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第1457話 街の外壁補修が提案されました
第1457話 街の外壁補修が提案されました
「はい。ですから、これは後々の案なのです。姉様とお父様、それからタクミさんが、孤児院の拡張の話を進めないわけがないと考えていますから、いずれと考えています。スラムでは子供が絶対的な弱者になると聞きました。なので、スラムに住む人達の生活を改善するためには、必ず子供達をどうするかを決めなければいけません」
成る程、多分これはアロシャイスさんの入れ知恵……もとい、意見を聞いての考えだな。
セバスチャンさんもだけど、スラムで育ったアロシャイスさんは、子供がどういう扱いをされるかをよく知っているはずだ。
だから、すぐではなくともまず真っ先に子供を救済する方法を考えたってところか。
あと、俺とクレア、それからエッケンハルトさんが孤児院の拡張をする方向で考えているのは、信頼と言えるのだろうか?
……もしクレアやエッケンハルトさんが、二の足を踏むようだったら俺が多少なりとも援助できないかとか、考えていたくらいだからなぁ。
幸い、クレアもエッケンハルトさんも、孤児院の拡張には乗り気なようだけど。
クレアからは、ラクトスは公爵領だけでなく、他領からも王都へ行くために通る要衝で、孤児が安心できる事での治安向上なども考えていると言われたっけ。
すぐにではなくとも、拡張するための予算などはなんとかできるはず……とエッケンハルトさんと話を進めているとか。
「では、そのいずれになるまではどうするのだ?」
「まず、ラクトスの外壁を補修します。こちらの拡張は、まだ必要ないだろうとセバスチャンが言っていましたが」
エッケンハルトさんやクレアと話せているから、ある程度の自信になっているのか、それとも集中しているからか、胸を張ってそう言うティルラちゃん。
スラムの事と、外壁の補修って何か関係があるんだろうか?
外敵から街を守るためと言うならまだしも、街の中にあるスラムに関する事のはずなのに。
「ティルラお嬢様の仰る通りですな。現状のラクトスでの住人の増加を考えると、拡張の必要はまだまだありません。入って来る人も多い代わりに、出ていく人も多い街ですから。住み心地には拘わらず。……そのために、スラムに住み付く者も多いのですがな」
拡張の必要はないと保証するように頷きつつ、最後にボソッと付け加えたセバスチャンさん。
エッケンハルトさん達も頷いているから、わかっている事なんだろう。
人の出入りが激しければ、それだけスラムに流れ着く人も多いみたいだからな……大人も子供も。
理由は様々みたいだけど。
「ではなぜ、このタイミングで外壁の補修をと言うのだティルラ。必要ないのであれば、それでいいのではないか?」
エッケンハルトさんのもっともな質問。
必要ないのに、無駄に補修しても意味はあまりない。
今後に備えてとか、予想される事態にとかならまだしも、そういうわけでもないみたいだからなぁ。
「それはですね……」
パラパラと、紙束をめくりながら話してくれるティルラちゃん。
色々調べて、話を聞いて、ティルラちゃん自身も考えていたんだろう、またちょっと緊張している様子だ。
けど、挨拶の時とは違ってたどたどしい話口調にならないのは、皆がちゃんと意見を聞いてくれると感じたからだろうか。
聞くべきところは聞いているけど、エッケンハルトさん達も俺やクレアの時とは違って、なんとなく軽い雰囲気を滲み出しているからかもしれない……そんな事ができるなら、さっき皆の前で話した俺達の時もそうして欲しかった。
エメラダさんやミリナちゃんとか、緊張し過ぎて具合が悪くなってなければいいんだけど。
「まず、外壁は離れて見ている分には特に、大きな傷などはありません。もちろん、古くなっていたり街に近付いた魔物によって、細かな傷はあります」
「うむ、まぁそうだろうな」
「ただラクトスの北側には、街を見下ろせる山があります。そこには、ラーレのような空を飛べる魔物もいるんです」
「あまり、自ら街には近付いて来ないようだが……確かにな」
ラクトス北の山にも森と同じようにそれなりに魔物がいる。
ラーレ自身も言っていたけど、空を飛ぶ魔物も……まぁ、大体ラーレの元配下みたいな感じらしいけど。
「山の魔物の多くは、ラーレがいるので街に降りて襲ってきたりはしません。これは、ラーレからも聞いていますし、私の従魔になってから一度山と近くの森に行き、人間に近付かないよう、レオ様の気配を感じても慌てないようになど、指示をしているみたいです。もちろん、ラーレの言う事を聞かない魔物もいるので、絶対じゃありませんけど」
ラーレがコッカー達を連れてきた時の事だな。
あれのおかげでレオが北の山や森に近付いても、一部を除いて大きな反応をしなくなった……らしい。
現に、今回ランジ村に行く時に森から魔物が出て来る事はなかったから、その通りなんだろう。
まぁティルラちゃんが言っている通り、全ての魔物に対して有効というわけでもないので、絶対じゃないんだろうけど。
「ほほぉ、ラーレはそこまでできるのか。そういえば、カッパーイーグルは、鳥型の魔物を多く従えると以前セバスチャンが興奮して話していたか」
「……随分昔の事です」
感心するエルケリッヒさんからちょっと面白い話が聞けた。
視線を逸らすセバスチャンさんに対し、エルケリッヒさんが面白そうにしていた。
知識としてなのか、魔物とか鳥型に関する事だからなのか……興奮して誰かに話す事もあるんだな。
今は落ち着いて、説明する時は若返ったように見えるくらい生き生きはしているものの、興奮とまでは言えず冷静だ。
まぁ、内心では興奮しているのかもしれないが、それを表には出さないくらいにはなっているってとこか。
……機会があったら、セバスチャンさんの昔話をエルケリッヒさんに聞いてみようかな。
結構、面白そうな話が聞けそうだ。
ちなみにセバスチャンさんは、「空を飛ぶのがあれ程怖いものだとは……若い頃の考えは若いからこそなのでしょうな」なんて小さく呟いていたから、元々空を飛ぶ魔物に乗ってみたいと考えていたのかもしれない――。
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