2-3 現場調査①~響子&出夢~
響子は近くの角を曲がろうとしているランドセルを背負った少年の後を追う。
「そ、そこの少年! 待ってくれないか?」
声をかけられた少年は、ビクッと肩が動き、恐る恐る振り返り響子と出夢を交互に見つめた。
「驚かせて済まない」
「……あっ、響希君のお母さん?」
「覚えてくれていたんだね。翔太君。こんにちは」
少年の正体は昨夜、響希と共に遊んでいた翔太君だった。
中性的な顔たちをした翔太君は、髪がサラサラで長めのせいか、美少年、美少女とも見える。
「こ、こんにちは……響希君ならまだいなよ」
先よりは驚かなくなったものの、何処か落ち着かない様子の翔太君。
「あ、いや今日は響希のお迎えではないんだ」
「えっ……良かった……」
翔太君は安堵するように息を吹いた。
「うん、え、どうして?」
言い出しにくそうにもじもじする翔太君。響子はますます分からない。
「……だ、だって昨日響希君言ってた。殺されるって。だから今日殺しにきたのかと思ったから……」
「あ……」
「こ、殺しに来たって響子さん昨日この子に何しようとしたんですか⁉ あ、もしかして今回の犯」
「ややこしくなるからお前は少し黙ってろ!」
響子はゆっくりとしゃがみこみ、翔太君に視線を合わせるようにして、そのサラサラの髪を軽く撫でた。
「翔太君……あれは響希の噓だ」
「えっ……本当?」
「ああ。だから安心して。どうせ今日も響希は来るんだろう?」
「う、うん!」
翔太君はとびっきり嬉しそうな笑顔を見せた。
響子はそのまま翔太君を抱きしめる。
「優しい子だね翔太君は。これからもあんな響希だけど宜しくね」
「うん!」
「うーん、俺はますます響子さんが怪しく見えてイッデッェエ」
響子に脛を殴られた出夢は悶絶する。
「ねえ翔太君。少しだけ聞いてもいいかな?」
「なに?」
「昨日さ、私達とバイバイしてから何か大きな物音や変な声とか聞こえなかった?」
うーんと翔太君は思い出すよう首を傾げた。この愛くるしい仕草で世のご婦人、お姉様方の母性をくすぐり九割は落ちるだろうと出夢は思ったが、黙っておくことにする。
「あっ!」
「どうした、何か思い出したのか?」
「昨日ね、夜中にトイレに行きたくなって行ったんだけど、その時にね、窓から青い火の玉みたいなのが一瞬だけ見えたよ」
「青い火の玉?」
「うん。怖くてすぐに園長先生と一緒に寝たけど」
翔太君の言葉に二人の顔は一瞬、強張る。
「へ~そうなんだ。園長先生はいつも皆と寝てるの?」
「園長先生の部屋はあんまり広くないから毎日順番交代で寝るんだ。その時に色んなお話し聞かせてくれるんだよ~。外国のお話しとかね、あとは……」
無邪気に喋って見せる翔太君を横目に、響子と出夢は互いに相づちを打つように頷いた。
「アハハ。それはいいな~」
「でしょ~ねぇねぇ響希君のお母さん。あの人は誰なの?」
翔太君は響子の袖をギュッと握り、もう片方の手で出夢に指を指しながら、不安気な表情を見せる。
「えっ、あ、ああ……この人は一緒に仕事してる仲間だよ」
翔太君は出夢をじろじろと見つめる。
「もしかして……不倫?」
プッーーーーと同時に噴き出す響子と出夢。
「し、翔太君? どう勘違いしたらそう見えるのかな? あ、分かったぞ、園長先生からイケナイお話でも教わっているのかな⁉ アハハ、駄目だよ翔太君、君にはまだそういうのは早すぎるよ、アハハ、アハハハハハハハ!」
響子が嫌な汗を流し始めたそんな時だった。
「あれー響希君のお母様ではないですか?」
声を掛けてきたのは、昨日響子が一番最所に出会った二十代半ばの地味な女性職員だった。
「こ、こんにちは~アハハ」
