殺戮に染まる戦場で戦慄よ響け

リルもち

第0章

プロローグ

降り注ぐ『弾丸魔法』が付与された弾丸の雨。

先刻まで無事だったはずなはるか後方にある本部は燃え上がり、隣にいたはずの友兵はすでに帰らぬ人となっている。


くそ、ふざけんな。なんでこんなことに……!


俺は近くにあった岩に拳を強くぶつけた。じんわりと痛みが走るがこの気持ちに比べればどうとでもない。


さえいなければ……」


愛銃の旧型魔道銃、『64式』をギュッと強く握りしめ、敵軍の男を見ながら歯を食いしばった。今にも歯が砕け散りそうなぐらい憎しみと悔しさの力で。


魔道銃とはこの世界での戦いで主流となっている銃の総称のことだ。特別な鉱石『《氷魔石ひょうませき》』を主体とした内部構造で作られており、今やこの世界の戦場ではなくてはならないものとなっている。

そしてあまりの需要の高さから次々に新型の研究が進んでいる。


その中で『64式』は名銃として知られていた。旧型の魔道銃ではあるが新型に勝るとも劣らない格式高い銃だ。魔力次第では『弾丸魔法』が付与された弾丸を何百発とも防ぎきることが出来る『魔力障壁』を使用可能な代物。

かなり強い性能を誇る『64式』だが、選抜された純度の高い氷魔石とそれを加工する高度な技術が必要なこともあってか、あまりのコスパの低さに世界で20丁しか生産されることはなかった。


その内の一つが訓練兵である俺、ロイ=フィルバートが持っている。だが、その姿は通常の『64式』のように木材の色が際立っているものではなく、黒く塗装され、金の装飾が施されている。

まさに異様な姿にして最強の名銃だ。


俺は銃に弾を込め、敵に狙いを定める。


当たるか?いや、少し遠いな。ギリ届くかと言ったところか。


ゆっくりと深呼吸をした後再び狙いを定める。相変わらず弾丸の雨が降っていると言うのによくもまぁ落ち着いていられるものだと笑ってしまう。


ーーーー当たれ!


銃口から出て行った弾丸は無数の敵をすり抜け、敵の魔力障壁を破壊してたった1人の人物の脳天を抜いた。


「カハッ!」


無数の兵士の中でただ1人。唯一金の装飾が施されている軍服を着ている男を俺は見逃さなかった。屈強な体つきに強面、少し可愛げのあるちょび髭をつけた馬にまたがるスキンヘッドの軍人。恐らく彼が今目の前にいる部隊の総大将だろう


「ドルサック少佐!」


周りで同じように馬にまたがって控えていた側近らしき男が叫んだ。


やったのか……?


自分達の大将が撃たれたとなれば敵も撤退せざるを得ないだろうと少しこの絶望的な状況から希望が見える。

だが、


「少佐を撃ったのは『64式』だ!近くにいるぞ!絶対に見つけ出せ!」


何故だか敵が撤退する様子はない。先刻と同じように戦い……いや、蹂躙だ。これはもはや戦いにすらなっていない。


敵の装備は近未来の『64式』とも呼ばれる『88式』。性能でこそ『64式』に劣るものの、生産面で言うと非常に優秀だ。名銃と性能があまり変わらず、なおかつ従来の銃の二歩、三歩先に立つ。それに加えて大量生産可能ときた。

それに加えて、俺達の軍は一般流通している『52式』。敵の『88式』と比べ、連射速度から射程距離まで何から何まで劣っている。この、武器の差が蹂躙を生み出していた。


「どうして撤退しないんだよ!と言うか、この蹂躙は国際法に違反してんだろ!」


思わず悪態を漏らしてしまう。だけど、仕方がないだろ。だってどうしようもないんだから。

さっきまでの余裕はどこへ行ったんだと自分で笑ってやりたいとすら思う。獲物のウサギかのように逃げ回り、敵に狙い撃ちされる。

こんなのだったら死んだ方がマシだとさえ思ってしまう。先程までの余裕は単に大将を絶対に殺せると分かっていたから。ここでの戦いが終わると確信してたから。だけど、違った。

目の前にあるのは撃っても撃っても終わらない敵からの蹂躙のみ。


1発の弾丸が足を貫いた。電気が走ったかのような痛みはほんの一瞬だった。気づけば俺はその場に倒れているし、足からも血を流している。


くそっ!足をやられた!動け!動けよ!


「みんなは!?」


撃たれた足を引きずりながら戦場を見渡すも視界に映るのは次々にやられていく味方のみ。学友は見つからない。いや、それもそうか。こんな状況で学生が生き残ってる方が珍しい。一端の、ましてや実践ゼロの訓練兵がこんな過酷な戦いで生き残れるはずがない。


どうしてこうなったんだ!訓練兵はただ後衛で雑務をこなすだけの安全な研修だったのに。

なんでだよ!どうしてこうなる!これさえ終われば後は内地で訓練してから安全な内地任務だったと言うのに!


ふざけるな。



ーーーーーーバン!



乾いた音が耳元で聞こえた。いくつもの銃声が聞こえるはずの戦場でたった一つの銃声をはっきりと聞き取った。

じんわりと胸が熱くなる。手を当てるとベチャリと赤い液体。


「えっ?」


一瞬何が起きたか分からなかった。ただ見えたのは仲間の血で作られた水たまりに映る撃たれた俺の姿。


途端に意識が途切れた。





「あら、もう死んだの。まぁ、いいや。コイツロイは私のになるわけだし」


赤い瞳に長い銀色に輝くストレートヘアーのスラリとした体型の良い少女が一丁の銃をロイに向けて立っていた。銃口からの煙は彼女がロイを撃ったことを物語っている。


。素質がありそうね」



赤い目に銀色のストレートヘアー。それに加えて綺麗なボディーラインをした戦場に不釣り合いと断言できる美しくて可憐な少女はロイを連れて姿を消した。

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