二十一曲目『双盾と双剣。拳と拳』
「よし! よくやった真紅郎!」
「かぁぁ……ったく、アランの野郎、油断しやがって」
悔しそうにしているアスワドに見えるようにガッツポーズしてやる。どうだ、俺たちの仲間は!
するとアスワドは舌打ちして鼻で笑ってきた。
「はんっ、アランは油断しただけだ。ロクはそう簡単には負けたりしねぇ。いや、あいつなら勝つだろうな」
「どうだかな。こっちはウォレスだぞ? ウォレスは……ウォレス……やべぇ、負けるかも」
ウォレスは強い方ではあるけど、すぐに調子に乗るからなぁ。絶対に勝てるって自信を持って言えない。
心配になってウォレスの方を見ると、ロクと睨み合っていた。
「ハッハッハ! どうした、来ないのか?」
「……」
手招きするウォレスに対して、ロクは無言のまま両腕に装着した黒い長方形の盾を突き出したままだ。
何も言わないロクにウォレスはため息を漏らす。
「だったらオレから行くぞ!」
焦れったくなったのかウォレスが飛び出した。
両手のスティック型魔装に展開している魔力刃を振り上げ、左右から振り下ろす。ロクは両腕の盾で魔力刃を防いだ。
盾と魔力刃がぶつかり合い、火花が上がる。盾は斬られることなく魔力刃を防ぎ切っていた。
「ぐ、ぬぬ、や、やるじゃねぇか……ッ!」
「……ッ!」
二人の力はほぼ互角。押し切ろうとするウォレスに、ロクは歯を食いしばって耐えている。
ウォレスは一度力を抜き、その場で一回転して背中を向ける。そして、遠心力を使いながら右から左に魔力刃を薙ぎ払った。
薙ぎ払われる魔力刃にロクは両腕の盾を合わせ、一枚の大きな盾にして防ぐ。堅い防御に攻撃を妨げられたウォレスは一度態勢を立て直すために距離を取った。
「ヘイ、ロクって言ったか? お前、魔法は使わねぇのか?」
ウォレスの問いかけに、ずっと無言を貫いていたロクが口を開く。
「……おで、魔法、使えない。おでの武器、盾と、この頑丈な体」
「……ハッハッハ、そうかそうか。魔法は使えないのか」
魔法を使わず、その身と盾だけで戦うロクにウォレスはニヤリと笑みを浮かべる。
「ーーなら、オレも魔法は使わねぇ!」
「……え?」
突然のウォレスの宣言にロクが目を丸くする。
「相手が魔法を使わないのに、オレだけ使うってのは
ウォレスははっきりと言い放つ。
俺は思わず呆れてため息をこぼしつつ、小さく笑みを浮かべた。ウォレスならそう言うよな。あいつはそういう奴だから。
するとロクは最初は驚いていたけど、コクリと頷いていた。
「……感謝、する。おで、正々堂々、戦う」
「ハッハッハ! それでこそだ! んじゃ、行くぜぇぇ!」
嬉しそうにしながら口角をつり上げたウォレスが、ロクに向かって突貫する。
向かってくるウォレスに対してロクは気合いを入れるように盾と盾をぶつけ合い、足を肩幅に開いて盾を構えた。
「ーーおらぁぁぁぁ!」
気合いと共に振られた魔力刃を、ロクは顔をしかめながら防ぐ。ウォレスは防がれても気にしないでそのまま連続で魔力刃を振りまくった。
怒濤の攻撃にもロクは踏ん張りながら防ぎ続ける。静と動、両極端の二人だな。
火花を散らし、断続的な甲高い金属音が響く中、さすがに息が切れたウォレスが攻撃の手を一瞬やめる。
それを、ロクは見逃さなかった。
「……フンッ!」
短く息を吐くと一歩前に踏み出し、両腕の盾をウォレスに突き出す。
「ーーうっ、ぐっ……ッ!」
ただでさえ大柄なロクの体重と、盾の重量が合わさった突進はかなりの威力だろう。
咄嗟に魔力刃をクロスさせてウォレスが盾を防いだが、かなりの衝撃にうめき声を上げる。
