エラー

その日、クラウディアM44は、起動した時点から調子が悪かった。元よりテロリストから要人を庇って破損した時点で、ハード部分だけでなくメインフレーム内でも多数のエラーが生じ、自己メンテナンスでは解消出来ないものがいくつもあったのだが、それが日を追って増えてきたのである。


彼女がここに来てから既に二年。修理もされずにむしろよくここまでもったものだとも言えるが、いよいよその時が来たのだと彼女は感じていた。


怖くはない。痛みもない。苦しみもない。自分は機械でありロボットだからいずれこうなることは分かっていたし納得もしていた。ただ……


「こんな日に限ってどうしてこんなに忙しいの!?」


そう、この日はなぜか朝からひっきりなしにCLS患者が現れ、彼女はその処置に追われていたのだった。もしかするとまとまって移動を続けていたCLS患者の集団がここを通りかかったということなのかも知れない。それにしてもこのタイミングとは、ついてない。


別に彼女にとって危険がある訳ではない。要人警護仕様でありそれ故に非常に堅牢に作られている彼女にとって人間のCLS患者は全く脅威になりえない。だが、目の前のCLS患者の処置を終える前にもし機能停止してしまってはと思うと、それが心残りなだけだ。


いや、彼女に心はないのだから<心残り>というのもおかしいのだが、任務の途中でそれを果たせなくなるというのはやはり好ましくないという思考はある。それを心残りと言えばそうなるということだ。


愛用のスーパーブラックホーク・1903リプロを構え次々とCLS患者を処置していく。老若男女、格好も何もかもてんでバラバラの集団だ。どこかのシェルターか何かに避難していた人間達かも知れない。それが何かのはずみで解き放たれて一斉に溢れ出たという感じだろうか。


若い男、若い女、老人、幼い子供、太った者、痩せた者、背の高い者、低い者、様々だ。


ラフな格好をした若者、フォーマルな服装をした高齢者、幼稚園児と思しき少年、中学生か高校生と思しき少女、サラリーマン風の男性、妊婦らしき大きな腹の女性、シャワーでも浴びていたのか全裸の者すらいる。


それらCLS患者を処置していく最中にも、エラーメッセージは増えていった。重大なエラーが発生した為に、将棋倒しのように関連したエラーが生じていったのだ。


そして突然、彼女は停止してしまった。回復不能な致命的なエラーが生じたことにより、強制シャットダウンが行われたのである。


直後、CLS患者がそんな彼女にわらわらと群がったが、しかしCLS患者は動いている生物にしか襲い掛からない。故にほんの十数分後には、地面に倒れ伏したクラウディアM44だけが残されていたのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る