ロイと吸血鬼【5】

夜のラグナル基地。基地の外を見ても目に映るのは暗闇だけ。高台から辺りを見回してもシーンと静まり返っている。まぁ、基地内以外だけなのだが。

先刻まで降っていた雨が止み、風とともにジメジメした空気が流れてくる。


「うわぁ、生暖かい風」


見張り台に立ちながら横で一人の男がブツブツと文句を言っている。俺はキッと睨みをきかせて、


「おい、アレン見張りをしろ、見張りを」


「えー」


気だるそうに柵にもたれかかる級友のアレン=ラグナルト。髪色は秋色で、掻き上げた右側の髪をピンで留めている。

一見チャラそうな見た目をしているが、単純な戦闘力では俺を遥かにしのぐ持ち主だ。

だが、面倒くさがりなこともあり、


「サボろうぜ〜、なぁ、ロイ〜?」、


「サボるな。見張りをしろ」


「いや、だってよ?他の奴ら遊んでんじゃん!?」


共和国軍との戦い。帝国軍は圧倒的に不利な状況にあったのにもかかわらず、一人も欠けることなくラグナル基地を奪還できたことで心の油断が生まれていた。

だから、基地内では宴と称してドンチャン騒ぎをしている。


だが、いくつか腑に落ちないことがある。共和国兵があまりにも弱すぎたこと。そして、ドルサックが生きていると言うことだ。


こんなことで大丈夫なのか……?


「なぁ、ロイ」


「ん?」


「どうして共和国の奴らは52使?」


「っ!!!!!???」


アレンの疑問。俺は全く気づかなかったが、言われてみればそうだ。何故共和国の奴らは『88式』と言う最強の武器を持っていながら旧型の魔導銃を使っていたのか?


弱すぎる共和国兵、新型を使わず旧型を使っていたこと。これはまるで誘い込まれた状況のような……


「おい、ロイ!敵だ」


「やっぱりか!」


素早く双眼鏡を取り出し、敵の様子を確認する。迫り来る100近くの兵の先陣をきるのは、


「ドルサック!?」


双眼鏡越しに目が合い、ニヤっと笑っている。ここからドルサックサクまでの距離はおよそ200メートル。なのに、確実に目があった。相手は気づいている。


「やばい!アレン!伏せろ!」


刹那、無数の『弾丸魔法』が降り注ぐ。酷い爆発音と共に爆風によって吹き飛ばされる。


「クッ!!」


「ロイ!無線で状況を伝えろ!」


すぐさまこの状況を仲間に伝えようと無線で呼びかけるも無線が繋がらない。


「ダメだ!結界を張られた!」


くそっ、まさか予想外だった。いや、目の前の餌につられただけだ。予想もクソもない。ただ美味しい状況に飛び込んだけに過ぎないのだから。


状況を確認するために敵の方向を除く。が、そこにはドルサックはいない。


ドルサックがいない!?どこに!?


そう思いアレンへと目線をやった刹那、が飛び込んできた。


「ぬっ!?次はなんだ!」


爆風を受けようと腕で顔を隠すアレン。


「ふー、やれやれ。これは年寄りには堪えるな」


アレンの声ではない。もちろん俺の声でもない。なら、誰だ?いや、この状況から考えられるのは一人しかない。さっき目があった

ーードルサックだ!


「お?お前……やはりこの前この私を撃った『黒狼』か」


黒……狼……?何のことだ?と言うか、何故こいつが生きてるんだ!?

この男はこの前俺がこの手で仕留めたはず、見間違えるはずがない。確かにこの男は


ドルサックはゆっくりと近づいてくると一言。


「小僧、この前の借りだ」


腹に重い一撃が襲う。何が起こったのか最初は分からなかったが壁に打ち付けられてから蹴られたと言うことが分かった。


「くそっ!!」


蹴りを入れられたせいで体がうまく機能しない。


「64式は貰っていくぞ」


おい、待てよ。それに触んじゃねぇ。それは、それはの形見だぞ……。


「おいおい、俺を忘れてんじゃねぇぞ?」


アレンが旧型魔導銃『52式』をドルサックに向けて構えている。


「残念ながらお前には私の結界を破ることは不可能だよ」


「ははっ!やってみなきゃ分からねぇだろ?」


「ハッハハ。面白い!ならばそこで死ぬがよい!」


ドルサックは肩にかけていた銃を使わず、拳でアレンへと迫った。狙いを定めて迫り来るドルサックに向けて『弾丸魔法』を放つアレン。

だが、あの男の言う通り、結界を破ることは不可能だった。


ドルサックの拳がアレンの結界魔法をいとも容易く破り、アレンを捉えた。とっさに防御をしたが、当然防御しきれるわけもなく、その場に倒れこむ。


「なかなかやるな」


一瞬、この男が言ったことが理解出来なかったがすぐにわかることとなった。そう、ドルサックの結界に傷が入っていたのだ。普通の兵士では『88式』の結界に傷をつけることすらできない。それを旧型魔導銃で傷をつけたアレンは単純に強い。もし、同じレベルの魔導銃を使っていれば結果は変わっていたことだろう。


ドルサックはトドメを刺すべく、『88式』を取り出しアレンの頭部へと当てる。


ーーやめろ!やめろ、やめろやめろやめろ!


不思議と傷は消えているのに受けた痛みは残っていた。


おいおい、不死でも痛みは残るのかよ。


だけど体は動く。友を助けるためなら化け物にだってなってやろう。もとより、その覚悟だ。

その場から起き上がり、足で踏ん張る。そして、


「その手を離せぇぇ!!」


殴りかかる俺に向かって拳を振るドルサック。

経験の差だろう。簡単に吹き飛ばされた。


ーー近くに『64式』があれば!!


ないものねだりをしても仕方がない。『64式』はドルサックの手にある。



『64式』で放たれた弾丸魔法が俺を襲った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る