第1478話 デリアさん達はフェルに乗って来たようです



「あれ? じゃあ一緒にきたはずのフェルはどうしているんですか?」

「フェルは、レオ様に案内されて他のフェンリル達の所へ行っております」

「ワフ、ワフワフ!」

「そうかそうか、ありがとうなレオ」


 一緒にいたはずなのに、客間にはいないのでどうしているのか聞いて見ると、カナートさんが教えてくれた。

 レオも、お座りしたまま誇らし気に胸を張っていたので、また褒めるようにして撫でる。

 ちゃんと案内できて偉いぞー。


 フェルはフェリー達とは違う群れ出身らしいけど、面識があるからな。

 ここまでデリアさん達を連れて走ってくれたみたいだし、他のフェンリル達と仲良くのんびり休んで欲しいところだ。


「早く着いたのはわかりましたけど……さっきのデリアさんは一体? それから、ペータさんやカナートさんも」

「やはり、レオ様と一緒におられるタクミ様。そして改めて大量のフェンリルすら従えているのを見ると、あぁしなければと思い……」

「お仕えする方ですからな。何度か会ってはいても、最初が肝心と。私もつい」

「俺ぁ、デリアとペータさんがやっているから、なんとなくですがね。しかし、こんな立派なお屋敷を建てて住まう人ですから」


 要約したら、勢いでとかそういう事かな?

 まぁ、屋敷が思っていたよりも大きかったとか、ライラさん達が俺を旦那様と呼んでいるとか、レオが近くにいるからとか、そういった理由もあるみたいだけど。

 あと最初が肝心というのはまぁ……入社して初めてそこの社長と会うと考えれば、緊張と意気込みを見せないと、なんて考えるのもわかる気がする、多分。


「ま、まぁとりあえず落ち着いたので良しとしましょう。俺に対しては、特に気負う必要もないんですけど……」


 クレアとか、エッケンハルトさん達公爵家の人に対してならまだしも。

 というかこの屋敷に今いるからな。

 あぁ、あとユートさんも……今はランジ村をぶらぶらしているみたいだけど。

 クレアは執務室だろうけど、エッケンハルトさん達はティルラちゃんと一緒に、中庭でフェンリル達と一緒にいるはずだ。


 なんだか、ランジ村もしくは屋敷の中庭が、フェンリルとの触れ合い場になっているような気がするのは気のせいじゃない。

 フェンリル達も、人懐っこいのが多くて喜んでいるようだからいいんだけどな。

 ユートさんは、テオ君とオーリエちゃんを連れてランジ村を見て回っているらしい、ユートさんだけでなくオーリエちゃんもフェヤリネッテに興味を持ったみたいで、貸し出して一緒に行ってもらっている。

 フェヤリネッテをレオの毛から取り出し、オーリエちゃんに渡した時に言っていた「裏切り者ー!」という言葉が耳に残っているけど、オーリエちゃんはどちらかというと妖精への興味より、小さな生き物を慈しむ感じだったから、大丈夫だろう。


 ゲルダさんも付いて行っているし、妖精は子供達が好きみたいだから、ランジ村の子供達に会えば喜んでくれるだろう。

 少し意外だったのはユートさんが、テオ君達を先導した事か……完全に俺達に放り出して、自分は自由にとか考えていると思っていたんだけど。

 面倒見はいいのかもしれない、まぁ自分の子孫でもあるからってのもあるかな。


 おっと、話しというか考えている事が完全に逸れてしまっていた。

 今はデリアさん達の事だな。


「は、はい!」


 カナートさんとペータさんは微笑んでくれたけど、デリアさんだけは俺の言った気負う必要がないという言葉に、顔を強張らせて返事をした。

 うーん、これは少しかかりそうだな。

 って……ん? よくデリアさんを見ると、細長く黒い尻尾がフリフリと揺らされていて、尖った耳もパタパタと忙しなく動いていた。

 この反応はもしかして……。


「レオ、あれってさ……撫でて欲しいとかそんな感じか? レオも、あんな感じの時があるし」

「ワウゥ。ワフワフ」


 隣にいるレオに小さな声で聞いて見ると、心外なと言うように鳴いたけど、俺の言葉を肯定して頷いた。

 やっぱり、撫でられ待ちというか期待していたってわけか。

 顔が強張っているのは久しぶりだからだろうけど、レオもあぁやって、耳を動かしたり尻尾を振って撫でられるのを待っている時があるからなぁ……リーザも。

 この辺りは、感情が意識せずとも出てしまう尻尾と耳を持っているが故のわかりやすさか。


「そうかぁ、成る程なぁ。って……聞こえちゃってたか……」

「……」


 今は向かい合って座っているし、カナートさんやライラさん達の手前、手を伸ばして撫でるわけにもいかないので、後で撫でてみようと思ったら、俺とレオの会話が聞こえていたのか、デリアさんが俯いて恥ずかしそうにしていた。

 尻尾も萎れてしまって、座った膝に置いている握った手がプルプルしているので、恥ずかしいんだろう。

 ちょっと失敗したな……リーザもだけど、獣人は耳がいいんだろう……カナートさん達には聞こえていないみたいだったけど、デリアさんの耳には届いてしまっていたみたいだ。

 今後気を付けようと思う。


「え、えーと……そういえば、カナートさんはどうしてここに? デリアさんとペータさんは雇いましたけど……」


 とりあえず、話を変えないといけないと思い、デリアさんの隣に座っているカナートさんに話を振る。

 カナートさんは俺が雇ったわけではないので、ここにいる理由がない……別に来ちゃいけないわけじゃないし、ブレイユ村では良くしてくれた人だから、気軽に遊びに来るくらいでもいいんだけども。


「あぁ、俺はニャックを持ってきたんです。取引先が増えて、村長が満面の笑みで送り出してくれましたよ」

「ははは、成る程。そういう事でしたか」


 カナートさんは、ブレイユ村の村長さんから俺やクレアに対してのニャック販売を一任されているからな。

 別邸ではこれからも食べられるだろうし、クレアを含め、ニャックを知っている人達も一緒に移動してきたこちらの屋敷でも食べるから。

 定期的に仕入れる約束をしているようだし、この屋敷で購入する量などを決めないといけないか……。


「ジェーンさん、キースさんの所にカナートさんを。それから、クレア側の使用人さんと……あとセバスチャンさんもいた方がいいですかね。忙しそうなら、別の人を……」



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