Sudden Fiction Project④祈り編
高階經啓@J_for_Joker
第1話 ジェンダーのゲーム
━━ファンタジー・アドベンチャー・ゲーム史上空前の成功を収めた「トゥアレグ」シリーズですが、いままでの真野さんのゲームに見られた中世ヨーロッパ風の世界観とも、古代中国風の世界観とも、アラビアンナイト的な世界観とも、マヤ・アステカ的な世界観とも違う、何か全然別なものを感じるんですが、それが何なのかよくわかりません。どんな風にしてあの世界観を思いついたんですか?
真野 それ、よく聞かれるんですけど、で、せっかくなら何か気の利いた返事をしたいんですけど、答はとってもつまらないですよ。それでもいいですか?
━━もちろん。
真野 このメモがきっかけです。
━━なんでしょう? ちょっと古びた紙ですね。アンティークですか?
真野 いえ。ただのコピー用紙です。もともと再生紙で、おまけに日焼けしてるので余計古めかしく見えますけど。「1」をつくるきっかけになったメモです。
━━「青の民(ベドウィン)?」って書いてありますね。
真野 トゥアレグ族っていうのがいるんですよ。
━━え?
真野 北アフリカにトゥアレグって呼ばれる民族がいるんです。少数民族です。独自の文化を持っていてアラビア語とは違うタマシェク語というのを使ってます。彼ら自身は自分たちのことを、「タマシェク語を話す人々」って意味でケル・タマシェクとか呼んでいるそうです。
━━ゲームの中でもタマシェクは重要な真理を記した書のタイトルとして登場しました。
真野 はい。トゥアレグたちはニジェールとかマリとか4カ国くらいまたがって住んでいて、いまも反政府闘争を繰り返しています。いや。「反政府運動」とか言うけど、彼らからすればあたりまえのことなんですよね。元々、先祖代々住んでいた土地に白人がやってきて、ある日いきなり地図上に直線を引っぱって「こっちはアルジェリア。そっちはニジェール」という具合に勝手に国を分けちゃったんだから、トゥアレグからすれば、そんなの従う理由がない。トゥアレグは誇り高いし、しかも好戦的なんです。
━━なるほど。トゥアレグ族の社会がモデルなんですね?
真野 モデルねえ。モデルといえばモデルですが、実際にアフリカに行ったわけじゃないし、その文化を詳しく調べたわけでもありません。ただ触発されたことは間違いないです。面白いんですよ、トゥアレグって。
━━と言いますと。
真野 イスラム圏に属してはいますが、独自の言語を持っている。タマシェクしかしゃべれない人もいる。それからイスラム圏なのに一夫一婦制です。どうしてだと思います? なーんていきなり聞かれてもわかりませんよね。ああ、それからもうひとつ。イスラム圏なのに女は肌をそんなに隠さないんです。
━━元々信じていた宗教の影響が強いんですか?
真野 わかりません。そうかもしれないけど、多分そういうことじゃないんだと思います。どうなんだろう? 面白いのはね、女が肌を隠さない代わりに、男が全身と顔を民族衣裳ですっぽり隠しているんです。ターバンも巻いてね。インディゴで染めた青い衣裳が基本なんで「青衣の民」という異名もついているくらいです。
━━ああ、さっきのメモにも書いてあった。なるほど。それでゲームの中でも青い色が高貴な色とされているんですね。
真野 特別な色なんです。男たちはそれに身を包んでいる。女は肌を隠さない。どうしてだと思います?
━━いやあ。やっぱりイスラム教とは別な宗教を信じているんじゃないかと。
真野 うん。可能性はあります。でも一応トゥアレグもムスリムです。ただ、ほかと決定的に違うのはね、女系社会なんです。女の方が偉い。重要なことは女が決める。これはムスリムとは逆です。男は女の決定に従って、戦争に行ったり、買い物に行ったりするんです。
━━戦争と買い物じゃだいぶ違いますけど(笑)。
真野 と思うでしょう? でも違わないんです。どっちもトゥアレグの女が決める使命だから。もっとも、たぶん戦争の方は男たちが行きたがって、女たちがそれに対して許可を出すんだと思いますが。
━━あっ。だからゲームの中でも長老はほとんど女性なんですね。いままでなじんできたゲームとの違いを感じたのは、戦闘があまり評価されないことや、女たちの日常の会話がえらく面白かったりするのは……。
真野 その通りです。女たちのやりとりで世界が動いているんです。それ、なかなか感じ取ってくれる人が少ないので、面白がってもらえて嬉しいです。
━━「3」に出てきたゼナクとか、すごい存在感でしたもんね。
真野 ありがとうございます。彼女は夢に出てきたんですよ。
━━(笑)そのくらいゲームの世界にどっぷりつかっている、と。
真野 ゼナクは夢に出てきて言ったんです。いまでも覚えてます。どこかの国の聞いたことがない言葉でまくしたてるんだけど、意味はわかるんです。「ぼやぼやしてるんじゃないよ。ティン・ヒナンが怒ってるよ。『ダヤク家のごくつぶしはまだ動かないのか』ってな。ほら起きなさい!」って。
━━あの顔で、そんなことを。おっかないですね。
真野 「だから男はダメだ。愚図だ。ロクの駅に名前がついたくらいで王様気取りかい?」とかね。その時に他にも青の民とかベドウィンについていろいろ聞かされて、目を覚まして、とにかく夢を忘れないようにと書き付けたのがさっきのメモです。それで青の民って何だろうっていろいろ調べて、トゥアレグ族に行き着くわけです。
━━え? ということは、夢にゼナクが登場して、それから「トゥアレグ」の企画は始まったんですか?
真野 はい。
━━逆じゃなくて?
真野 逆じゃなくて。
━━もともとトゥアレグのことを知っていたんですか?
真野 全然。
━━え? それは一体……。
真野 さあ。
━━さあ、って(笑)。
真野 とにかくいろいろ調べて、それでわかったんですけど、ニジェールにマノ・ダヤクって名前の空港があるんですね。
━━マノ・ダヤク。真野さんと一緒だ。
真野 そうそう。それで「ロクの駅」っていうのは、巨鳥ロクが止まるところ、つまり飛行場のことだったんだって、あとでわかりました。で、その空港の名前というのが、反政府運動をしたトゥアレグ社会の指導者の名前にちなんでつけられていたんです。これは女性じゃないんですけど。わたしは夢の中で彼,つまりマノ・ダヤクとして叱られていたらしい(笑)。
━━はあ。ひどいですねえ。
真野 でしょう? わたし、女なのに。
(「青の民(ベドウィン)」ordered by ハンサム-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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