二十六曲目『反撃の交響曲』
「君の懺悔が聴こえた気がした 遠く離れたこの地で 君の懺悔はチャペルに響く 戦場の僕の背を押した」
「リグレットだ!」
「やはり、これは気分が高揚する!」
<リグレット>のAメロを歌うと、エルフ族とケンタウロス族が笑みを浮かべてテンションを上げていた。
ボーカル、ギター、ドラム、ベースが混ざり合い、グルーヴが生まれる。演奏に魔力を重ねると、ケンタウロス族とエルフ族に変化が起きた。
「お、おぉ! 力が、湧いてくる!」
走り回るケンタウロス族が驚きの声を上げた。戦場を駆ける蹄の音が強くなり、速力が増している。
弓を構えるケンタウロス族の上半身が増大し、放たれた矢はいつも以上の速度でクリムフォーレルを襲っていた。
「大切なものを守りたい 祈りを武器に 僕は抗う 未来が明るいと信じて 世界を相手に 僕は戦う」
能力増大。これが<リグレット>のライブ魔法での効果だ。
この曲を聴いた仲間の能力を増大させる、単純だけど強力な効果でケンタウロス族とエルフ族を支援する。
もちろん、これは筋力だけじゃない。言葉通り、能力の増大だからーー。
「<我貫くは戦神の投槍>ーー<ライトニング・スピア!>」
エルフ族が放った雷の槍は、通常の倍以上の大きさだった。
クリムフォーレルはギョッとした表情で慌てて雷の槍を避ける。放ったエルフ族は、予想以上の大きさに口をあんぐりと開けて呆気に取られていた。
効果の範囲は魔法も含まれている。これなら、エルフ族の魔法でも充分にクリムフォーレルにダメージを与えられるはずだ。
「後悔は望んでいない 僕も 君も この世界も 辛辣な言葉も受け入れる 僕は 一人で 君の分まで」
サビに入り、ケンタウロス族とエルフ族はクリムフォーレルに攻撃し続けていた。さすがのクリムフォーレルも避けることに精一杯だ。
だけど、まだクリムフォーレルを空から引きずり下ろすまでには至っていない。
「ーー今だ、放て!!」
そこで、ケンさんは後方部隊に指示を出した。
後方に控えていた五人のケンタウロス族がロープを振り回し、同時に投げ放つ。
「ーーグルゥ!?」
そのロープがクリムフォーレルの体や足、尻尾に巻き付いていく。どうにか振りほどこうともがくクリムフォーレルだったが、その前にケンさんが声を張り上げた。
「ーー引っ張れぇぇぇぇぇぇっ!」
五名のケンタウロス族、そしてエルフ族がロープを引っ張る。どうやらこれでクリムフォーレルを引きずり下ろそうとしているみたいだ。
だけど、クリムフォーレルは抵抗して逆にロープを引っ張ろうとしていた。
「遊撃部隊、弓矢部隊! 全員でロープを引け! 絶対にあいつを落とすぞ!」
「ーーオォォォォォッ!!」
ここにいる全てのケンタウロス族とエルフ族が雄叫びを上げ、ロープを掴んで引っ張る。
クリムフォーレル対ケンタウロス族とエルフ族の綱引きが始まった。
「そんな思いで 誰かを守れる そんな気がした どうか 君だけでも 上を向いて欲しい」
負けるな、頑張れ。そんな気持ちを込めてサビを歌い上げる。
ウォレスのドラムが一層強く響き、やよいと真紅郎の演奏にも熱が入っていた。
その想いが通じたのか、ライブ魔法の効力が増していく。
少しずつ、少しずつクリムフォーレルが地面に引きずり下ろされていった。
「ーーグルルゥゥゥゥ……ッ!」
忌々しそうに、恨めしそうにクリムフォーレルは睨み、必死に抵抗している。特別製なのかロープは引きちぎれることなくビンッと張られたまま、ケンタウロス族とエルフ族は歯を食いしばって負けじと引っ張っていく。
「気張れ、よ、軟弱種族……ッ!」
「そっちこそ、もっと引っ張れ、脳筋種族……ッ!」
「貴様らこそ、もっと気合いを、入れろぉぉ!」
「お前たちも、根性出せぇぇぇ!」
罵り合いながら両種族は協力して、ロープを引っ張る。
もう少しだ。
「遠くで命が弾けた音がした 空に還っていくのだろう 僕のこの命は未だ弾けない 懺悔は終わっていないから」
口にマイクを近づけ、二番に入った。
静かに、心の奥底から湧いてくるように、声を出す。歌い続ける。
「後悔はいらない 世界が相手だ 壁は高い 未来を掴むと信じて 世界を相手に 僕は戦う」
Bメロが終わると、クリムフォーレルが翼を大きく羽ばたかせながら息を吸った。
火炎が来る。ケンタウロス族とエルフ族は動くことが出来ない。このままだと焼かれてしまうーー!
