第5話 吉備団子

昔々、玉野競輪場付近に老夫婦がおりました。

おじいさんはヤマ感で6番車を

おばあさんは可哀想だと4番車を

邪な思いではない、これが本命だと言い聞かせながら24時間震えている手で…マークシーろ……に…

その時でした。そばを流れていた川から113期の8番車が流れてキタのです。

おじいさんは言いました。

「婆!」

おばあさんは返します。

「誰が婆や!足腰立たんようにするど!」

一見、只の痴話喧嘩です。

しかし、ここで二人の意見は一致します。

桃(8番車)を買えと。

桃を持ち帰りたい気持ちは山々でしたが、拾わずスルーしました。

競輪させた方がいい、だって飛ぶ鳥を落とす勢いの113期なのだからと。


そして、初日を迎え


「婆!桃!婆!桃!」


「誰がや!しばくど!桃!桃!」


113期のオハコとも言えよう徹底先行で他者を圧倒する桃でした。おじいさんもおばあさんも失禁寸前で応援しています。


そして、ゴール前

颯爽と駆け抜ける1、9番車。

桃は最終コーナーで力尽きみるみる順位を落としていました。

その時です。入金されたばかりの年金を全て賭けていたショックからか、夫婦共に足が震えだしました。

幼き日に感じた、あの暖かい感触を思い出しながら。

レジ袋に入れたパンツをグルン、グルン回しながら、でも何も言わず二人は帰路につきました。そして、キス。


その夜は40年振りにまぐわりました。


「婆!婆!……!?」


「誰がや!役立たず!」


おじいさんも最終コーナーで失速してしまったとさ。


めでたし、めでたし。

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