十五曲目『宴』
夕暮れ時。俺たちはケンタウロス族の集落で食事を振る舞って貰っていた。
並べた木々を燃やしてキャンプファイヤーのようにした焚き火を、ケンタウロス族やセントール族と一緒に囲む俺たち。
目の前にはホーンラビットの肉や木の実が盛りつけられた皿と、その傍らには酒も置かれていた。
「ハッハッハ! やっぱり酒はいいなぁ!」
「飲み過ぎないでよ、ウォレス」
「
すっかり出来上がっているウォレスに真紅郎はやれやれと首をすくめる。ウォレスは酒が入るといつも以上にテンションが高くなってうるさいんだよなぁ。
まぁ、ウォレスのことは真紅郎に任せるとして……。
「……やよい、ダメだぞ?」
隣にいるやよいがビクッと肩を震わせ、酒に伸ばしていた手を止める。
「えぇ……ダメ?」
「ダメだ。お前、まだ未成年だろ」
「でもここは異世界だし……」
「絶対ダメ。異世界だろうがどこだろうが、ダメだ」
この異世界に元の世界の法律は適応されないだろうけど、未成年が飲酒するなんて俺が許さない。
断固として止めるとやよいは渋々頷いた。そこでセントール族の一人がクスクスと笑って話しかけてきた。
「でしたらこちらはどうでしょう? 木の実ジュースです」
「ありがとうございます! これならいいでしょ?」
「酒じゃないならいいぞ」
「やった! いただきます!」
セントール族からジュースの入った木のコップを受け取ったやよいは一口飲み、美味しかったのかゴクゴクと飲み進めていた。
子供っぽいやよいに思わず笑っていると、ケンさんが声をかけてくる。
「タケル殿。お主は飲まぬのか?」
「あー、俺は酒は飲まないんだよ」
酒はボーカルの命でもある喉を痛める可能性がある。だから、俺は酒もタバコもしないと心に決めていた。出して貰って申し訳ないけど、こればっかりは譲れない。
するとケンさんは残念そうにしつつも、やよいが飲んでいるジュースと同じものを差し出してきた。
「ならばこれを飲め。これならばいいだろう?」
「そうするよ。ありがとう、ケンさん」
受け取るとケンさんが自分が持っている酒を俺に向けてくる。何をしたいのか分かり、すぐに俺もジュースを向けた。
「ーー乾杯」
コンッとコップを軽くぶつけ合い、ジュースを飲む。木の実の甘酸っぱさが心地よく、するりと喉を通っていった。甘味料の入っていない、天然の木の実ジュース。これは、美味い。やよいが気に入るのも分かるな。
ふと無言でご飯を食べているサクヤが目に入る。ケンタウロス族たちは特にサクヤに……ダークエルフ族に対して悪感情がないのか普通に接していた。
エルフ族は嫌ってるみたいなのに、どうしてサクヤは大丈夫なんだろう?
「なぁ、ケンさん。ちょっと聞きたいんだけど、どうしてエルフ族と仲が悪いんだ?」
俺がそう聞くと、ケンさんはピクッと眉を動かし、静かに語り出した。
「ケンタウロス族は誇り高き戦士。あらゆる障害をその身一つで戦い抜く、強靱な種族。それに比べ、エルフ族は魔法を使う軟弱者。相容れぬのだ」
ケンさんは拳を握りしめて胸に当てながら答えた。
エルフ族はケンタウロス族を脳筋と言い、ケンタウロス族はエルフ族を軟弱と言う。
価値観の違い、みたいな感じか?
「なるほどね。じゃあ、サクヤはいいのか? ダークエルフ族なんだけど……」
「構わん。軟弱種族はどうだか知らんが、我らは別に何も思わない。それに、タケル殿の仲間なのだろう? なら、我らは歓迎しよう」
てことはダークエルフ族を毛嫌いしてるのはエルフ族だけなのか?
