集まった。


「ハッハッハ! ナイスタイミングだったぜ、やよい!」

「うん、助かったよ。ありがとう」

「……起きて、よかった」


 ウォレス、真紅郎、サクヤの言葉にやよいは自慢げに胸を張りながら、頬を緩ませる。


「ふふん、まぁね! というか、どういう状況? 起きたら日本っぽい家の中だし、外は騒がしいし。あの化け物は何? そもそも、ここどこ?」


 目を覚ましたばかりで状況が飲み込めていないやよいは、矢継ぎ早に俺たちに聞いてくる。

 説明してあげたいけど、今はそれどころじゃない。

 

「やよい、説明は後だ。まずは……」

「うん、それもそうか。まずは……」


 やよいもそれが分かっているんだろう。同意するように頷いてから、ビシッと屋敷の方を指差した。


「__なんで一条明日香さんがここにいるのかを聞かないとだよね!?」

「__そこかよ!?」


 まずはあのバジリスクを倒さないと、って言うところじゃないのか!?

 最初に聞きたいのはアスカさんがどうしてここにいるのかかよ!?

 やよいに指を差されたアスカさんは目を丸くしてから、おずおずと笑いながら手を振っていた。

 それを見て、やよいは頬を赤らめながらキラキラとした眼差しをアスカさんに向けている。


「うわぁ、本物だぁ。本物の一条明日香だぁ……綺麗だなぁ、可愛いなぁ……」

「やよい、憧れてるのは分かるけど今は__」

「ハッハッハ! ちなみに、Realizeの新メンバーになったんだぜ!」

「嘘ッ!? 一条明日香がRealizeに!? 何それ最高過ぎでしょ!?」

「……ぼくが、提案した」

「ナイスだよサクヤ! 偉い!」


 憧れのアスカさんに見惚れるのは分かるけど、とにかくそれどころじゃないだろと言おうとする俺。

 だけど、ウォレスがRealizeにアスカさんが加入したことを話され、完全に置いてけぼりにされた。

 キャイキャイとはしゃいでいるやよいに、俺は深くため息を吐く。


「あはは……やよい、アスカさんのことは後で説明するから落ち着いて?」

「絶対に教えてよ!? というか、あたしを差し置いて一条明日香と仲良くなってるなんて……タケル、説教」

「俺が!? いや、いい。よくないけど」


 どうして俺が説教されるんだよと文句を言いたかったけど、無視しよう。

 そんなことを話していると、吹き飛ばされていたバジリスクが起き出して俺たちを睨みつけていた。

 やよいはフンッと鼻を鳴らしてから、バジリスクを見据える。


「で、あれは何?」

「バジリスクって言う、闇属性が差し向けてきたモンスターだ。目から石化する光線を放ってくる」

「うぇ、面倒。早いところ倒しちゃおうよ」


 バジリスクの説明をすると、やよいはウゲッと顔をしかめながら斧を構えた。

 化け物を前にしてもいつも通りなやよいに、俺は口角を上げて笑う。


「あぁ、そうだな。さっさと倒そう」


 俺の言葉に真紅郎たちも笑いながら構えた。

 そこで、ウォレスがニヤリと不敵に笑う。


「これでようやく、Realize全員が揃ったな!」

「……Realizeが揃えば、無敵」

「うん、そうだね。ボクたちが揃えば、あのバジリスクなんてもう怖くないよ」


 ウォレスに続いてサクヤ、真紅郎が続く。

 あぁ、そうだ。俺たちが揃えば、誰であろうと関係ない。


「__全員であいつをぶっ飛ばすぞ!」

「__ジャララララララァァァッ!」


 かかってこいと言わんばかりに、バジリスクが雄叫びを上げる。

 俺たちは動き出し、バジリスクに向かって駆け出した。


「やよい! 起きたばかりで悪いけど、タケルの援護をお願い! タケルは光属性を!」

「分かった!」

「頼んだぞ! どうにか時間を稼いでくれ!」


 走りながら真紅郎は俺とやよいに指示を出す。

 次に真紅郎はウォレスとサクヤに目を向けながら、続けて指示を出した。


「サクヤはやよいのフォローを! ウォレスは撹乱して!」

「ハッハッハ! 任せろ!」

「……頑張る」


 ウォレスは笑いながら地面を蹴って先陣を切り、真紅郎は立ち止まってしゃがみながらベースを構えて銃口をバジリスクに向ける。

 俺は光属性の魔力を引き出すために立ち止まって剣を青眼に構えて集中し、やよいとサクヤが俺を守るように両サイドに立った。

 Realize全員と異形と化したバジリスクとの、最後の戦いが幕を開けた。

 

   

 

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