翌日

 コトリ部長は翌朝も昼ぐらいまで寝込んでおられました。昼頃にようやく起きてきて、


「今日はノンビリしましょ」


 ルームサービスで部屋にあれこれ食べ物を運び込ませて、


「とりあえずカンパ~イ」


 あちゃ、昼酒で宴会ムードです。しばらくはガツガツと食べてらっしゃいましたが、


「あれがマンチーニ枢機卿ではなくてベネデッティ神父で、ルチア・ベレ・エクレシアが完全だったら、やばかったかもしれない」

「やっぱり完全じゃなかったんだ」

「似せてはあったけど、違ったわ。枢機卿にはそこまでの知識はなかったみたい。というか、ペネデッティ神父の知識の修得が不完全だったぐらいかな。まあ、それも予想範囲内だったけど」


 ミサキは昨日のことを聞きたくて仕方がないのですが、


「ミサキちゃん、焦らないでね。話は長いから、ゆっくりやろうね」


 コトリ部長とシノブ部長の話は肝心なところがわからないのでジリジリしますが、


「最後の秘儀を受けてみて、わかったんだけど、やっぱり枢機卿の呪文の使い方は間違ってる」

「やっぱりそうだったんだ」

「そうなのよ、力の封印ばかり解けて、記憶の方はごく弱いのよ」

「だから、ああなっちゃったの」

「そんな感じ」


 わたしの脳裡には扉から転がり出してくる枢機卿と、コトリ部長の迫力ある態度が思い出されます。


「でも記憶の封印は、ほぼ剥がれかけてたみたい」

「封印を解くカギとすれば、それぐらしか考えられなかったものね」

「でもシノブちゃんはそうと思ってたけど、やっぱり意外だった」

「そらそうよね、誰だってまさかと思うものね」

「それにして、あれだけ会ってやっと解かれるぐらい強力な封印だったんだ」

「イメージとしては、何重にも、何重にも厳重に封印されてるイメージかな」

「そうだね、玉ねぎ型の封印」

「玉ねぎじゃ剥いたら無くなっちゃうよ」


 はて誰の話をしてるんだろう。


「それで完全に解けた?」

「わかんないけど、けっこう解けた気がする」

「コトリ先輩、ちょっと思うんだけど、枢機卿が失敗したのは術の拙さ、弱さもあるかもしれないけど、それ以前に力の封印がかなり解けてたんじゃない」

「それは、たしかにあると思う。あんな奇跡的なことが起こってたわけだし。シノブちゃんはどうなの」

「それがね、ユッキーさんから伝わる時に全部伝わっていないというか、記憶自体を殆ど伝えていない気がするの」

「ユッキーはどうだったんだろうと思うけど、わかんないね」


 ユッキーって誰のこと、


「エレギオンでは主女神がもちろんトップだったんだけど、実質的には首座の女神が取り仕切っていた面があるのよね」

「だからずっと委員長だったとか」


 ここで二人は笑いあっていますが、ミサキにはサッパリわかりません。


「仕事の話もしないといけなんだけど、枢機卿はエレギオンを本当に解放してくれるかな」

「それは抜かりなくバッチリやったわよ。ちょっと聞いてくれる」


 コトリ先輩は取り出したボイス・レコーダーのスイッチを入れると、


『エコエコアザラク・エコエコザメラク・エコエコケルノノス・エコエコアラディーア』

『ベールゼブブ・ルキフェル・アディロン・ソエモ・セロイアメク・ルロセクラ・エルプラント・カメロルアル・アドリナノルム・マルチロル・チモン』

『ザーザース・ザーザース・ナーサタナーダー・ザーザース』

『ヘイカァス・ヘイカァス・エスティ・ビィ・ベロイ』


 こんな感じの呪文の洪水です。


「ついでに内部の写真もバッチリ。この二つを握っている限り、枢機卿は言うことを聞くしかないし、聞かなきゃヴァチカンにチクるだけだし」

「さすがコトリ先輩。でもそれだけじゃ、ないでしょ」

「そりゃ、最後はきっちり尋問して絞り上げてやったし。いやぁ、開放されたパワーってすごいものねぇ」


 そこから久しぶりにビールが飲みたいとの事で、ルームサービスで取り寄せたら、


「カンパ~イ」

「ワインばっかりだったから、ビールが旨い」

「ホントに。それで後はどうする」

「そりゃイタリア観光よ。ここまで我慢したんだから、ちょっとは取り戻さないと」

「でも、その前にエレギオンの話を付けないと」

「まあね、それが先か」


 ここでミサキが、


「あのぉ、ちょっとだけイイですか」

「どうしたのミサキちゃん」

「詳しい話も教えて欲しいのですが、そろそろ出張期間が・・・」

「あちゃ、そうだった。ミサキちゃん本社と交渉してくれる」

「それは、いくらなんでも・・・」

「そうだよねぇ、さぞ仕事が溜まってると思うとゾッとする」

「私も」


 そこから今回わかったことを教えて頂きましたが、とにかく長い長いお話で、ミサキの理解した範囲で要約させて頂きます。

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