フィーナQ3-Ver.2002

同じ拠点にいた仲間とも言うべきフローリアCS-MD9を何者かの襲撃により失ったグローネンKS6は、再び拠点の前でうなだれたまま動かなくなっていた。


しかし数日が経つと、やはり何かに気付いたかのように不意に頭を上げ、そちらを見た。データベースで検索し、それがフィーナQ3-Ver.2002であることを確認する。最近、この辺りをよくうろついているメイトギアであることはグローネンKS6も気付いていた。しかし、どうやら他の拠点を担当しているらしくここにはこれまで近付いては来なかったのだ。


だが、他のロボットがこの拠点に現れなかったことから、そのフィーナQ3-Ver.2002がそれを兼任することにしたようだった。いずれ他のロボットに任せることになるとしても、それまではということなのだろう。


ただ、グローネンKS6は、フィーナQ3-Ver.2002に甘えるような仕草を見せながらも、どこか不穏なものをこのメイトギアに対しては抱いていた。何かがおかしいのだ。と言うのも、CLS患者が現れるとその場で処置をせず、どこかへ連れて行ってしまうのである。自分には拠点に残るように命じて。しかも何日も帰ってこないこともある。そちらについては他の地域を兼任しているから仕方ないにしても、CLS患者をどこに連れて行っているのだろうか。


さりとて、今のグローネンKS6にとってはどうでもいいことでもあった。彼は、メイトギア達がCLS患者を処置する任務を与えられていることは理解していたが、彼にはその命令は与えられていなかったからだ。厳密には、<無差別かつ徹底的な殲滅>、つまり人間もCLS患者もロボットも見境なく破壊しろと命令されていたのだが、アレクシオーネPJ9S5との戦闘により、戦闘を司る側のメインフレームが傷付けられてしまって機能を失い、現在は戦闘用のそれとは独立したもう一つのメインフレームが司る通常モードのみでの行動しかとれなかったからだった。


純粋な戦闘用である彼も、通常モードでは基本的に戦闘は行わない。いや、行えないようになっていた。仲間である兵士に万が一にも危害を加えたりしないようにするためである。既に人間ではないCLS患者を処置しようと思えばできなくもないが、積極的に行おうとは考えない。偶発的に遭遇した場合に、他に任せられる者がいなければ行う程度である。だから、この地域を担当するロボットがいるなら基本的にそちらに任せるようにしていたのだった。


今の彼は、本当にただのペットのような存在だったのである。が、それを諌める者はもはやここにはいない。彼はただ、自由気ままに振る舞えばよいのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る