盾に潰されそうになっているウォレスは、徐々に押し出されていった。それでも必死に堪え、逆に押し返そうと顔を真っ赤にさせている。
「ぬ、お、おぉぉぉぉぉぉ!」
「ぐ、ぬ、ぬ……ッ!」
押し切れないロクは全体重をかけてウォレスを押し潰そうとする。
押し負けそうなウォレスは根性で押し返そうとする。
拮抗するせめぎ合いの最中、ウォレスは地面を砕きながら一歩前に踏み込んだ。
「ーーパワァァァァァァァァァ!!」
気合一声。
ウォレスは一歩踏み込むたびにロクが後ろに追いやられる。そして、とうとうウォレスはロクを押し負かした。
「ーー
思い切り両手の魔力刃を振り上げたウォレスは、×印を描くように左右から盾に向かって振り下ろした。
怒濤の攻撃でもう限界だったんだろう、ロクの両腕の盾はその攻撃によりゴトン、と鈍い音を立てながら斬り裂かれた盾が地面に落ちる。
「……ッ!」
盾が斬られたことに無言のまま驚くロクは、ゆっくりと盾を外して無手でウォレスと戦おうとしていた。
それを見たウォレスは魔装をアクセサリー形態に戻して、同じように無手になる。
「ハッハッハ、次は拳でだ」
「……おで、負けない」
次は徒手空拳で戦いを挑むウォレスに、ロクも拳を握りしめて答える。
「ーーオレの名前はウォレスだ。
「ーーロー・クート。ロクって、呼ばれてる」
「オッケー、ロク!
ウォレスは一気にロクに肉薄し、拳を振り抜く。鈍い音を立てながら腕で防いだロクは、お返しとばかりに拳を突き出した。
ウォレスも腕をクロスさせて防ぐも、爆発したような音と共にたたらを踏む。一撃の重さはロクの方が上のようだ。
それでもウォレスは二撃、三撃と拳を打ち込んでいく。ウォレスの拳はロクの防御の隙間を縫い、顔面に直撃した。
「……ぐっ!」
鼻から血を吹き出したロクが怯み、その隙にウォレスは腹部に二撃、頬に一撃食らわせる。暴風のような連続攻撃にロクは仰け反りながら右拳を振り上げた。
「ーーゴッ!?」
その攻撃は見事にウォレスの顎にクリーンヒット。続けて左拳がウォレスの頬を打ち抜いた。
口の中が切れたのか血を吐きながら倒れそうになるウォレスに、ロクは拳を振り下ろしてくる。
ウォレスは倒れそうになる体を必死に堪え、起き上がり様にロクの攻撃に対して左拳を弧を描くように振り上げた。
振り下ろされる拳は空を切り、カウンター気味にロクの顔面に拳が炸裂する。そのままウォレスは飛び上がり、空中で右フックをフルスイングした。
体重を思い切り乗せた一撃に今度はロクが倒れそうになる。これで決まりだ、と言わんばかりにまるで野球のピッチングのように右拳を振り上げたウォレスに合わせてロクが拳を突き出した。
「ーーブッ!?」
「……ゴッ!?」
ロクの拳はウォレスの顔面に、ウォレスの拳はロクの頬に同時に直撃する。相打ちになり、二人は地面に倒れ込んだ。
「ぐ、ご……や、るじゃねぇ、か」
「……そっち、も」
鼻と口から血を流し、顔を腫れさせながら二人がヨロヨロと立ち上がる。
血で息がし辛いのか苦しそうに息をして、二人は睨み合う。
「ーーうおぉぉぉぉぉぉぉ!」
そして、ウォレスが拳を握りしめながら走り出した。
「……ぬうぅぅぅぅ!」
ロクもまた、拳を握りしめて走り出す。
二人は右拳を振り上げ、同時に突き出した。
最短距離で相手に向かっていく拳は交差し、前腕を擦り合わせながら同じタイミングで頬を打ち抜いた。
「お、ご……」
「む、ぐ……」
白目を剥いた二人は力なく後ろに仰け反っていき、同時に地面に倒れる。
ウォレスとロクの対決は、まさかのダブルノックダウンで決着した。
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