リルフィーナとリリアテレサ

フィーナQ3-Ver.2002は自分に拠点から動かないように命令はしていたが、実はそれに従わなければいけない理由はグローネンKS6側にはなかった。戦闘モードが解除されてしまったとは言え彼は今でも軍属であり、総合政府の管轄下にあった。民間のメイトギアに従う必要はなかったのである。彼女が何をしていようと別にどうでもいいから言われた通りにしていただけでしかない。


無論、フィーナQ3-Ver.2002の側もそれは承知の上だった。グローネンKS6が戦闘モードに入れないことは分かっていたので危険はないと判断していたものの、少しでも不確定要素を増やさないようにする為にそう命じていただけだった。だからもし、彼がついて来ようとするならそれを無理に止めるつもりもなかった。


そして、フィーナQ3-Ver.2002が現れて一ヶ月が過ぎた頃、彼はついに好奇心に負けて彼女の後をつけてしまったのだった。


若い女性のCLS患者を捕え、ベルトで背負子に拘束し、いつものようにそれを背負ってどこかへと歩き出す彼女の後を、彼はついていった。フィーナQ3-Ver.2002の方もそのことには気付いていたが特に気にすることもなく好きにさせた。


既に彼が危険な存在でないことは十分に確認できていた為だ。五キロほど歩くと住宅街に入り、それも通り抜けて小高い丘へと彼女は登っていく。見ると、その丘の頂上付近にいくつかの建物が確認できた。プレハブのような、仮設の建造物のようであった。


途中、一体のメイトギアが彼女を迎えるように立っていた。それは彼のデータベースにはないタイプのメイトギアだった。一見すると十二~十三歳くらいの少女のような外見をしていた。


リリアJS605sである。


後発の中小ロボットメーカーが多機種少数生産という形で販売した<マイノリティモデル>と呼ばれる雑多なメイトギアの一機だったので、グローネンKS6のような純粋な軍用ロボットには縁のない存在であり、特に必要ないとしてデータベースには登録されていなかったのだった。


「おかえりなさい。リルフィーナ。ご苦労様です」


フィーナQ3-Ver.2002に対して労いの言葉を掛けながらも、可愛らしい外見に似合わずひどく冷めた目をした、どこかシニカルな印象のあるそのメイトギアに対して、彼女の方も、


「只今戻りました。CLS患者の受領をお願いします。リリアテレサ」


と淡々と応え、背負子ごと<リリアテレサ>と呼んだリリアJS605sに引き渡す。どうやら<リルフィーナ>や<リリアテレサ>というのは、彼女たちのオーナーによって与えられた固有名詞のようであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る