十二曲目『根の葉もない噂』

 荒くれ者たちを真紅郎が倒したあと、俺たちはようやくユニオンにたどり着いた。

 ユニオンに入ってフードを外すと、ユニオン内にいる職員やユニオンメンバーたちが俺たちを見てヒソヒソと話しているのに気づいた。

 いや、俺たちというより……真紅郎を見て、だった。

 なんだろう、と首を傾げているとライトさんは険しい顔をして「早く執務室に」と急かしてくる。

 言われるままに俺たちはライトさんに連れられて執務室に入ると、ライトさんは疲れたようにため息を吐いた。


「どうしたんですか? それに、さっきの……」

「いや、すまない。その話を含めて、本題を話そう。とりあえず、そこにかけてくれ」


 ユニオンの様子がおかしいことを聞こうとしたけど、そのことを込みで話をすると言われ、俺たちは大人しくソファーに座った。

 椅子に座ったライトさんは、一息吐いてから本題を話し始める。


「さて。さっそくだが……サクヤ、キミはまだユニオンメンバーとして登録していないだろう?」

「……うん」


 そう言えば、まだサクヤはユニオンメンバーとして登録していなかった。すっかり忘れてたな。

 サクヤが頷くとライトさんは話を続けた。


「そこで、だ。今からユニオンメンバー試験を受けてみないか?」

「……試験?」

「あぁ。このレンヴィランス支部での試験は、港外れの入り江にある洞窟に潜り、その奥に置かれている竜魔像に魔力を流すというものだ」


 竜魔像って、魔力を流した者の適正属性を調べるーーのは表向きで、兵器としても使える危険な石像のことだよな。まぁ、兵器として使えるっていうのは知られてないみたいだけど、この国にもあるのか。

 洞窟の奥にある竜魔像に魔力を流すだけって、試験がそんな簡単なものじゃないだろう。

 俺の考えを察したのか、ライトさんはニッと笑みを浮かべて答えた。


「もちろん、簡単な試験ではない。その洞窟はモンスターが蔓延っている。我らユニオンが管理し、モンスターが外に出ないようにしてはいるが……かなり危険な場所だ。サクヤ、キミにその洞窟を突破して貰う」


 やっぱりか。

 まぁ、それぐらい出来ないとユニオンメンバーにはなれないだろうからな。

 サクヤの実力なら問題ないと思うけど……一人で行かせるのは不安だなと、心配する俺をライトさんはすぐに解決してくれた。


「一人で行かせるのも酷な話しだろう。タケルたちには同行者としてサクヤのサポートをして欲しいのだ」


 俺たちのサポートがあれば余裕だろう。それなら大丈夫そうだ。

 安心しているとライトさんは鋭い視線を俺たちに送り、真剣な表情で口を開いた。


「キミたちが洞窟を攻略している間、私はキミたちの命を狙う連中を片付けておこう。このままだと住人に被害が及ぶ可能性があるからな。このレンヴィランスを守るユニオンマスターとして、見過ごせるものじゃない。それにーー」


 一度話を区切ってから、ライトさんは真紅郎に目を向ける。


「さっきのことだが……どうやら真紅郎。キミが魔族なんじゃないか、とユニオン内で噂されているみたいだ」

「ーーはぁ!?」


 ライトさんの言葉に、俺は立ち上がって詰め寄った。


「真紅郎が魔族って、どうしてですか!?」

「落ち着け。今、説明する」


 宥められ、冷静になった俺がソファーに座ったのを確認してから、ライトさんは説明し始めた。


「キミたちが屋敷を抜け出した時の戦闘。それを見ていたユニオンメンバーがいたのだ。真紅郎の魔装ーーべーす、と言ったか? そこから放たれる魔力弾を見て魔法……つまり、魔族が得意とする無詠唱では、と思ったらしくてな。そこからどんどん話が広がり、ついには真紅郎は魔族なのではないか、という結論に至ったらしい」

「そ、そんな……ッ!」


 たしかに真紅郎の魔装は珍しいものだ。この世界では銃という物がないから、見る人からしたら無詠唱の魔法と間違えられても仕方がないのかもしれない。

 でも、だからと言って真紅郎が魔族なんて疑い、あんまりだ。真紅郎は俺たちの仲間で、正真正銘の人間だ。

 俺が立ち上がろうとした時、ライトさんは手で制してくる。


「落ち着け。私も真紅郎が魔族だとは思っていない。だが、噂が広がっているのは事実だ。すぐに対応するつもりだが……やっかみを受けないためにも少し姿を隠した方がいい。キミたちが洞窟に行っている間に、私がどうにかしよう」


 そこまで言われたら、俺は何も言えない。

 だけど、悔しい。何も出来ない自分自身の無力感に苛まれる。

 チラッと真紅郎を見ると、ショックを受けているのか俯いたまま黙り込んでいた。

 やよいは怒りを堪えるように拳を握りしめ、ウォレスは目を閉じながら腕を組み、無言を貫く。

 サクヤは心配そうに真紅郎を見つめ、キュウちゃんは慰めるように真紅郎の頭の上に移動すると尻尾で優しく頬を撫でていた。

 この件に関しては、ライトさんに任せるしかない。俺たちが何を言おうと、仲間を庇っていると思われて終わりだろう。

 俺たちは身を隠し、洞窟を攻略することに集中した方がよさそうだな。


「……分かりました。とにかく、俺たちは洞窟を攻略してきます。その間、よろしくお願いします」

「あぁ、任せてくれ」


 俺が絞り出すようにお願いすると、ライトさんは胸を張ってはっきりと言い放った。頼りになるな。

 さて、じゃあ俺たちは早速洞窟に向かうとするか。


「……真紅郎、行こうぜ」


 ウォレスが真紅郎の肩を軽く叩いて言うと、真紅郎は黙ったまま小さく頷いて力なく立ち上がった。

 かなり参ってるみたいだな。洞窟に連れてって大丈夫か……?

 でも、ここで留守番させるのもどうかと思うし、こういう時こそ俺たちが支えてやらないと。

 俺は頬をパンッと叩いて気合いを入れ、執務室から出た。

 フードを目深に被ってユニオンを歩いていると、一人のユニオンメンバーの男が俺たちに気づき、人差し指を向けて叫ぶ。


「い、いたぞ! あいつが魔族だ!」


 魔族、という言葉にユニオン内がざわつく。明らかにその男は真紅郎を指さしていた。

 こいつが噂の元凶か、と睨みつける。だけど、ここで何か言っても意味がないどころか、逆に悪化しそうだ。

 怒りを堪えながら真紅郎を守るように立つと、同時にやよいたちも同じように真紅郎を囲む。


「……行こう」


 俺がそう言うと全員が頷き、歩き出す。

 後ろから感じる視線を無視して、俺たちは洞窟に向かった。

 


 


 

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