第7話 散歩

 快晴の空は青く美しかった。太郎は紗音瑠と一緒に歩いて近くの公園へ向かった。途中で景色を見ながら、街路樹などの名前を教えた。

「この花は何て言うか知ってる?」

紗音瑠は首をひねる。

「これはハナミズキっていうんだよ、歌の名前にもなっているよ」

ちょうど花水木の花が青空へ向かって背伸びをするように輝いて咲いていた。

しばらく歩くと、しゃがんで

「この青い小さい花の名前はわかる?」

「わからない」

「これは、オオイヌノフグリっていうんだよ。『ふぐり』っていう意味は知っているかな」

「知らない」

「『キン〇マ』のことだよ」

「えっ」

「だから、『犬のふぐり』は「犬のキン〇マ」っていう意味さ」

紗音瑠がうれしそうに笑う。

「こんなにかわいいきれいな花に、ひどい名前を付けるよね~。この花の実がキン〇マに似ているからなんだよ」

「へ~そうなんだ」

こうやって少しずついろいろなことを教えていく。でも一度にたくさんは無理なので、様子を見ながら。


 公園に着くと、周りを歩きながら虫探しをする。

「ここは、『なかよし公園』って言うんだ」表示を差しながら、教える太陽。

そして、「虫探しをしようか」と、誘ってみる。

「うん」嬉しそうに返事をする紗音瑠。


紗音瑠が石を裏返して、ダンゴムシやハサミムシを見つける。

しばらく眺めると、また探しに行く。

「あっ、バッタの赤ちゃんがいた」

孵化したばかりの小さなショウリョウバッタがいた。

「本当だ、まだ幼虫だ」

紗音瑠がショウリョウバッタを追いかけて捕まえようとするが、草むらに隠れてしまう。

「逃げられた」


たくさん咲いているナズナには、黒いアブラムシがびっしりとついている。

それを食べようとしているナナホシテントウも数匹見つける。

「この虫の名前分かる?」

「ナナホシテントウ」

「そう、よく知っているね。じゃあ何でナナホシっていうのかわかる?」

「うん、黒い点が七つあるから」

少し驚いて見せて、

「やっぱり紗音瑠は頭がいいや」と褒める。

「テントウムシを指に乗せてごらん」

紗音瑠が人差し指に乗せると、テントウムシは上に登っていき、指先に来ると、羽をパカッと割って、青空へ飛んで行った。

「テントウムシは、天道に向かって飛んでいくから天道虫って言うんだよ。天道ってわかる?」

首をひねって考える紗音瑠。

「天道は、おてんとうさまだよ」

「あ~太陽のことか」

「ピンポン、正解」

「ははは・・・」

二人で笑いあった。


 その後は、明日から通う学校へ歩いて行った。

歩きながら、信号の渡り方や、道路の歩き方を確認した。

校門に着くと、

「ここが明日から通う小学校だよ」

「中に入ってみようか」

「うん」

校庭では、数人の児童がサッカーをしていた。

少し不安げな紗音瑠と二人で手を繋いで校庭のまわりを一周した。

大きな桜の木がたくさんあった。

校舎のまわりも一周した。

朝顔の双葉が芽を出した青いプラスチックの鉢が外に並ぶ教室に近づくと、二人で中を覗き込んだ。

「ここが一年生の教室だね。どちらのクラスになるかな。友達たくさんできるといいね」

「うん」と言いながらも、どこか不安そうな紗音瑠だった。

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