蹂躙
アリョーナB10は拠点の前に自動車やトラックを並べてそれをバリケードとした。体重百二十キロの人間を持ち上げることも出来るので、そのくらいのことは出来た。一度に押し寄せられたらこの程度のバリケードでは心許なかったが、それでもないよりマシだろう。
トラックの上に乗り、ゆっくりとこちらに近付いてくるCLSバイソンの群れに対し、シンTSIアサルトライフルで狙撃を始める。さすがにロボットである彼女は、人間の素人の女性よりは狙撃などの精度は訓練などしなくても高く、数百メートル先の標的を確実に仕留めていった。
だが、やはり戦術的なことに対する知識が決定的に不足しており、彼女の攻撃はとにかく一番近いものを順次打ち倒していくという単純なものでしかなかった。
そして、CLSバイソンの数は、先程より確実に増えていた。倍、いや三倍はあるだろうか。周囲に散らばっていたものが集まってきたのだろう。ここから数十キロ離れたバイソンの放牧場には、合計すれば数千のバイソンが飼育されていた筈である。
それらも順次処置されてきたのだが、それでもまだかなりの数が残されていたという訳だ。しかもバイソンだけではない。人間により持ち込まれた、鶏よりは大きな脳を持つ動物の全てがCLSに感染、発症し、ゾンビのごとく獲物を求めて徘徊しているのだ。実はそちらの方が人間のCLS患者よりも圧倒的に数は多いのだった。
「なにこれ、抑えきれない…」
ゆっくりと、しかし確実に、どれほど打ち倒そうと全く意に介することなく自分に向かって迫ってくるバイソンの群れに、彼女は思わずそう呟いていた。
ロボットであり心を持たないが故に恐怖は感じないが、好ましくない状況を忌避する思考は持ち合わせている。まあ、それを<恐怖>と言うのなら確かに恐怖なのだろうが。
さすがに自分の手には負えないと理解し始めていたが、それでも彼女は<処置>を続けた。弾丸を撃ちつくし、次の銃を手に取り撃つ。とにかくそれを続けるしか出来なかった。
しかしやはり抗しきれなかった。その数、数百に膨れ上がったバイソンの群れの圧力はバリケードをものともせず押し潰し、地面に落ちた彼女をCLSバイソン達は容赦なく踏み、蹴り、その体を喰いちぎっていった。
当然食べられるものではないのですぐに吐き出すもののまた喰いつかれ、彼女はみるみる原型を失っていく。あの美しい銀髪の美女の姿も既にない。
数十分後、あれほどいたバイソンの群れがどこかに消えてしまった後には、もはや元が何であったのかもさっぱり分からない細かな機械の部品と、人間のそれによく似てはいるもののさすがに見ただけで人工物であると分かる人工筋肉が地面に散らばっているだけであったのだった。
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