第1522話 別の可能性を聞きました



「さっきの話なんだけどさ、他に一つだけ原因というか可能性があるんだけど……」

「他に? それなら、さっき話に出していれば良かったんじゃ?」

「それでも良かったんだけど……村長とかを不安がらせるのは良くないかなって。ハルトやエルケは気付いていた様子だったけど」

「エッケンハルトさん達も?」


 森での異変、その原因として考えられる可能性を、気付いていて不安にさせないために言わなかったって事か。

 つまり、ハンネスさん達を不安にさせてしまう程、可能性が高い何かがあるって事でもある。


「ん……ふぅ。聞きましょうか」


 少し冷めたお茶を飲んで一息。

 話を聞く心構えをする。


「一応の可能性だから、そこまで身構えなくてもいいかもしれないんだけどね。はは」

「でも、わざわざユートさんが残って俺に話すからには、それだけの事って気がするから」


 なんでもないような事ならば、先程の話し合いの途中に言っていたはずだし、俺だけに話すにしてもユートさんがわざわざ言わなくてもいいからな。

 まぁ、ユートさん自身が俺に話したかった、とかがあるかもしれないけど。

 ルグレッタさんの方は……これからユートさんが何を話すのかわかっているのか、すました顔で座ってお茶を飲んでいる。

 ユートさんに注目していないから、変な話じゃないって事でもあるし、それだけ真面目な話でもあるとも取れる。


「まぁ、あんまり考えたくない事ではあるかな? でも可能性として話しておかなきゃと思ってね」

「……それで、原因になっているかもしれない他の可能性っていうのは?」

「さっきの話では、皆魔物や植物……自然現象とは言えないかもしれないけど、それに近い事が原因で何かが起こった。それを前提で話していたよね?」

「まぁ……うん」


 カウフスティアの異変、それが何を意味するかはともかくその原因は、森にある何かではないかと考えて話していた。

 ユートさん達と同じく、ハンネスさん達を不安にさせたくないから俺も黙っていたけど、それこそカウフスティアの異変が魔物の氾濫を引き起こす……なんて極論も頭にはあったりもする。

 今のところそういった話は聞かないが、魔物のいる世界だし……地球でも何らかのきっかけで動物や虫が大量に繁殖して溢れる、といった事もあったからな。


 一度は、大量のオークに襲われている村だから、魔物の氾濫と聞けばどうしても不安になってしまいそうだし。

 いや、実際そういった予兆が他にあるとかではないし、勝手に俺が頭の中で考えているだけなんだけどな。

 なんて事を頭の中でぐるぐると考えながら、ユートさんの話に耳を傾ける。


「でもね、もう一つ別の可能性があるんだよ。自然でもなく、魔物でも、植物でもない原因が。……もしかしたら、手段として魔物や植物は使っているのかもしれないけどね」

「手段、使う……ユートさんが考えているのはもしかして……?」


 他者や道具を使うのは、魔物でもある事かもしれないけどそれ以外の原因となれば、そこから導き出される答えは一つだ。

 ユートさんが話しておきたい別の可能性、それは……。


「タクミ君も思い当たったようだけど、つまり人間が何かをしているんじゃないかって事」

「人間……!」


 やっぱりそうか。


「まぁ、実際には人間じゃなくて獣人とか……人間と同じように、物を使う人の可能性ってわけだけど」


 このユートさんの言い方だと、獣人以外にも人間と似たような種族はいるようだけど、まぁそれはともかくだ。

 つまり、何者かが……人が森の異変の原因となっている可能性があると。


「とはいえ、さっき魔物じゃないと言ったけど……一応人間も獣人も、魔力を持つ生き物は魔物という大枠の中に入るんだけど、とりあえず区別するために人と魔物は別けておくね」

「あ、うん……まぁそこは。セバスチャンさんにも以前、話してもらった事があるから」


 この世界では魔力を持つ生き物を総じて、魔物と呼ぶ。

 だからつまり、大枠の中では人間も魔物に分類されるんだけど……その中でさらに区別するために、種族として人間や獣人は別けられているようだ。

 あくまで大枠の、大別した時に魔物だというのは、学問などでの分類上や便宜上そうなっている、というだけの事みたいだ。


 この辺りは、一般の人達とかは特に人間も魔物である、なんて事を意識せず最初から人間と魔物は別の区分で考えているみたいだけど。

 まぁ、人を主体にして考えた時、他の種族に知性や理性があるかないかは関係なく、全て魔物って呼んでいたら紛らわしいからって俺は考えている。


「大枠が決まっているから、後はそれぞれの人の考え方次第だけどね。ともかく、人の仕業である可能性は無視できない」

「でも、なんで人がそんな事を? というか、カウフスティアを興奮状態にするっていうのはなんのために……?」

「それはさすがに僕でもわからない。でもね、長年生きて来て、他国も含めて色んな所へ行って、色んな人を見てきた。そんな僕だから思うのかもしれないけど……こういう時、人が関わっている可能性って実はかなり高いんだ」


 ユートさんが実際に生きてきた年月を考えれば、その言葉の説得力はすさまじい。

 二十年そこらしか生きていない俺には、わからない何かがあるんだろう。

 それにユートさんの事だから、自分から巻き込まれたかはともかく、様々な事件に巻き込まれてきたんだろからなぁ。


「亀の甲より年の功ってね。だから、あながち僕の勘に基づいた考えも、大外れってわけじゃないと思うんだ」

「本当に、数十年どころじゃなく生きている人から、そのことわざを聞くと含蓄があり過ぎて、何も言い返せないよ」

「ははは、そうかもね」


 ただあれって、知識や知恵、経験や技術的な事を指す言葉だったと思うけど。

 ……経験から来る勘、という事なら間違ってはいないか。


「でもそれなら、エッケンハルトさん達も気付いていたっていうのは?」

「エルケは僕と同じく、年齢からくる経験かもね。ハルトもそうだけど、公爵家の当主という立場でいろんな経験もしているだろうし。問題が起きた時、あらゆる可能性を考える必要もあるから」


 そりゃそうか。

 使用人や従業員を雇って、人の上に立つようになってまだ日が浅い俺とは違い、エッケンハルトさんもエルケリッヒさんも、長年領主として多くの人達の上に立ってきたんだ。

 犯罪だってもちろんあるし、人がやる悪い行いを目にしてきているわけで。

 ユートさん程じゃなくても、可能性の一つとして思い浮かぶのも当然か――。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る