第1526話 泡で遊んでいるようでした


 リーザ、ティルラちゃん、シェリーが入ってきた俺達に気付き、声を上げて駆け寄って来る。

 他のフェンリル達と同じように、シェリーの体は泡だらけで大きくなったように見えるけど、リーザやティルラちゃんまでも他の子供達のように全身に泡を付けている。

 顔にもついているから、泡が飛び散ったのかな?


「えへへー」

「リーザ、滑るからお風呂場で走っちゃだめだぞ? あぁこらこら、擦ったら広がるから。せめて拭き取るか洗い流すかにしような?」


 何故か嬉しそうに、俺の指摘を受けて鼻を擦ったリーザは他の場所にまで泡を広げているので、慌てて注意する。

 ほんの少しくらいなら大丈夫だろうけど、洗剤が口の中に入っちゃいけないからな。


「ティルラもよ? シェリーは……もうしょうがないわね」

「はい!」

「キャゥー!」


 クレアの方は、注意して素直に頷いて水で流しに行くティルラちゃんと、泡だらけの尻尾を振って撒き散らしているシェリーに溜め息を吐いていた。

 尻尾まで泡だらけだから、仕方ないよな……と考えてリーザに視線を戻すと、こちらの尻尾も泡だらけだった。

 うぅむ……楽しそうに遊んでいる様子だからいいんだけど、泡だらけになったまま洗い流さずそのままっていうのは一体?


「えーっと、あ、いた。ライラさん!」


 子供達、使用人さん達、フェンリル達の中からライラさんを見つけ、呼びかける。

 俺に気付いたライラさんが、こちらに来た。

 ……ライラさんも、結構服のあちこちに泡が付いているな。


「旦那様、話し合いは終わったのですね? リーザお嬢様、これをお使い下さい」

「ありがとう、ライラお姉さん!」

「はい。それで、この状況は?」


 乾いたタオルをリーザに渡すライラさんに、こうなっている状況を聞く。

 レオは……あんまり皆に近付きたくないようで、俺達には気付いて目を向けているけど、隅から動く様子はないな。

 毛が濡れたままで、いつもより小さく見える。


「フェンリル達と子供達の遊びです。フェンリル達が、体を振るわせて水や泡が飛ぶのが楽しいようで」

「あー成る程……」


 レオからは何度もやられたが、体を震わせて水けを飛ばしたりするやつだな。

 濡れていない時でもやる事はあるし、カーミングシグナルだったりもするけど。

 通称、犬ドリル……または柴ドリルと呼ばれている。

 柴犬がやれば柴ドリルで、その他の犬種の場合は犬ドリルと日本では呼ぶとか。


「確かに、子供達は楽しそうね。フェンリル達の方は、大丈夫なの? シェリーやリルルみたいに、洗われるのが好きなフェンリルばかりでもないでしょう?」

「今いるフェンリル達は、お風呂が好きで洗われるのも、泡だらけになるのも気にしないフェンリル達です」

「気にしない、というか雰囲気からは楽しそうに感じますから、気持ち良くて好きとかでしょうねぇ」


 というか、よく見たらリルルもいるな。

 ライラさんから事情を聞いている間に、犬ドリル……犬じゃないからフェンリルドリル? 狼ドリル? をやっていた。

 飛び散った泡に子供達が喜び、再びその手でフェンリル達に泡が付けられていく。

 その様子から、何度もやっているんだとわかるけど……フェンリルも子供達も、慣れるのが早いなぁ。


「それで、レオが参加しないのは……まぁ苦手だからでしょうけど、ずっと隅にいるのは……?」

「レオ様は、フェンリル達の事を見ていて下さっているみたいです。やり過ぎないかなど……」


 成る程、子供達の監督役はライラさんを始めとした使用人さん達だけど、レオはフェンリル達の監督役としてここに残っているのか。

 嫌なら洗ってもらった後にすぐ出ればいいのに、面倒見がいいな。

 レオの方は俺が見る限り、汚れなども洗い流されて濡れていても輝くような毛色なので、いつ出てもいいだろうに。

 ちなみに、ライラさんから聞いた話だけど、洗うのはさすがに使用人さん達がメインで、子供達はそのお手伝いという感じだったそうだ。


 子供達がいるのと、水のお風呂が川程ではないけどプールみたいな感じで、いつもよりレオの様子はご機嫌だったとの事。

 ただ、濡れたままでいるのはレオが体を震わせると子供達が喜ぶようになってしまい、また濡れるのはともかく泡で遊ぶようになったら嫌だからそのままにして我慢している、とレオに聞いた。

 うん、頑張ったなレオ。


「はい! 次で最後ですよ!」

「お姉さん達に従って、お風呂に浸かって温まってから上がるんだよー!」

「「「「はーい!」」」」


 ライラさんの声で注目を集め、続けて俺からも声をかける。

 フェンリル達のお風呂は今いる組で最後らしい。

 濡れたり泡で冷えた体を温めれば、お風呂イベントも終了だ……皆服を着たままだけど、風邪をひかないようにしないとな。


「あと、フェンリル達も楽しいからといって、何度も石鹸による泡を体に付けていたら良くないかもしれませんね」


 使っている石鹸がどんな成分なのか詳しくないけど、人間用に作られたものだからな。

 フェンリル達の肌が、犬とどう違うのかはともかく、一応自然で問題なく暮らしていたと考えると、あまり刺激を与えすぎるのは良くないだろう。


「そうなのですか? じゃあ、シェリーも気を付けないといけませんね」

「うん。でもまぁ見る限り、ほとんど濡れた毛の表面に泡を乗せる感じだから、大丈夫だとは思うけど……」


 子供達は、泡が飛び散るさまを見て楽しんでいるためか、洗うというより泡を作って乗せるといった感じになっている。

 だから、肌への刺激はそこまで大きくないだろう……多分。

 シェリーは、まだ子供だから大人のフェンリルより注意が必要かもしれないけど。


「畏まりました、以後気を付けます。申し訳ございません」

「あぁいえ、ライラさんを注意したわけじゃないんです。俺が言っていなかったのが悪いんです」


 謝るライラさんに手を振って、気にしないように言う。

 注意として伝え忘れていた俺が悪いからな……ライラさん達は知らなかったんだから仕方ない――。



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