アリョーナB10
以前にも説明したが、惑星リヴィアターネ上で、ロボット艦隊による爆撃を逃れたCLS患者が果たしてどれくらいいるのは、実は総合政府も把握出来ていなかった。決して少なくない数であろうことは推測していたものの、具体的な数や分布については殆ど何も分かっていない状態であり、それ故、多いところでは日に何人ものCLS患者を処置するロボットがいる一方で、配置に就いてから一度もCLS患者に出会ったことがないというロボットもいた。
細面で涼しげな眼差し。短い銀髪とすらりと長い脚が印象的なアリョーナB10がいる拠点も、そういう場所の一つだった。彼女がここに来てもう七ヶ月。その間に遭遇したCLS患者は一人のみ。そんなこともあり彼女は非常に時間を持て余していた。だから彼女は、拠点近くの住宅地で壊れた家の修復を始めたのだった。
それと言うのも実は、彼女を長年使っていた人物がDIY好きでよく手伝わされた為に、建築用のレイバーギアでもないのにやけに大工仕事に詳しくなってしまったのである。
もちろん、住宅を直したところで誰かが住む訳でもない。正直言って全く意味の無い行為だ。しかし、他にすることがないのだからどうしようもなかった。
ちなみにこのアリョーナB10は、一般仕様のメイトギアである。メイトギアは本来、たとえ故障したとしても決して人間に危害を加えたりしないように設計されており、特に一般仕様については戦闘など考えては作られていない為、通常は絶対に人間を攻撃したり出来なかった。
要人警護仕様のメイトギアなら戦闘モードや緊急対応モードで命令を固定するのが手っ取り早いものの、一般仕様のメイトギアであっても条件を限定すれば、CLS患者を攻撃させることは出来てしまう裏ワザと言うか抜け道はある。
と言うのも、害獣駆除程度のことは一般仕様のメイトギアでも行うことがあり、CLS患者はその<害獣>にカテゴライズされて、彼女のようなメイトギアでも処置を行えるようにしてあるということだ。
CLS患者に人間としての尊厳を取り戻させる為に一時的とはいえ害獣扱いするなど言語道断と考える向きもあるだろうが、きちんと処置しCLS患者でなくなれば人間の遺体として悼むという流れになっており、<人間としては明らかに死んでいる状態にも拘わらず活動しているCLS患者=人間ではない>という前提を利用した、<CLS患者特例法>の範囲でのみ許される設定であった。無論、それ以外でそのような設定を行えば即逮捕される。
そんな無茶苦茶が許されるのが、ここ惑星リヴィアターネということなのだった。
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