第24話 山のような思い出

 またあんなことにならないかとドキドキしつつも、まずは二階にある史晴の部屋の捜索から始まった。昨日の夜、やる予定だったことが全くできていないので、今日中に東京に帰れるかも怪しい。

「伶人と関係あることだよな」

「ええ。アルバムとかどうですか?」

 まず、過去に伶人に恨まれるようなことがあったのか。それをはっきりさせる必要がある。ということで、過去が解るものを探すことになった。部屋の押し入れをごそごそと探していると、昔ながらの大きなアルバムが出てくる。

「あった」

「見ていいですか?」

 それに、不謹慎ながら胸が高まってしまう美織だ。これ、史晴のプライベートなあれこれや、小さい頃が収められているに違いない。普通は見れないものに、テンションが上がってしまう。

「い、いいけど」

 そんな美織に、アルバムに興奮するなんて変な奴と、史晴は見せるのがちょっと嫌になるが、今は拒否している場合ではない。

「うわあ。赤ちゃんの頃からある」

 そしてアルバムを開いた美織は、出てきた可愛らしい赤ちゃんにメロメロだ。それに、史晴は溜め息を吐き

「思い出に浸っている場合じゃないんだ。とっとと捲れ」

 と注意をする。

「ああ、そうでした。って、どれが関口さんか教えてくれないと」

「はいはい」

 まったくと、一緒にアルバムを覗き込んだ史晴は、これだなと一枚の写真を指差した。それは幼稚園の制服を着る史晴と、中学の制服を着ている伶人だった。これだけでも、二人の年齢差は明らかだった。この間会った時の若々しい姿は、やはり奇妙だということになる。

「そう。昔からちょっと老け顔だし」

「え、まあ、そうですね」

 理系にありがちというか、眼鏡とファッションなんて興味ないという髪型のせいで、確かに中学生らしさはなかった。どちらかというと疲れたサラリーマンのように見えてしまう。

「あのお洒落な格好で、伶人だと気付けというのがどだい無理なんだよ」

「そ、そこまで言いますか」

 そして、目の前に現れた伶人の格好は洒脱だったことが、ますます本人とのイメージに結びつかないのだと史晴は言い切る。確かにそう言いたくなるのは解るけれども、酷くないだろうか。いや、伶人の所業の方が酷いからトントンか。

「他にも関口さんと写っている写真はありますか」

「ああ、そうだな」

 今は伶人の見た目を罵っている場合ではないと、史晴は気を取り直してアルバムを捲った。すると何枚かは発見できたが、どれも入学や卒業といったタイミングで撮ったとしか思えないものばかりだった。

「あのな。女子ならまだしも、そんなに写真に写りたがらないもんなんだよ。男って」

「ええっ。そうなんですか?小さい頃なんて写真に撮ってもらえるってだけでテンション上がりません?」

「上がらん」

 と、そんな議論をしている場合ではないのだが、ともかく、史晴の写真そのものも、それほど多くなかった。運動会や遠足の写真、それに学校で販売されたのだろう修学旅行の写真と、あまりに少ない。

「あ、ご両親って仕事が忙しいんでしたっけ」

「ああ。旅行した記憶ってあんまりないな」

 だから余計に写真が少ないのか。これはアルバムから手掛かりを探るのは諦めた方がいいみたいだ。

「他に何かないですか?関口さんと一緒にやったものとか?」

「ううん。ちょっと待てくれ。そんなに捨てたものはないはずだから」

 そう言って史晴は再び押し入れをごそごそとやり始めた。確かにその中、物置きというべき押し入れは物で溢れ返っているが、何が出てくるのやら。美織はその多さに不安になってしまう。

「おっ」

 そうやって出てきたのは、史晴が何やら落書きしていたノートだった。それの何が重要なのかと首を捻っていると

「これ、伶人も色々と書いてるはずだ」

 という。交換日記みたいなものかと確認すると、そんな気持ち悪いことはしないと返される。

「じゃあ」

「互いに思いつくままに書いていたやつってだけだ。何かヒントがあるかもしれない」

「ああ」

 つまりは伶人が気ままに書いた何かが残っているはずというわけか。ちょっと期待して捲ってみると、すぐに数式が出てきてビックリする。しかも鉛筆で力一杯書かれていた。

「それは俺だな」

「でしょうね」

 一体何歳の時のですかという問いは飲み込み、美織は手早くノートを捲ることにした。その間にも史晴が大量のノートを発見してくる。

「これ、持って帰りますか?」

「そうだな。というか、大学に送ってしまおう」

 あまりに多いので、この場での確認を断念する羽目になるほどだった。ということで、ノート類はまとめて送ってしまうことにする。

「もうこうなったら、関係ありそうなものは全部、東京に送ってしまいましょう。それが一番です。加藤先生に頼んで、どっか部屋を借りればいいんですよ」

「そ、そうだな」

 ということで、一先ず実家の捜索は荷物をまとめて送るということで落ち着いた。こうしてようやく、次の伶人の家に行ける。

「本人に会わないですかね?」

「さすがに帰って来ていないだろ」

 途中のコンビニに段ボール箱三箱分の思い出を持ち込んだ後、そんな懸念が持ち上がるが、ここで帰るわけにもいかない。

「ま、会ったら問い質すだけだ。今はカワウソじゃねえし」

「ええ」

 それにしても、伶人との思い出は山のようにあるのに、記憶に残っていなかった事実が発覚した。やはり、伶人は過去を思い出さないように史晴に呪いを掛けた時、細工をしたようだ。

「一体何があったのかしら」

 出会わないかという不安より、二人の過去に何があったのか。そこに不安を感じてしまう美織だった。

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