アドベント
T_K
サプライズの準備
「うわー。美味しそう!」
「喜んでくれて良かった」
「今日は有難う。こんな素敵なディナーを用意してくれて」
「パン、食べ過ぎないようにね」
「分かってるよー」
「あはは」
僕はすっかり安心しきっていた。ここまで、想定外な事は多少あったものの、
概ね僕の計画、そして打ち合わせ通りに事が運んでいたからだ。
その後に何が待っているのかなど、考えるはずもないまま・・・。
10月24日、僕は都内でも有名な高級ホテル、スペリオルホテルに居た。
普段なら立ち寄る事は疎か、前を通っても中を覗き見ることすら躊躇う様な、
全く縁のない場所に、僕は居た。
ドキドキしながらエントランスをくぐり抜け、フロントで今日の目的を告げた。
コンシェルジュはお待ちしておりましたと笑顔で僕を迎え入れてくれた。
コンシェルジュを伴って、3階へと続くエスカレーターに乗る。
3階へと降り立った僕は、
吹き抜けとなったホテルのエントランスを思わず覗き込んだ。
ラウンジには如何にもお金持ちそうな老夫婦が、
まるで映画の1シーンの様な美しい所作で紅茶を嗜んでいた。
目的地となるフランス料理店の場所はその3階の一番奥にあった。
入口には如何にも美味しそうな料理を作りそうな
外国人シェフの写真が飾られていた。
11月30日、少し早めに会社を出た僕は、
紙袋を手に下げ、息を切らし、ドキドキしながら彼女の部屋の鍵を開けた。
恐る恐るドアを開けて下を見やる。
彼女の靴がない事を確認し、急いで中へと入った。
早々にカバンを下し、
カバンからこの日の為にと準備していた小さな手紙を取り出した。
早速、紙袋から中身を取り出す。
それは、クリスマスツリー型をしたボックスだった。
アドベントカレンダーと呼ぶらしい。
12月1日から24日まで1つずつ開封していき、
クリスマスまで毎日ちょっとしたものがプレゼントされるのを楽しむカレンダーだ。
僕は、そのアドベントカレンダーの1日、22日、24日のボックスを開け、
先程カバンから取り出した、手紙をボックスの中に仕舞い込んだ。
そう。これは僕から彼女へのサプライズプレゼントなのだ。
作戦はこうだ。
まず、1日のボックスには
24日と25日のスケジュールを開けておく事と手紙に書いてある。
これにより、24日はどこかへ旅行する事は何となく伝わるだろう。
そして22日のボックスにはスペリオルホテルの名前が書いてある。
更に24日のボックスには、指定の時間と地図が書いてあるワケだ。
このアドベントカレンダーサプライズ大作戦は、
緻密な計画によって成り立っている。
様々なアンケート調査や雑誌を調べ尽くした僕は、
女性への過度なサプライズは嫌われると重々承知していた。
相手の都合も考えなければならないと学んだ僕は、
24、25日の予定を彼女に確実にとってもらう為に、
1日のボックスに手紙を入れたワケだ。
勿論、それまでにも、デートの度にそれとなく
24日のスケジュール開けといて欲しいなという意思表示も示しておいた。
そして22日の手紙にホテル名を書いておいたのは、
どんな服装で行けば良いか、しっかり彼女が考えられる様にとの配慮である。
最後に、24日の地図と手紙で
彼女一人でもホテルへ行く事が出来る様にしてあるワケだ。
今回は都内のホテルなので、彼女の家からは電車で30分程度。
敢えて彼女の家には迎えにはいかず、
現地のホテルで待つ方がスマート且つ彼女もドキドキ出来るって魂胆だ。
勿論、ホテルのスタッフやレストランとも
事前にしっかりと打ち合わせを行ってある。
何故ここまでしっかりと計画を練ったのか。
それはズバリ、僕はクリスマスイブに
彼女へプロポーズをしようと考えていたからだ!
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