第二楽章『ロックバンド、セルト大森林でライブをする』

プロローグ『逃亡中』

「ーーおあぁぁぁぁぁぁぁッ!?」


 走って走って走りまくる。

 後ろから爆音とともに襲いかかってくる熱気に顔をしかめながら、それでも足を止めずに走り続ける。

 日の光を遮る木々で薄暗い森の中、草をかき分け、道なき道を走り抜けていく。


「い、いい加減どっか行けよぉぉぉ!」


 言葉が通じる相手じゃないのは分かってる。それでも思わず叫んだ。その声に反応したのか、それとも理解してるのかは分からないけど追いかけ続けてくるそれは、耳をつんざくような咆哮で答えてきた。


「ーーグルォォォォォォォォォォォ!」


 ビリビリとした音の壁が背中にぶつかってくる。チラッと振り返るとそこには木々を薙ぎ倒しながら追いかけてくるモンスター。

 真紅の外殻を身に纏った大きく強靱な体躯。爬虫類のような細長い瞳孔は獲物を捕らえようと鋭い眼光を放ち、鋭利な刃物のような牙が生え揃った口からは炎を燻らせている。

 地面を揺らす丸太のように太い二本の後ろ足と、前足と一体化した深紅の飛膜を持つ大きな翼。鈍器のような太くて棘がある長い尻尾。


 ーードラゴン。それも、ワイバーンと呼ばれる種類のモンスターだ。


 そう、俺たちはそのドラゴンに何故か襲われていた。


「ヘイ、タケル! もう戦った方がいいんじゃねぇか!? 一狩りしようぜレッツハント!」

「バカかお前は! 狩られそうなのは俺たちだろ!? それに魔力がまだ回復してねぇのに戦えるか!」


 隣を走る金髪白人のバカ……もとい、ウォレスの短絡的な考えに怒鳴って返すと「逆鱗に触れちまったぜ、ハッハッハ」と笑っていた。ドラゴンだけにか、ってやかましいわ!


「も、もしかしたらタケルの防具服に使われている素材がドラゴンだから、それに反応してるのかもしれないね!」

「そんなことよりこの状況をどうにかする作戦を考えてくれない!?」


 見た目は女の子に見える中性的な容姿

をした、俺たちの中で一番頭が切れる真紅郎は斜め上のことを考察していた。冷静なようで多分、かなりテンパってるようだ。


「違うでしょ! タケルの髪が赤いから、仲間だと思ってるんじゃないの!?」

「仲間だと思ってるなら襲ってこないだろ!?」


 そもそもこの赤い髪はお前が染めろって言ったからだろ、と紅一点で最年少のやよいにツッコむ。

 話している内容は余裕そうに見えるけど、実際は結構ピンチだ。魔力は回復してないし、それ以前にドラゴン相手に戦えるほどの実力は俺たちにはない。

 そんな時、俺たち……ウォレス、真紅郎、やよい、そして俺ことタケルの四人で結成したロックバンド<Realizeリアライズ>の仲間として新しく加わったもう一人が、口を開いた。


「…………お腹、空いた」

「ーーお前には緊迫感ってもんがないのか、サクヤぁぁぁぁ!?」

「ーーグルォォォォォォォ!」


 白髪褐色肌の少年、サクヤの脳天気過ぎる発言に対するツッコみはドラゴンの咆哮にかき消される。そして、ドラゴンの口から炎が漏れ出しているのを見た瞬間、俺は全員に向かって叫んだ。


「全員、回避ぃぃぃぃぃ!」


 その同時に、ドラゴンの口から炎が吐き出される。向かってくる炎から逃げながら、俺はどうしてこうなったのか思い出していた。


 ーーそれは、今から一時間前。マーゼナル王国からの追っ手から逃れ、少ししてからのことだった。

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