働いてください原木さん!

運昇

挿話


 500年もの前のことである。


 神々は、たかが人間に負けた。


 統治者オーディンの誕生祭という祝賀ムードをつけ狙うかの如く、突如として何百万という大軍勢を率いる人間軍が聖なる大樹ユグドラシィールに架かる虹の橋ビフレストを渡り、神々の住まう地、神界アスガルトに侵攻してきたのだ。


 この奇襲作戦に天変地異を容易く起こせる程の力を持った名だたる神々は次々と殺害され、値がつけられないくらいの高価な金品を根こそぎ奪はれ、生命の起源とまで呼ばれた多くの自然が壊され、そして……!


 神界アスガルトの中枢部分、グラズヘイムを電光石火の速度で制圧された。


 以下は、宮殿内で行われた調停に立ち会った者の手記である。


『天罰が下るとはまさに我が大軍に宮殿を包囲される神々のことを指すのであろう』


『思いの外、神の王は冷静であった』


『素直に敗北を受け入れ、しかしその姿は威厳を全く失っておらず』


『粛々と書類にサインする様子はまさに勝者の立ち居振る舞い、勇ましき敗者、見習わねばならない』


『しかし従者が神の王に耳打ちをした次の瞬間。神の王は悠然と立ち上がり、宮殿を揺るがすような雄叫びをあげた』


『神の王は言った「同胞に告ぐ!神々は人間に負けたのだ」と、それから』


『「ブリュニーのなみだを探せ!」確かに神の王はそう言った』


『同胞に告ぐ!』


『ブリュニーのなみだを探しだせ!』


『誰に命令したのであろうか我々の理解が追いつく前、突如として神の王が青い光に包まれた』


 手記はそこで途絶えており、17世紀半ばスカンジナビア半島南部の岬にて、一部が焼け焦げた状態の手記をドイツ人のゲオルク・ヴィルヘルム・フォン・ヤッツンバッハ率いる捜索部隊が発見した。

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