二十七曲目『反撃の協奏曲』
「ーーはぁっ!」
突進してきたクリムフォーレルを避けつつ、剣で足を斬る。だけど堅い外殻に阻まれ、肉まで斬ることが出来なかった。
やっぱり生半可な攻撃じゃ通らない。一撃強化魔法の<フォルテ>や<フォルテッシモ>を使うか、レイ・スラッシュじゃないと無理そうだな。
「グルオォンッ!」
「あぶねっ!?」
悠長に分析している暇はなかった。
クリムフォーレルはその場で回転し、尻尾で薙ぎ払ってくる。
どうにか攻撃の範囲外まで下がってその攻撃を避けた。
「タケル、前に出過ぎ!」
やよいは俺にそう言いながらギター型の斧を振りかぶる。そして、振り下ろそうとした時、クリムフォーレルは思い切り地面を踏んだ。
「え、えぇぇ!?」
地面が揺れ、驚いたやよいがバランスを崩す。そこをクリムフォーレルの牙が襲いかかった。
「やよい! 下がって!」
やよいのピンチを真紅郎が救う。
銃口から放たれた三つの魔力弾がクリムフォーレルの頭部に直撃した。
「ーーよっしゃぁぁぁ!」
ふらついたクリムフォーレルの背中に、ウォレスが飛び乗る。
「おりゃおりゃおりゃおりゃあぁぁぁ!」
背中に張り付いた状態で、ウォレスは両手のスティック型魔装に展開している魔力刃を突き刺しまくる。
ガンッガンッガンッ、と弾かれてもウォレスは気にせず刺し続けた。
「グルゥ!」
「おわぁぁぁぁぁ!?」
邪魔臭そうにクリムフォーレルが勢いよく体を振り、ウォレスが悲鳴を上げて振り落とされる。
「ーーフッ!」
そこに弾丸のようにクリムフォーレルの足下に飛び込んだサクヤが、右拳に魔力を纏わせて殴りつける。
鈍い音が響き、クリムフォーレルが倒れ込んだ。
「……つッ!」
サクヤの右拳から血が吹き出す。堅い外殻を素手で殴り続けていた代償だ。
だけど、そのおかげでクリムフォーレルをダウンさせた。
「ーー今だ! <フォルテ!>」
ケンタウロス族と一緒に走り寄り、一撃強化の魔法をかけてから剣を振り下ろす。
そして、クリムフォーレルの右目を斬り裂いた。
「ーーグゥルォォォォォォン!?」
目を斬られたクリムフォーレルが、地面をのたうち回った。
巨大なクリムフォーレルが暴れれば、それだけで驚異になる。そのせいで俺たちはそれ以上の追撃が出来なかった。
「グ、ルルルル……」
ゆっくりと立ち上がったクリムフォーレルは、残された左目で俺を睨んでくる。
爬虫類のような細長い瞳孔で睨まれると、ゾクリと背筋に寒気がした。
「な、なんだ?」
何か嫌な予感がしていると、クリムフォーレルはおもむろに俺たちから距離を取ると後ろ足を広げ、顔を下げて体勢を低くした。
ボロボロの翼を大きく広げ、尻尾で威嚇するように地面を叩く。
「グルルルル……」
低く唸るとクリムフォーレルは大きく口を
開いた。
何をするつもりなのか分からないけど……これは、かなりマズい気がする。
すぐに俺は全員に逃げるように声を出そうとしたが、その前にクリムフォーレルが動き出していた。
大きく開いた口の中に空気が吸い込まれていくと、喉の奥の方で赤い火花がバチバチッと光っている。その火花は徐々に強くなってきていた。
「ーーグルオォォォォォォォォォォォン!」
咆哮。そして、放たれたのは真っ赤な熱線。一直線に向かってくる熱線に、いち早く数人のエルフ族が反応して魔法を唱えた。
「<我の守りは闘神の加護>ーー<ランド・ウォール!>」
「<我が守りは軍神の加護>ーー<ウィンド・シールド!>」
俺たちを守るように三枚の土の壁がせり上がり、その後ろに渦を巻いた風の盾が四枚展開される。
熱線が土の壁に接すると、当たった箇所が一気に真っ赤になり突き抜ける。三枚の土の壁は、あっという間に抜かれてしまった。
次に風の盾が熱線を防ぐが、少しの抵抗を見せただけでまたすぐに突き破られた。
だけど、時間稼ぎにはなった。
「ーー全員、逃げろぉぉぉぉぉぉ!」
叫びながら熱線から逃れるために横っ飛びする。
風の盾を突き破った熱線が地面を抉りながら通り過ぎていく。森の奥の方にまで熱線は伸びていき、草木を燃やしていた。
どうにか避けることが出来て、全員無事だった。
「あんな技を隠してたのか……ッ!」
熱線を放ち終えたクリムフォーレルは、口から黒煙を吐き出している。連射しないところを見るに、何度も使える技じゃないんだろう。
あれが、あいつの必殺技ってことか。
「はんっ……なんだよ、やるじゃねぇか」
あの熱線で有利だった俺たちが一気に覆された。
強がりを口にして、どうにか戦意を継続させる。ここで心を折られてたまるか。
「ーーホッホッホ。なんじゃ、今のは。凄まじいのう」
そこに、こんな状況なのに緊張感のない老人の声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声とともに、地面を揺らす重い蹄の音がこっちに近づいているのも聞こえる。
音の方を振り返ってみると、そこには……。
「のう、ケンタウロス族の長殿……今はケロさんじゃったか?」
「そうだな、エルフ族の族長……ユグドよ。あの熱線は驚異だ」
ケンタウロス族の長であるケロさんと、その背中に乗っているエルフ族の族長であるユグドさんがいた。
「ぞ、族長!?」
「お、長。どうしてここに……?」
両種族のトップの登場に、驚きの声が上がる。
俺も目を丸くして呆気に取られていた。どうしてこんなところに?
