ロイと吸血鬼【6】

全身に痛みを感じる。じわじわと体を蝕んでいく痛みは次第に大きくなっていく。なのに体に傷はない。


「痛いな……」


「ぬっ!?お前……」


ドルサックは俺の体が修復していく様子を見て驚いている。

そして、何かを悟ったかのように笑い、


「そうか、そうか、お前はだったのか!」


「……」


言葉が出ない。と言うか、体すら動かなかった。魔力の大半を体の修復に当てたせいかすでに魔力が底をきっていたのだ。


動け!動け!頼む、動いてくれ!


ドルサックは銀色の弾丸を懐から取り出すと素早く腰にぶら下げていた拳銃に詰めると拳銃を向けた。


そしてーーー


バン!


乾いた音が聞こえる。刹那、先程までとは比べ物にならない激痛が俺を襲った。肩からは血が流れており、上手く動かない。

どうせすぐに修復すると考えていたのに、


「どうだ痛いか?」


何故だ!?何故傷が塞がらない!吸血鬼は不死なんだろ!?


「吸血鬼は不死だ。だが、例外もある。それは魔力切れと」


再び1発を体にくらわせる。


「っ〜〜!!!??」

「銀だ」


銀。それはさっき見た弾丸に使われていた物だろうか?


「お前は訓練兵としてはなかなかやるが、吸血鬼としては半人前だ」


不気味な笑みを浮かべてさらに説明をする。


「吸血鬼同士の戦いは基本、銀を使うものだ。覚えておけ、小僧」


ドルサックは俺の首を持って持ち上げると、1発、腹部に拳をくらわせて、


「クッ!!」


「お前は誰の……いや、その必要はないようだな」


何を……?


「ちょっと?何人の物に手出してんの?」


聞き覚えのある可愛げな声。そして淡々とした口調。思い当たるのはただ一人。


ドルサックは俺を横に投げ捨てると、


「ククク、そうか。お前の物だったか。


「えぇ、そうよ、おじさん」


「私はドルサックだ。いい加減に覚えてくれないとしょげてしまうぞ」


「あはは、いい歳こいたおじさんが何言ってんの?」


帝国では物珍しい銀色の髪。ガラスのような目は赤く染まり、今にも壊れ出しそうな肢体に不釣り合いな銃を持っている帝国式の軍服を着た少女。


「ニーナ……?」


思わず声を発してしまう。

だが二人は気にすることはない。


「まぁ、そんなことは置いといてその『64式』は元々私のものだから返して欲しいんだけど?」


「すまないが私はこれを狙っていたのだよ」


「あっそ」


軽く舌打ちをすると、


「力ずくで返して貰うわよ」


そう言って肩にかけていた魔導銃を取り出す。


「なっ!?64式だと!?しかもよりによって『白狼』とはな……」


驚く様子を見て、煽るようにーー


「あれ?私が持ってるってこと知らなかったの?」


「当たり前だよ。前回は『52式』を使っていたじゃないか」


響き渡る二人の笑い声。結界を張られているため、周りの音は聞こえない。


「ところでニーナよ」


「何?」


急に話題を変えたドルサックに不快そうな顔を見せるニーナ。指はすでに引き金に当てられている。


「急がないとお前以外全滅するぞ?」


「分かってるわよ!」


返事とともに1発の『弾丸魔法』がドルサックを襲った。重心をやや右にし、余裕を見せながら避けることもなく『弾丸魔法』を直撃させる。


「なかなか堪えるな」


受けた『弾丸魔法』による傷は徐々に回復していく。そして、1秒もしないうちに完全に修復された。

これを出来るものは限られている。


アイツも吸血鬼なのか!?


ニーナはすかさずドルサックとの距離を詰めると、腰に隠していた銀のナイフで斬りかかる。

ドルサックは軽やかに躱すと銀の弾丸が入った拳銃を向ける。その拳銃銃口を掴み、下に向けたニーナは胸部に銀のナイフを敵の胸部へと突き刺した。


「クッ、」


刺された胸部からは血が流れ、傷は


そして、すかさず追撃をかける。ドルサックの腹部をめがけて出されたその蹴りはしっかりと腹部を捉えた。

一瞬、ほんの一瞬彼が油断した隙を狙って俺の『64式』を奪い取ると距離を取った。


どうしてトドメを刺さないんだ?


確実に仕留められたはず。弱っている敵将などニーナの手にかかれば余裕で首を取れただろう。


なのにーー


刹那、猛炎がドルサックを包み込んだ。もし、一コンマでも遅れていればその灼熱の炎に巻き込まれていた。

あれを感じ取ったニーナの感は歴戦の戦士だから成せる技というやつだろうか?


猛炎に包まれたドルサックに向かって数発、弾丸を撃ち込むも全て彼を包む炎によってかき消されてしまった。


しばらく猛炎に包まれたドルサックを見ていた銀髪の少女は、


「チッ、逃げられた」


と、悪態を漏らした。


この状況で逃げられるわけがないと思っていたのだが、ドルサックを包むその炎が消えた頃にはすでに彼は姿を消していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る