「させ、ないーーッ!」
それを止めたのは真紅郎だった。
真紅郎はネックの先端をクリムフォーレルに向け、弦を指で弾いた。
銃口から放たれた魔力弾が、クリムフォーレルの横っ面に直撃する。
「ーーグルゥ?!」
驚いたクリムフォーレルは火炎を吐くのを中断した。ついでに攻撃に気を取られたのか、グンッと地面に近づきーーとうとう落下した。
「ーーこの機を逃すなぁぁッ!」
クリムフォーレルを引きずり下ろしてすぐ、ケンさんが叫ぶ。
その声に両種族は雄叫びを上げて武器を持ち、クリムフォーレルに向かっていった。
「後悔は望んでいない 僕も 君も この世界も 悪辣な思いも打ち砕く 僕は一人で 君の分まで そんな思いで 人々を救える そんな気がした どうか 君だけでも 上を向いていて欲しい」
二番のサビを歌い、反撃する両種族を支援する。
ケンタウロス族の弓矢部隊が、クリムフォーレルの翼を狙って矢を放つ。
「ーーグルゥッ!?」
堅い外殻に矢が突き刺さり、痛みでクリムフォーレルが唸った。
その隙に遊撃部隊のケンタウロス族の背中に乗ったエルフ族が魔法を詠唱する。
「<我の道は闘神の導き>ーー<ランド・スパイク!>」
土属性魔法の<ランド・スパイク>が発動し、クリムフォーレルの足下から石の棘がせり上がった。
鋭い石の棘がクリムフォーレルの後ろ足に突き刺さり、バランスを崩して倒れ込む。
「ーーはぁ!」
そこにケンさんが剣を振るい、クリムフォーレルの右翼膜を斬り裂いた。
「<我放つは鬼神の一撃>ーー<フレイム・スフィア!>」
追撃とばかりにエルフ族の火球が放たれ、翼膜を燃やした。これで空を飛ぶことは出来ないはず。
「グゥオォォォォォォン!!」
だけど、クリムフォーレルはまだ諦めていなかった。
俺たちの演奏をかき消しそうなほどの雄叫びを上げ、口から火を漏れ出させる。
負けてられるかよ!
「救世主なんて どこにもいやしない 世界の壁は こんなにも厚く 高い それでも往こう この
Cメロの最後で、俺は一気に声を張り上げてシャウトする。
熱く、燃えたぎる炎のように。必死に戦うケンタウロス族とエルフ族という勇敢な戦士たちを鼓舞するように。
「攻撃の手を緩めるなぁぁぁ!」
俺たちの演奏に感化されたのかケンさんが叫び、戦士たちが「オォォォォォッ!」と咆哮する。
「<我貫くは戦神の投槍>ーー<ライトニング・スピア!>」
放たれた雷の槍がクリムフォーレルに突き刺さる。
「<我放つは龍神の一撃>ーー<アクア・ニードル!>」
高水圧の水がクリムフォーレルの顔を直撃し、怯ませる。
「どりゃあぁぁぁ!」
そこをケンタウロス族の斧が襲い、左翼膜を叩き斬る。
「グッ! グルォォォ!」
「<我の守りは闘神の加護>ーー<ランド・ウォール!>」
斧で攻撃してきたケンタウロス族に向かってクリムフォーレルが火球を放つと、地面からせり上がった土の壁が火球を防ぐ。
その隙に後ろから回り込んでいたケンタウロス族の剣がクリムフォーレルの足を斬り裂いた。
またクリムフォーレルが倒れる。負けてない。こっちが押している。
ーー頑張れ!
「後悔は望んでいない 僕も 君も この世界も 辛辣な言葉も受け入れる 僕は 一人で 君の分まで そんな思いで 誰かを守れる そんな気がした どうか 君だけでも 上を向いて欲しい」
ラストのサビを歌い、やよいと真紅郎が演奏を止める。
最後に残ったウォレスの陣太鼓のようなバスドラムが響き、フェードアウトしていく。
これで<リグレット>は終わった。
「ーーグルルル」
だけど、まだクリムフォーレルは倒し切れていない。
あれだけの猛攻を受けても、あいつはまだやるつもりだ。
「オッケー、分かった」
ゆっくり深呼吸してから剣を地面から引き抜く。
クルリと剣を回し、構えてから言い放つ。
「ーーとことんやろうぜ?」
俺の言葉に反応したのか、クリムフォーレルは後ろ足を踏みしめて体勢を低くした。
あいつはもう空を飛べない。翼膜が傷つき、体中に焦げ跡、至る所に矢が突き刺さったままだ。
だけど、その威圧感はまだ健在。体はボロボロなのに、目は死んでいない。
敵ながら尊敬する。
「それでも、勝つのは俺たちだ!」
気合いを入れて走り出す。
同時に、クリムフォーレルも地面を蹴って突進してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます