魔王のいない時間2

急にやって来た魔王を名乗る青年――レクシスはふざけているとしか思えなかった。

適当にあしらっていたが三日目辺りにクッキーを持ってきた。

本人いわく『魔王お手製愛情クッキー』らしい。

魔王が料理をする姿を思い浮かべなんとも言えない気分になった。


最初は得体の知れない人が作ったものなんて怪しすぎて口に出来ないと思っていたがつい誘惑に負けてひとつだけ食べてしまった。

牢で出される食事が少なく不味かったせいだ。

ひとつだけと口に入れたそれは嘘のように美味しかった。

今まで食べたどんなお菓子よりも美味しいそれにもうひとつだけ、と手を伸ばしかけた時。


「そんな者を差し入れたのは誰だ」


低い声がして顔をあげると牢屋の柵越しに王子がこちらを睨み付けていた。


「魔王です」


「はっ、魔王など所詮おとぎ話の生き物だろう。そんな事すら分からないほどイカれたか。おい看守、あれを取り上げろ」


王子の命令で看守が私からクッキーを取り上げる。


「あぁ、お前の死刑の日取りが決まった。十日後だ。地面に頭を擦り付け謝るならせめて命だけは助けてやるがどうだ?」


にやりと口許を歪ませながら笑う王子は私を断罪した時のミリアと同じ顔をしていた。


「お断りします、私は無罪です」


王子を見据えはっきり告げると彼は舌打ちをして「ならば望み通り死刑にしてやる!」と吐き捨て去っていった。

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