分かんないけど、とりあえずサクヤも受け入れてくれてよかった。
「ありがとう」
「だから礼を言うのは我らの方だ。本当に、タケル殿はおかしな
ククク、と笑いながら言われる。そんなにおかしくないんだけどなぁ。
「ハッハッハ! おら、真紅郎も飲め!」
「いや、ボクはもういいよ……」
「あぁん? オレの酒が飲めねぇってのか!? じゃあオレが飲む!」
……おかしな|人族《ヒューマン)は、ウォレスの方だと思うんだけど。
グビグビと酒を一気飲みし、木のコップを掲げるウォレスをケンタウロス族たちは「うぉぉぉ!」と叫んで拍手していた。
「タケル、ちとこっちに来てくれ」
ふと長……ケロさんに呼ばれて行ってみる。
「どうしました?」
「少し聞きたいことがあってな。タケル、お前はケンタウロス族をどう思っている?」
いきなりなんだ、と首を傾げる。どう思う、か……。
「見た目は怖いけど、優しい人たちだと思います。ちょっと頭が固いところがありますけど」
正直に答えると、ケロさんはカラカラと笑った。
「そうか、優しいか。まぁ、若いケンタウロス族は頭が固いところがあるな。我もどうにかしたいとは思うが……」
ケロさんはそう言ってため息を吐く。助けた時は凄かったからなぁ。
そこで俺は、ケロさんに尋ねてみた。
「ケロさん。あなたはエルフ族のことをどう思いますか?」
ケロさんは酒を飲むのをやめ、ある方向……エルフ族の集落がある方を見つめながら、ポツリと呟く。
「……そうだな。我はエルフ族を嫌ってはいない」
「じゃあ、エルフ族と仲良く出来ないんですか?」
「難しいだろうな。言ったであろう? 若いケンタウロス族は、頭が固い」
「でも、ケロさんが言えば……」
食い下がろうとする俺に、ケロさんは首を横に振った。
「エルフ族とは不可侵を結んでいる。今のところ、争いはない。だから、それでいいのだ」
ケロさんはそれだけ言うと酒を飲み、何も言わなくなった。
これ以上俺が口を挟むことじゃない、か。納得はしてないけど、仕方ない。
ここで、変な空気をぶち壊すウォレスの声が聞こえてきた。
「タケル! ヘイ、タケル! 聞いてんのか!?」
「なんだよ! うるさいな……」
顔を真っ赤にさせたウォレスがふらふらと俺に近づき、首に腕を回してくる。うわ、酒臭っ!?
「やろうぜ! 音楽!」
「は?」
「だーかーらー、ライブしようぜ! エルフ族の集落でもやったんだ、ここでやるのもいいだろ!?」
あぁ、そういうことか。
まぁ、やるのはいいんだけど……。
「ケロさん、いいですか?」
「む? おんがくとやらが何かは知らんが……ウォレスよ。それはどういうものなんだ?」
「聞けば分かる! 絶対後悔はさせねぇぞ!」
「ふむ。ならばやるがいい」
ケロさんから了承を貰うと、ウォレスは「よっしゃぁ!」と叫んだ。
「いいってよ、タケル! やろうぜ!?」
「……はぁ。仕方ないな」
エルフ族とケンタウロス族のことで少し気に病んでいたし、気を晴らすには丁度いいか。
「よし、やるか! あ、でもウォレス?」
「あん?」
「お前はまず酔いを醒ませ!」
手に持っていたジュースの入ったコップを、無理矢理ウォレスの口に突っ込む。そんな状態でライブなんかさせるかよ。
「ごぱっ!? ごぽぽぽ!?」
強引にジュースを飲まされたウォレスは苦しみ、それを見た真紅郎は俺に向かって親指を立てていた。
コップの中身が空っぽになると、ウォレスはせき込みながら膝を着いて俯く。
「お、おま、い、いきなり何を……」
「酔い醒ましだ」
「ゲホッ……あー、びっくりした。オッケー! ばっちりだ!」
落ち着いたウォレスはニッと笑みを浮かべる。よし、じゃあ……。
「ーーRealize、集合!」
俺の呼びかけにやよいと真紅郎、キュウちゃんが近寄ってくる。首を傾げているサクヤも手招きして呼んだ。
「今からライブするぞ! 全員準備しろ!」
俺が魔装を展開させると全員同時に魔装を手に持ち、どうしていいのか分からずに俺たちの顔を見つめているサクヤの頭をポンッと撫でる。
「お前は見学な。最前列でライブを見て、音楽を知っていけ」
「……分かった」
「きゅきゅー!」
「キュウちゃんもサクヤと一緒な」
頷くサクヤとキュウちゃんに笑いかけ、俺たちはライブの準備を始めた。
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