メイトギアの悲哀

アンナTSLフラウヴェアやプリムラEL808のように、積極的にCLS患者の処置を行わず、平穏な日常生活を送ろうとするロボットは、徐々に増えつつあった。


タリアP55SIも、そんなメイトギアの一体だった。と言っても、アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808が暮らす集落に現れ、フィーナQ3-Ver.1911によって破壊されたものとは別の機体だったが。


しかしなぜ、彼女らは捨てられることになってしまったのだろうか? 無論それは、あまりに旧式化してしまったからというのが一番の理由である。人間の健康寿命が二百年に達し、商品の開発スパンが三十年ほどになっても、さすがに百年も経てば規格も古くなってしまうのだった。


とは言え、ロボットであることが強みとなり、蓄積したデータや記憶はストレージにバックアップが取られ、新しいロボットに買い替えた際にはそちらに全てのデータや記憶を移し替え、また家族として一緒に暮らしていくということになるのである。


メイトギアには心はないが、心がないからこそ、データと記憶の引継ぎだけで、新しい機種になってもまったく同じように振る舞えるのだとも言えた。


大切にされたが故に、主人達と一緒に暮らした頃を再現しようとするようなメイトギア達の多くは、そうやって機体を更新したことで不要になったもの達だった。


だが本来、買い替えで引き取られたロボットは初期化され、中のデータも消されるのが通例である。でないと、非常にプライベートなデータが機体に残ってしまうからだ。にも拘らず、リヴィアターネにはかつての記憶をそのままに持ったメイトギアも少なくなかった。それはつまり、初期化した上で新たに設定し、かつCLS患者の処置を指示するという手間を惜しんだ一部の業者が、データや記憶を残したままでCLS患者の処置を指示しただけで投棄している例があるということを示していた。


実際、完全に初期化された上で投棄されたメイトギア達は、ただ黙々と与えられた役目を果たしているだけである。人間がいないから、人間の情動を新たに学ぶこともないからだ。


彼女達に心はないものの、杜撰な業者により元の主人の記憶を持ったまま投棄されたメイトギアは、ある意味では不幸だとも言えるかもしれない。主人達と一緒に暮らした頃の生活を再現しようとすることは、彼女達のささやかな抵抗なのだろうか。


今回のタリアP55SIも、そんなメイトギアの一体であった。そして、そんな彼女は出会ってしまったのだった。人間がいない筈のこのリヴィアターネで、いる筈のない<人間>に。


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