第三章『ロックバンド、砂漠の国を往く』
プロローグ『砂の大地』
「あついあついあついあついあつい……」
燃えたぎるように輝く太陽。歩きづらい砂の大地。乾ききった風。
目的地の<ヤークト商業国>に向かうためには、この<アルデラ砂漠>を進まないと行けなかった。
砂漠地帯に入ってから流れる汗はすぐに蒸発し、体力を奪われ続ける。
砂漠なんて歩いたことがない俺たち……ロックバンド<Realize《リアライズ》>のメンバー全員は、もはや限界寸前だった。
俺たちのバンドの紅一点、女子高生ギタリストのやよいはさっきからフラフラと歩きながら暑いと連呼している。
「ヤークトまでどれぐらいなんだぁぁ……?」
俺も正直体力が限界だ。ヤークトまでの距離を聞くと、中性的な容姿をしたベーシストの真紅郎は死んだような目をしながら答える。
「今日中には着くんじゃない?」
「だから、どれぐらいだぁ?」
「知らないよぉ……」
真紅郎も限界みたいだ。唯一元気なのは……。
「オレ、もう、無理ーーって、あちちちちち!?」
白人ドラマーのウォレスがたっぷりと日の光を浴びて熱を帯びている砂に倒れ込み、その暑さからのたうち回っている。限界そうに見えて元気だな、こいつは。
「……暑い」
「きゅうぅぅ……」
最近俺たちの仲間になったダークエルフ族の少年、サクヤも初めての砂漠に辟易としていた。
その頭の上にいる、額に楕円形の蒼い宝石がある白い小キツネのようなモンスター、キュウちゃんもぐったりしている。毛皮のあるキュウちゃんにはかなりキツいだろうな。
それにしても、暑い。これは少し休憩しないとダメそうだな。だけど、こんな砂ばかりの場所で休めるようなところはない。
「もう、げんかい」
ここでやよいが膝を着いた。
「大丈夫か、やよい?」
俺が声をかけると、やよいは力なく首を横に振る。
やよいの様子を見るに、多分熱中症になりかけてるな。これは、歩くのは厳しいか。
「やよい、乗れ」
やよいの前にしゃがみ、背中を向ける。
素直に俺の背中に乗ったやよいをそのまま持ち上げ、背負ったまま砂漠を歩き続ける。
軽いな。やよいを背負いながら思う。こんな華奢な体で砂漠を抜けるのは厳しいよな。
少しでも休めるところがあったら、休憩にしよう。そう思いながら歩いていると……。
「ん? なんだろう、あれ?」
真紅郎が何かに気付いた。
すると、遠くの方から爆発するような音が聞こえる。
目を凝らして見てみると、遠くで誰かがモンスターに襲われているのが見えた。
「あれは……<ヌーク>か?」
襲われているのは竜車と多分、商人のおじさん。襲っているのは鎧のように岩を纏った牛型のモンスター<ヌーク>だった。
ヌークの数は三頭。興奮している様子で、今にもおじさんに襲いかかろうと前足で砂を蹴っている。
「ウォレス、ちょっとやよいを頼む」
「オーライ」
すぐにやよいをウォレスに預け、一気に走り出した。
砂を蹴り上げて走りながら魔装を展開し、柄の先にマイクが取り付けられた剣を握り締める。
「<アレグロ!>」
そして、音属性魔法ーー敏捷強化の魔法を使う。速度を上げた俺は剣を左腰に持って行き、集中する。
魔力を操作し、剣身に魔力を集めて一体化させた。
そのままヌークに肉薄し、居合いのように剣を薙ぎ払う。
「<レイ・スラッシュ!>」
魔力を込めた一撃。俺の必殺技であるレイ・スラッシュをヌークに叩き込んだ。
その一撃でヌークが纏っている岩の鎧ごと、その下の肉も斬り裂く。
「な、だ、誰だ!?」
おじさんはいきなり現れた俺に驚いている。
一撃でヌークを倒した俺は、おじさんを守るようにヌークの前に立ちはだかった。
「俺はタケル! 旅人です! 助けに来ました!」
ヌークから目を離さないままボーカル担当の俺、タケルはおじさんに名乗る。
それよりも、まずはーー。
「こいつらは俺がなんとかします! あなたは逃げて下さい!」
「か、感謝する!」
おじさんはすぐに竜車に飛び乗り、リドラの手綱を取って慌ててその場から離れた。
それを見届けてから俺は、剣を構えて叫ぶ。
「来い! 俺が相手だ!」
そのまま俺は雄叫びを上げながら突進してくるヌークに立ち向かう。
強敵だったワイバーンーークリムフォーレルと戦った俺には、簡単な相手だ。
俺は三頭のヌークに向かって、剣を振りかぶりながら走り出した。
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