「ホッホ。ようやく我らエルフ族とケンタウロス族が手を取り合い、協力して戦う日が来たじゃ。なれば、ワシらも黙ってはおられんわい」
「そういうことだ。昔からの確執が、ようやく取り除かれたのだ。ならば、我ら年寄りも若者のために老いた体に鞭を打たねばな」
そう言ってユグドさんはケロさんから飛び降り、ケロさんは手に持っていた物を地面に置く。
ケロさんが持っていたのは、竜魔像だった。
「竜魔像? どうしてここに?」
俺が首を傾げていると、ユグドさんは眉を上げて小さく笑う。
「タケル殿、これがどういう代物なのかは教えたじゃろう?」
「え? あぁ、はい……」
たしか、都市一つ滅ぼせるほどの強力で危険な兵器……って、まさか!?
「それを使うつもりですか?!」
察してしまった俺が叫ぶと、ユグドさんとケロさん以外の全員がざわついた。
驚く俺たちを余所に、ユグドさんは笑って答える。
「その通りじゃ」
「我も竜魔像について昔、ユグドから聞いている。その上で、我も賛成した」
ま、マジかよ。本気でこの二人は竜魔像を使うつもりみたいだ。
「グルルル……」
クリムフォーレルのうなり声に我に返る。そんな話をしている場合じゃなかった。
慌ててクリムフォーレルの方を見ると、また熱線を放つ準備をしている。
「ホッホッ! いい度胸じゃ……」
それを見たユグドさんの目が、まさしく歴戦の戦士のようにギラリと光る。
「ほれ、どきなさい」
ユグドさんは俺たちにそう言うと前に躍り出る。そして、ケロさんがユグドさんの前に竜魔像を置いた。
「ふむ、ケロさんや。お主はワシを支えてくれんかのう?」
「心得た。存分にやれ、ユグド……ククッ、まるで昔に戻ったみたいだ」
「ホッホ。それじゃあ、ワシも昔を思い出してみるかのうーー行くぞ」
「あぁーーやれ、ユグド」
ニヤリと笑い合う二人。
ケロさんはユグドさんの背後に回って体を支え、ユグドさんは竜魔像に触れた。
すると、竜魔像が光り始め、魔力を溜め始める。
「む、ぐぐぐ……ッ!」
苦しそうにユグドさんが呻きながら、それでも魔力を送り続けている。それに対してクリムフォーレルは大きく口を開き、喉の奥に火花が光っていた。
「くっ……こいつ、とんだ大食らいじゃ……魔力が、足りぬわい……ッ!」
竜魔像に魔力を吸収され、ユグドさんが苦しそうに呟く。
これじゃあ、何も出来ずに熱線を食らってしまう。
「ーーだったら、俺も手伝う!」
そんなことにはさせない。
俺も同じように竜魔像に触れて、魔力を送り込んだ。
ーーすると、竜魔像が動き出す。
竜魔像の翼がゆっくりと広がり、首をもたげて今にも飛び立ちそうな姿に変わった。
「また、動いた……?」
「ホッホ。さすがはタケル殿……ッ!」
魔力を充填し終えたのか、竜魔像が赤黒い光を放ち始める。同時に、クリムフォーレルの口から熱線が放たれた。
「ーー発射ぁぁぁ!」
ユグドさんが叫ぶ。それが引き金となり、竜魔像の前に魔法陣が展開された。
そして、その魔法陣から血のように赤い雷光を纏った、宵闇のように黒い光線が放たれる。
熱線と光線がぶつかり合い、拮抗する。
「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「グ、ルゥォォォォォォォォッ!」
俺の雄叫びと、クリムフォーレルの雄叫びが重なる。
拮抗していた力は、徐々に俺たちが放った光線が押していた。
ーー最後には、熱線が霧散してそのまま光線がクリムフォーレルに向かっていった。
「ーーグルオォォォン!?」
光線はクリムフォーレルの左翼を貫き、空に伸びていった。
撃ち抜かれた翼がボトリと地面に落ちる。クリムフォーレルは血を吹き出して悶え苦しんでいた。
「ふぅ……やれやれ、魔力全部持って行かれたわい」
ユグドさんは疲れた表情で後ろに倒れ込み、ケロさんが受け止める。
疲れ切っていても、笑みを浮かべたままのユグドさんは俺たちに言い放った。
「ーーさぁ、決めてこい若者たちよ。新たな時代を築き上げろ」
その言葉に俺は、俺たちは動き出す。
クリムフォーレルにとどめを刺すために。
「はぁ、疲れたわい。お互い、歳は取りたくないのう」
「何を言うか。我はまだ現役だ」
「ホッホ。口が減らぬな、脳筋種族」
「ククッ。こちらの台詞だ、軟弱種族」
そんな二人の会話が、後ろから聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます