『哀しきドラゴンの物語』
むかしむかしあるところに、いっぴきのちいさなドラゴンがいました。
そのドラゴンはおだやかで、やさしいドラゴンでした。
だけど、そのドラゴンにはともだちがいません。かぞくもいません。ずっとひとりぼっちでした。
それは、そのドラゴンがまっしろなからだをしていたからです。
ゆきのようにしろいそのからだは、ほかのドラゴンとはちがうものでした。
そのせいでドラゴンはいじめられ、なかまはずれにされてしまったのです。
でも、ドラゴンはおこりませんでした。
やさしいやさしいドラゴンは、くらいどうくつでくらすことにしました。
くらいどうくつで、たったのいっぴきでくらすドラゴン。
ふと、ドラゴンはおもいました。
どうしてぼくは、みんなとちがうんだろう?
◇
あるひのこと。ドラゴンがくらしていたどうくつに、ひとりのにんげんがまよいこんできました。
みたこともないにんげんに、ドラゴンはとまどいます。すると、にんげんはドラゴンにはなしかけました。
やぁ。きみはひとりなのかな?
ドラゴンがうなづくと、にんげんはわらいました。
なら、わたしとおなじだ。わたしもひとりなんだ。
にんげんのことばに、ドラゴンはおどろきました。
ぼくと、おなじ?
ドラゴンのことばは、にんげんにはわかりません。だけど、にんげんはまるでわかっているのか、うなづきました。
そうだよ。わたしたちは、おなじさ。
ドラゴンはうまれてはじめて、なかまをみつけました。
◇
にんげんとであってから、ドラゴンははじめて「たのしい」というきもちをしりました。
にんげんはせかいを◼️◼️いながら、たびをしているとはなしていました。
せかいにはおおくのうつくしいものや、きれいなものがいっぱいさ。わたしはそれをみてまわり、◼️◼️にしてつたえる。それが、わたしのしていることさ。
そういってにんげんは、ドラゴンに◼️◼️をきかせました。
うつくしいこえで、せかいのあらゆるきれいなこと、すてきなことを◼️◼️うにんげん。
ドラゴンはにんげんの◼️◼️が、だいすきでした。
ねぇ。ぼくもいつか、せかいをみてみたい。いけるかな?
ふあんそうにきくドラゴンに、にんげんはわらいながらうなづきます。
うん、いけるよ。きみにはりっぱなつばさがある。どこへだって、いけるさ。
そのことばに、ドラゴンはうれしくなりました。
◇
ドラゴンとにんげんがであって、なんねんものつきひがながれました。
ドラゴンとにんげんは、いつもたのしくおはなしをして、◼️◼️をきいて、わらいあってました。
そんなあるひ、にんげんはドラゴンにいいました。
わたしはもうすこしで、またたびにでようとおもっている。まだまだいきたいばしょや、くにがあるからね。
おわかれをつげるにんげんに、ドラゴンはかなしそうにしていました。
せっかくともだちになれたのに、もうおわかれなの?
すると、にんげんはわらいながらドラゴンのあたまをなでました。
だいじょうぶ。はなれていても、わたしたちはともだちさ。それに、わたしはまたここにくるよ。あたらしい◼️◼️を、きみにきかせるために。
またあえる。そうにんげんがいうと、ドラゴンはうれしそうにしました。
わかった! ぼく、まってるよ! またうつくしい◼️◼️をきかせて!
にんげんはわらいながら、うなづきました。
もちろんさ。それまでまっててくれるかい?
ドラゴンはなんどもうなづきました。
こうして、ドラゴンとにんげんはおわかれしました。またあうやくそくをして。
◇
にんげんがいなくなってから、なのかがたちました。
ドラゴンははじめて「さびしい」というきもちをしりました。
まだかな? はやくかえってこないかな?
