第6話 モーニング・ティー(write like singing)

 せっけんのレリーフに描かれてるのは太った犬だとばかり思ってたから、わたしは信じていた、せっけんの「けん」の字は「犬」って書くんだと。だからレリーフに描かれてるのが本当は牛だと知った時はがっかりしたんだ、なんだかね。犬のままで良かったのに。わたしには犬のままの方が良かったのにな。一口すするモーニング・ティー。失われた犬のせっけんを悼むモーニング・ティー。


 そんな小さかったころの思い出がいまさらに、蘇ってきたのは他でもない夕べのあの小さなすれ違いのせい。あなたが次と言った時、わたしは今度の次と思った。こうして今週の日曜日は来週の日曜日とまざる。今度の次が次なのか、次の今度が今度なのか。何度聞いてもわからない。誰に聞いてもわからない。一口すするモーニング・ティー。失われた週末を悼むモーニング・ティー。


 ティントン教会の鐘が鳴る。満月浴びた尖塔の先にあるはずの、十字架がなぜだか今夜はよく見えない。それは猛禽類が黒々と上に乗っているせいだよと怖い声を出し、とうさんはわたしをおどしたつもり。だけどわたしの頭に浮かぶのは、十字架をすっぽり隠すもくもくした菌類。一緒に飲もうよモーニング・ティー。いまは失われた子どもの勘違いを悼む(懐かしむ)モーニングティー。


 いれてちょうだいモーニング・ティー。こんな気分の朝だから。

 一緒に飲もうよモーニング・ティー。湯気の立つよな熱いのを。

 わたしの中に住む子どもと、あなたの中に住む子どもの

 愚かでかわいい思い込みを慈しんで悼もうよ。


 いれてちょうだいモーニング・ティー。こんな気分の朝だから。

 一緒に飲もうよモーニング・ティー。湯気の立つよな熱いのを。


(「モーニング・ティー」ordered by あとう ちえ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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