リリアJS605s

CLS患者を処置する為のロボット達が配置されているのは、何も郊外だけに限られている訳ではない。むしろかつて都市部だったところにこそ調査も兼ねた形でレイバーギアが配置されていた。しかしそれらは事故などにより次々と機能を停止し、空いた拠点に廃棄されたメイトギア達が就いていた。


リリアJS605sもそんなメイトギアの一体だった。ただ彼女は、戦闘能力を持たない一般仕様機であり、しかもかなり幼い容姿(十二歳から十三歳程度の)を持った、やや趣味性の高いメイトギアだった。


「ひどいですね…」


外見もその仕草も幼く愛らしい少女といった風情の彼女だったが、ロボットなので当然、見た目や仕草は関係ない。他のメイトギアと同等の能力は持っているし、過酷な状況に狼狽えたりもしない。それでも、徹底的に完膚なきまでに破壊しつくされた都市の様相を見て、そう呟かずにはいられなかった。


ビルも、住宅も、道路も、橋も、本来の形を維持している構造物は何一つなく、しかも爆撃から数年が経っているというにも拘らずあらゆるものが焼け焦げた臭いが混ざり、生身の一般人ならおそらく十分と耐えられない環境だったと思われる。メイトギアには嗅覚センサーも装備されているが、人間のように快・不快という形では認識していない。あくまで人間はどう感じるかということを知識として知っているだけだ。だから臭いについても苦痛など感じない。


また、光景そのものも、当初は原形をとどめない遺体なども散乱していたと思われるが、先任のロボット達により搬送、公園の跡地などに臨時の墓地が作られてそこに埋葬された為に現在ではほぼ見当たらなかった。ただし、小さな肉片といったものまではさすがに回収しきれず、それと思しき炭化した有機物があらゆるところに張り付いていたりもした。


一方で、都市部には堅牢な地下施設やシェルターなども数多くあり、それが故に爆撃を免れたCLS患者も数多くいたのだった。


この地域のCLS患者の多くが既に処置済みだったが、それでもどこに隠れていたのかまだCLS患者は現れる。この地に来たばかりのリリアJS605sの前にも、さっそく現れた。アニメの絵が描かれたTシャツを着た、若干肥満気味の中年男性と思しきCLS患者だった。


「あら、さっそくのお出迎え? 感心ね。じゃあ、ご褒美をあげるわ」


そう言って彼女はニヤアっと唇を吊り上げいささか禍々しい笑みを作った。そして目の前のCLS患者の頬に容赦のない平手を食らわせる。体は小さくても体重百キロの人間さえ持ち上げる彼女の一撃は、自分の倍以上の容積がありそうなCLS患者をやすやすと地面に叩きつけた。そして倒れ伏したCLS患者の頭に、幼い容姿には少々不釣合いとも思える真っ赤なピンヒールのヒール部分を突き立てたのだった。


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