第1517話 森の異変に関する話し合いが始まりました



「まぁまぁタクミ君。気にしないで続けようよ。僕と対等に話している時点で、タクミ君の立場はハルト達より上って事でいいじゃない」

「事情的に、敬語とかなしでって言ったのはユートさんからなのに。はめられた感が……」


 事情というのは、同じ日本出身の同郷だからというだけなんだけども。

 それに、目をらんらんと輝かせて面白い話が聞けそう! と期待しているユートさんの言う事に、説得力はない。

 ……ないんだけど、実際にエッケンハルトさん達より偉い立場の人でもあるから、素直に聞くしかないか。

 確かにこのままじゃ話が進まないし……とりあえず、期待し過ぎのユートさんが変な事を言ったりしようとしたりしたら、すぐ隣に座っているルグレッタさんに止めてもらえばいいし。


「はぁ……わかりました。それじゃ一応問題ないって事でこのまま話しますね。えっと、確認のために最初から話しますが、森での異変は……」


 溜め息一つ、諦めてこのまま話し合いを進める事にする。

 一応ここにいる全員には既にほとんど話してあるけど、最初から順を追って確認をしていく事にした。

 森に入ってから、ニグレオスオークを狩って、次にカウフスティアを見つけて……リーザが気持ち悪くなった事、レオが嫌な臭いを感じ取った事等々。

 俺が話し終えると、部屋で休むリーザと一緒にいてくれたライラさんが、最後に付け加えてくれる。


「このお屋敷に戻って来られた時、リーザお嬢様の顔色は確かに悪く見えました。しばらくお部屋で休息をとるうちに、いつもの調子に戻られました。そうですね、主様が戻られた頃には元気になっておられたかと」


 おう……そういえばこの場にエッケンハルトさんがいるから、俺への呼び方が変わるんだった。

 せめて、主(ぬし)様ではなく主(あるじ)様にして欲しいし、話して決めた時何故思いつかなかったのかと後悔しきりだが、それはともかく。


「ふむ、リーザが気持ち悪くなった事、レオ様が感じた臭い……それらは繋がっていると見て良さそうだな」

「えぇ。それにしても、レオ様が嫌だという臭いですが、先程庭で起きた騒ぎとは無関係なのですか、タクミさん?」

「あれは、ヤイバナの臭いが強すぎたからで……多分関係ないと思うよ」


 そもそも、もしヤイバナの臭いが原因ならもっと強烈な臭いがしたはずだし、微かに臭う程度ならリーザが気持ち悪くなったりはしないはずだ。

 レオも、嫌がりはしても離れた方がいいとまでは言わなかっただろう。


「あれは面白かったねぇ。タクミ君が叱られてしょんぼりしているし、フェンリル達も普段見られない様子だったし。僕が全力で挑んでも、あんな事にはならないよ。まぁそもそも、ここにいるフェンリル達の数にはさすがに挑もうとは思わないんだけどね」


 ユートさんの言う通り、いつもは泰然としていたりのんびりとしている事の多いフェンリルが、慌てふためいていたからなぁ。

 おそらく人間で唯一かもしれない、フェンリルと渡り合えるギフトを持っているユートさんでも、あれと同じ事はできないみたいだ。

 その理由が、薬草を作ったせいというのはなんとも言えず、苦笑いしか出ないけども。


「ある意味、フェンリル達に対する手段にもなるのかもしれないな……いや、ここにいるフェンリル達、そして偉大なるレオ様を見ていると、その必要はないのは当然だと思わされるが」

「お爺様、ちょっとだけ心の内が漏れていますよ」

「おっと、いかんいかん。そういった事を言われるのは、レオ様もタクミ殿も好まないのであったな」


 偉大なる、の部分で何故か誇らし気に口角を上げるエルケリッヒさん。

 クレアに注意されて苦笑する。

 俺はともかく、レオは崇拝されるよりも気安く接してもらう方が好きそうだからなぁ。

 ただとりあえず、このままだと話が逸れそうな気がするので戻すとして……。


「リーザとレオが、何か共通する臭いか何かで……というのは確かに考えられます。カウフスティアが興奮状態だったのも、その臭いが原因かもしれません。アルトゥルさん、外敵を見つけていないカウフスティアが、興奮状態になっているというのはこれまで?」

「いえ……私どもが発見した際には、そのような事は。これまでは、必ず何者かを発見してから目が赤くなり、興奮状態で突進して来ています」


 アルトゥルさんに話を向けると、緊張した様子ながらちゃんと答えてくれた。

 ちょっとだけ体が震えたように見えたのは、皆から注目されたからだろう……エッケンハルトさん達は、怖くありませんからねー。

 

「成る程。やっぱりあの状態は、ハンネスさんが気になったように通常ではあり得ないと言えそうですね。セバスチャンさん、他の方々も……魔物を興奮状態にするような臭いってあるんですか?」

「いくつか、心当たりがあります。ですが、ただ興奮状態にするだけ、というのは……」


 セバスチャンさんにも聞いてみるが、臭いに関する何かは複数存在するようだ。

 そういえば、髪油も魔物が寄って来るような臭いだとクレア達が言っていたっけ……興奮させるのかどうかは別だけど。

 

「外敵がいなくとも、魔物が我を忘れ興奮した場合では、往々にして獲物を求めて突撃するとの見方が強いです」

「つまり、今回の場合で考えると、目が赤く興奮状態になっているのは間違いないにも関わらず、その場にとどまっていたのがおかしい、と」


 近衛護衛さんの一人が、魔物の習性を付け加えてくれる。

 興奮状態で我を忘れ、という事は理性のあるなしはあまり関係なさそうだな。

 まぁ、人間でも怒りなりなんなり、我を忘れる程の興奮をしてしまえばジッとはしていられないだろうから、容易に想像できるか。

 ……俺にはそういった経験はないけど。


「よろしいでしょうか?」

「ルグレッタさん。何か気になる事が?」


 スッと手を上げて、発言の許可を求めるルグレッタさん。

 わざわざ許可を求めなくても、自由に発言してもいいとは思うけど、まぁ根が律儀な人っぽいからな。

 ユートさんに対する時とは違って……ユートさんがそうして欲しいからというだけだけど。


「はい。どうして興奮状態のカウフスティアが、その場にいたのかはわかりませんが……フェンリル達にも感じ取れなかったのかが気になります。おそらくフェンリルは、カウフスティアよりよっぽど嗅覚が鋭いと思われますので……」



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