またここにきて、あたらしい◼️◼️を、しらないくにのことをはなしてくれるのをたのしみにしながら、ドラゴンはくらいどうくつでまちました。
とおか、まちました。いっかげつ、まちました。それでも、にんげんはかえってきません。
ドラゴンはずっとまちました。しんぱいになり、さがしにいこうかともおもいました。
でも、ドラゴンはまちます。そうやくそくしたから。
そうして、いちねんがたちました。
◇
ある日、ドラゴンがいる洞窟に人間は戻ってきた。
人間の臭いに気づいたドラゴンは、喜びながら人間の元へと急ぐ。
しかし、そこにいた人間は足を引きずり、傷だらけで今にも死にそうになっていた。
「どうしたの!? どうしてそんな怪我をしているの!?」
驚いたドラゴンがそう尋ねると、人間は苦しそうにしながらどうにか笑みを浮かべて答える。
「私の■が全て虚言だと言われ、大嘘つきとして捕まり、今までずっと幽閉されていたんだ。この傷は拷問された時のもの……命からがら、どうにか逃げてきたんだ」
ドラゴンは愕然とした。
同じ人間、種族なのに、どうしてそんなに酷いことが出来るのだ、と。
そして、人間はとうとう地面に倒れる。血が広がり、人間の顔はどんどん青ざめていく。
ドラゴンは察した。人間の命が、もう尽きようとしていることを。
「どうして! どうして、ここに戻ってきたの!?」
死に体になりながら、それでも洞窟に戻ってきた人間にドラゴンは泣きながら聞いた。
すると、人間は儚げに笑いながら答えた。
「約束、したからさ。大事な友達との約束は、絶対に守らないといけないからね……」
その言葉に、ドラゴンは涙を流しながら頭をすり寄せる。
真っ白な身体に赤い血が付いても、気にせず翼を広げて人間を抱きしめた。
人間はドラゴンの頭を優しく撫でながら、静かに語り出した。
「世界は美しいだけじゃない。だけど……それでも、私は……」
そして、人間はドラゴンの頭を撫でるのをやめる。頭に乗っていた手がズルリと滑り、地面に落ちた。
人間は笑いながら、二度と動かなくなった。
それが「死」だと、ドラゴンは初めて知った。
もう二度と会えない。もう二度と美しい声が紡ぐ__あの
ドラゴンは動かなくなった人間を翼で包みながら、涙を流して天に向かって慟哭した。
「どうして! この人間は何も悪いことをしてないじゃないか! なのに、どうして……どうして、ボクの大事な友達を……仲間を……家族を……ッ!」
ドラゴンにとって人間は初めて出来た友達で、同じ境遇の仲間で、たった一人の家族だった。
その家族を奪われ、ドラゴンは初めて「悲しみ」を知った。
ドラゴンは泣き続ける。そして、訴える。姿もない、自分よりも大きな存在に対して、問い続ける。
だけど、その問いかけに誰も答えてはくれなかった。
「誰が、やった……?」
ドラゴンは呟いた。優しく、純粋なドラゴンが牙を剥き出しにしながら。
「ボクの家族を殺したのは、誰だ……?」
ドクン、と大きな鼓動が響き渡る。
「誰が殺した? 誰が奪った? 誰が……誰が!?」
ドラゴンは初めて「怒り」を知った。
小さなドラゴンの身体が、徐々に大きくなっていく。
人間の血で赤く染まった白い身体が、ジワジワと浸食されていくように黒く、ドス黒く染まっていく。
狭い洞窟いっぱいに大きくなったドラゴンは、静かに涙を流しながら動かなくなった人間を見つめた。
「そうか、分かった……誰が、奪ったのか……ッ!」
巨大な翼を広げると、洞窟が轟音を響かせながら弾け飛んだ。
風が吹き荒れ、空が暗雲に覆われ、稲光が走り、豪雨が降り注ぐ。
ドラゴンは紅く染まった瞳で空を見上げる。
「世界が……我が家族を、誇りを汚した。殺し、奪った……ならば我はその不条理を__世界の全てを討ち滅ぼそう」
血涙を流しながら、ドラゴンは咆哮する。
世界中に響く産声を上げ、ドラゴンは大きく羽ばたいた。
ドラゴンは初めて__「憎しみ」を知った。
優しかった小さなドラゴンはもういない。
今いるのは、世界の全てを滅ぼす__
それから数ヶ月後。
突如として現れた黒きドラゴンは世界に恐怖を与えた。
業火の炎を吐き、暴風を巻き起こし、豪雨を降らせ、雷を操り、地を砕いた。
あらゆる攻撃を通らぬ強固な外殻、空を覆うほどの巨大な双翼、一振りで街を薙ぎ払う長き尻尾。
眼は血のように紅く、憎悪に染まっていた。
美しい国をそのドラゴンは全てを灰にした。
平和に暮らしていた人間を、容赦なく蹂躙した。
耳をつんざくほどの雄叫びを上げ、全てを破壊して回るドラゴン。
その姿はまさに、生きた災害。
禍々しいその姿、圧倒的な力、無慈悲なまでなその所業。
故に、人は黒きドラゴンをこう呼んだ。
__災禍の竜、と。
天に轟くその叫びは、怒りと憎しみに染まっていた。
だけど、何故だろう。
その叫びが、
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