第四楽章『ロックバンド、水の国で魔族と出逢う』

プロローグ『荒れ狂う海とロックバンドと……』

 大時化。荒れ狂う海と暴風雨が吹き付けてくる港に、発砲音が響いた。

 弾丸の代わりに放たれたのは、風の刃。雨を切り裂いて向かってくる風の刃に反応出来ず、直撃した。


「ーーガッ!?」


 風の刃は腹部に命中し、俺は地面を転がった。

 防具服のおかげで傷はないけど、衝撃で嘔吐感がせり上がってくる。


「ぐっ……はぁ、はぁ」


 暴風が吹き付ける豪雨の中、俺は腹を抑えながら膝を着く。


「はぁ、はぁ……」


 打ち付けてくる雨とダメージにぼやける視界で、俺は周りを見渡した。

 俺たちのバンドの紅一点、ギター担当のやよいは力なく倒れ伏している。

 ドラム担当の白人、ウォレスは積み重なった木箱に上半身を埋めてピクリとも動かない。

 ベース担当の真紅郎は壁に背中を預けてうなだれている。

 キーボード担当のサクヤは頭から血を流しながら倒れ、それでも立とうと地面に拳を押しつけている。

 他にもやよいのストーカーと化している黒豹団と呼ばれる盗賊団のリーダー、アスワドやその部下のシエン、アラン、ロクもボロボロの状態で気絶していた。


「く、そ……ッ!」


 俺以外、戦闘不能だった。いや、俺ももう限界が近い。

 悪態を吐いていると、カチンという金属の音が聞こえた。その音は……今、俺たちが戦っている敵が鳴らしたものだ。

 長い栗色の髪を適当に紐で結び、感情のない無機質な瞳で俺を睨む無精ひげの男はフリントロック式の銃を構えて銃口を向けてきている。 

 焦げ茶色の革のジャケットを羽織り、体に巻き付けたホルスターには同じ銃がいくつも装着されていた。

 男は俺がもう限界だと分かっていてもいつでも撃てるように警戒し、油断することなく銃を構えている。

 その姿に俺は、思わず乾いた笑い声を上げた。


「は、はは……ここまで強いのかよ……魔族・・は」


 そう、魔族。

 世界を恐怖に陥れようとしている、危険な種族。

 そして、俺たちが元の世界に戻るためには、その魔族を倒さないといけないけどーー実力が違いすぎた。

 初めて会った魔族の力は桁外れ。尋常じゃない魔力量、魔法を使う上で絶対に必要な詠唱をしないで魔法を行使する異常性。高い戦闘技術。


 俺たち全員、この一人の魔族によって戦闘不能にされてしまっていた。


「だけ、ど……」


 俺は剣を杖にして立ち上がり、剣を居合いのように左の腰に構える。

 荒くなった息をどうにか整え、魔力を剣身に纏わせていく。


「ーー負ける訳には、いかないんだよぉぉぉ!」


 叫び、自分を鼓舞しながら俺は走り出す。

 バシャバシャと水を跳ね上げながら走り、力強く柄を握りしめた。

 俺が向かってきたのを見た魔族は動揺することなく引き金を引くと、銃口から炎の槍ーー<フレイム・ランス>が放たれた。

 俺は向かってくる炎の槍を体勢を低くすることで避け、そのまま走り抜ける。


「ーーレイ・スラッシュ!」


 剣と魔力を一体化させて放つ俺の必殺技、レイ・スラッシュを魔族に向かって放った。

 放たれた一撃に対して、魔族はホルスターから素早く銃を抜いて俺に向かって構えると、引き金を引く。

 近距離で放たれた炎の槍と、レイ・スラッシュの一撃がぶつかり合って爆発した。

 同時に、荒れ狂う波が水しぶきを上げ、雷が轟く。

 俺ーータケルとその仲間である異世界に漂流したロックバンド<Realizeリアライズ>が魔族と戦うことになった理由は、ある事件がきっかけだった。


 それは俺たちが<レンヴィランス神聖国>に到着して二週間が経った時のことだった。


 

    

 

 

 

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