その後……
5-1 万物流転――始まりの未来
少年は懐かしのノートを引き出しから取り出し、軽く触れた。
ノートの年季は確かなもので、黒焦げ、所々が灰にでもなっのか、宝の地図のように薄汚れている。
そっと頁を捲っていく……。
四月〇日 〇曜日 晴れ
施設にも、新しい学校にも少しだけ慣れてきました。
今日、転校して初めて友達ができたよ。
響希君っていうんだ。
でね、聞いてよ。
響希君って魔法使いの子供なんだって。
あ、魔術って言ってたけど。
すごいよね。感げきだよ。僕もう、うれしくって。
明日も学校が終わったら二人で特訓するんだ~。
楽しみ。
あ、宿題はちゃんとするからね。
おやすみなさい。
おとうさん。おかあさん。
五月〇日 〇曜日 くもりのうち晴れ
今日はね、響希君と魔法陣を一緒に描いたんだ。
コンパス使ったり最初はすごく下手だったけど、少しだけ上手くなったよ。
響希君はすごく上手なんだよね。僕も早く上手くなりたいな~。
あと、明日からは林間学校へ行ってくるね。
そこでも二人で秘密のトレーニングいっぱいするんだ。
今日は明日の用意を確認したらすぐに寝るね。
おやすみなさい。
おとうさん。おかあさん。
五月〇〇日 〇曜日 雨
林間学校もおわって一週間くらい。
もう一回行きたいな。
本当に楽しかったんだよ~。皆で作ったカレーもまた食べたいよね。
最近は園長先生がとても優しくしてくれてお菓子もいっぱいくれたよ。
明日は学校が休みだから朝から響希君と特訓です。
早く僕も魔術が使えるようになりたいな。
そろそろ眠たいから寝るね。
おやすみなさい。
おとうさん。おかあさん。
六月○日 〇曜日 雨のちくもり
昨日は日記書けなかった。
あのね、園長先生が病気なんだって。
でもね、園長先生が魔術をつかったらなおるかもしれないって言ってた。
園長先生も魔術を使えるんだって……内緒ねって言われたけど日記だからいいよね。
それでね、僕も協力して欲しいって。
協力したらすぐに魔術が使えるようになるんだって。すごいよね。
けどね、園長先生の魔術は、響希君のとは全然違うかったんだ。
裸になって、色々教えて貰ったけどなぜか怖くなって泣いちゃった。
今日はもう寝るね。
おやすみなさい。
おとうさん。おかあさん。
六月〇日 〇曜日 晴れ
また昨日の日記書けなかった。
園長先生の病気もまだ治らないみたい。
僕もがんばってるんだけど、園長先生にはやく元気になってほしいな。
でもやっぱり響希君と魔術の特訓している時が一番楽しいよ。
だってかっこいいんだよ。
開け。我が全源よ――って今日はここまで。
もう寝るね。
おやすみなさい。
おとうさん。おかあさん。
六月〇日 〇曜日 晴れ
昨日も日記書けなかった。
園長先生が教えてくれた魔術ってすごい疲れるんだ。
あとすごく難しいんだよね。
でも、どんどん良くなってるって言ってた。
今日はもう寝るね。
おやすみなさい。
おとうさん。おかあさん。
六月〇日 〇曜日 晴れ
今日は先に日記書くね。
だって園長先生と魔術を使ったら、疲れて先に寝てしまうからね。
園長先生が今日で治るかもって言ってた。
これで響希君と魔術の特訓に集中できるんだ。
それに明日は響希君がこっそり家から魔術書持ってきてくれるんだって。
すごい楽しみだよ。
はやく明日の学校に行きたいな。
今日はまだ寝ないけど。
先におやすみなさい。
おとうさん。おかあさん。
「ふぅ……」
少年は溜息混じりに、途切れている頁を最後に閉じた。
「……翔太君……魔術師って案外ならなくて正解だったかもね。だってさ」
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します。おはようございます当主。朝食の準備が出来ましたのでお知らせに」
少年に対し、深く頭を下げる使用人が二人。
「田中さん、毎回言うけど、別に無理して当主って呼ばなくてもいいよ。響希でいいからさ。ねぇ宮田さんもそう思うよね」
宮田と呼ばれたもう一人の使用人が頭を上げる。使用人としては、最年長である貫禄なのか、額の皺が年々増えていくのを響希は感じていた。
「いえ、田中は使用人としての務めを果たしたまでかと」
「はぁ……もういいよ。それよりさ、今日は僕、朝食要らないから。ごめんね」
「それは構いませんが、こんな早朝からどちらに? 本日は、舞咲高校の創立記念日。学校はお休みと聞いておりましたが」
田中は怪訝な表情で、響希を見つめる。
「あぁ……少し急な任務が入ってね……」
「……そうでございますか……では、お帰りは何時頃になりますでしょうか?」
「ごめん、それも分からないんだ。結構時間かかりそうだから、夕食は作らなくてもいいよ。祖母ちゃんの分だけ作っておいてあげて」
「それはなりません。では作り置きご用意しておりますので、お気を付けて。失礼します」
そう言い残した、二人の使用人は、部屋を後にする。
「ふぅ……」
溜息をついた響希は、引き出しにノートをしまう。
「だってさ、翔太君も両親もいなくなるし……」
独りごちりながら掛けてあった黒いコートを羽織る。
「それに今からさ……ずっと家に帰ってこない……」
ポケットに手を突っ込んで、ニ十センチ程の棒状があることを確認し、部屋を出る。
「姉さんを殺しに行かなくちゃいけないんだから……」
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