「どうされたんですか、こんなお時間に? 響希君ならまだ来てませんよ?」
「あぁ……今日は仕事で近くまで来てまして、そこで翔太君に会ったもんで。ね、アハハ」
響子はガシガシと頭を掻きむしる。
「あ、そうだー。忘れてたー。仕事に戻らなくちゃいけない時間だったー。では私達はこれでー。じゃあねー翔太君―。行くぞ神司」
響子は下手糞な棒読み演技で、足早にその場から立ち去り、軽く頭を下げた出夢もその後を追った。
「ちょっと待って下さいよ響子さ~ん」
「お前が遅いだけ……っ?」
二人が舞咲おひさま学園の門扉前を通り過ぎ去ろうした時、響子は不意に立ち止まった。
――あれ、昨日こんな染みな……。
「ちょ⁉ 響子さん? 急に立ち止まら出で下さいよ!」
「神司うるさい! 先に車に戻ってろ!」
「へ? なん」
「いいから早く行け!」
「は、はぁ……分かりました、分かりましたから!」
何かいまいち状況が掴みきれない出夢だったが、よくよく考えたら駐禁切符を切られる可能性があるので、停車してある車に急いで向かった。
響子は早速気になった違和感を探る為、赤渕メガネを少し上げ、手をソレに伸ばした。
覗き込む響子の瞳は、薄っすらとした緑色の光に包まれている。
そのまま黒の
触れた指先には、淡白い粉が付着していた。
すぐさま指の匂いを嗅ぎ、舌の先端で舐めた。
「
***
車に戻った二人は、一度本部に戻ることに。
走り出した赤のミニバンは住宅街を抜け、国道沿いに出る。
「ふぅー焦った~」
「響子さん演技下手すぎですよ」
「……お前だけには言われたくない。で、ちゃんと分かったんだろうな?」
再びサングラスを掛けた出夢は、窓際から見えてきた舞咲海岸の海を眺めながら呟く。
「まあ少しくらいなら―――施設内の一部にかなり強力な結界が仕掛けられてました……」
「やはり、黒か」
「施設全体には軽い護符の結界だけなんですが、一部の強力な結界の方は少し異常だ。二重、三重、いやあれはもっと五重以上の結界が張られてる」
「は?」
「ただ、細かくは場所の確定が出来ないのと、施設内には入ってないのでこれはあくまで
魔術師が体内の
「……混合独立組織か」
「どうですかね。それよりも響子さんこそ、花枝って女に会ったんでしょ、何か気づかなかったんですか?」
「何にも。もしかしたらそれも
「うん? でも何ですか?」
「女性職員はともかく、花枝紗百合を昔どこかで見た事あるような気がしてな……いや、気のせいか」
「魔術師かどうかは、こっちも手を出さない限り分からないかもしれないですね」
「ああ。でも何らかの術師ってのは間違いないと思う」
「響子さんは花枝が
「どうだろうな。翔太君の話を聞く限り一番怪しいのは花枝で間違いない。でも結界の外で翔太君を抱きしめた時、何かされたような
けど、うーん……まだ何とも言えんな」
「なるほど、あれはそういう意味だったんですね。上司が正常で安心しました」
出夢は口元をイタズラにニヤつかせいる。
響子は運転に集中するように視線は前向きに、無言で出夢のこめかみを殴った。
「イデッ……でもまぁ確かに、翔太君からも花枝を恐れてるような素ぶりは全く感じられなかった」
トゥルルルルル。響子のスマホが震える。
表示を見れば、雪愛からだ。そのまま車内通話に切り替える。
「どうした、何か分かったのか?」
「き、響子隊長‼ 大変です、大変なんです! 今すぐ来て!」
雪愛の緊迫した声は、車内スピーカーに痛いほど響き渡り、車内の二人に緊張感を走らせた……。
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