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第1456話 ティルラちゃんの意見発表が始まりました
第1456話 ティルラちゃんの意見発表が始まりました
そういえば、ランジ村への移動中にティルラちゃんがよく話しかけていたニックとアロシャイスさんだが、三人でずっと話し込んでいたためか、俺の予想以上に仲良くなっているみたいだった。
話し始めた時はニックからティルラちゃんの呼び方が、ティルラ様だったのが、今ではティルラさんになっているくらいだ。
俺みたいにちゃん付けじゃないのは、ニックが一歩引いたからと思っていたんだけど「スラムで姫と呼ばれているティルラさんを、馴れ馴れしく呼べませんぜアニキ」なんて言って照れていたな。
照れる所があったのかは疑問だが、ともあれさん付けの方は馴れ馴れしくないのかという突っ込みを我慢して、とりあえずティルラちゃんがそれでいいならと頷いておいた。
「ほら、ティルラ?」
「はい!」
俺がニックとエッケンハルトさんがいる方を見て、色々考えている間に、エルミーネさんから何やら紙束を受け取ったティルラちゃんが、クレアに促されて皆の前に。
緊張は多少解けたみたいだけど、意気込みは感じるな。
振り返り、俺達と向かい合ったティルラちゃんが、紙の束に目を落としながら、少したどたどしく話し始める。
「え、えっと、お集まり頂きありがとうございます! この場では、ラクトスのスラムに住む、も、者達の生活をか、改善させるためのわ、私なりの考えをまとめました。皆様には、私の考えを聞いて思った事など、き、忌憚なき意見を下さればさ、幸い……です!」
挨拶の言葉を考えて書き記していたんだろう、ジッと手に持った紙に視線を落としていたティルラちゃんが、最後の「です!」の部分で俺達を見た。
ちょっとだけ、台本丸読みっぽくは感じるけど……頑張りが伝わってくる良い挨拶だったと思う。
内容も、多分使用人さんとかに確認はしてもらったんだろうけど、ティルラちゃんが頑張って考えた言葉なんだろうな。
エッケンハルトさんは何やらうんうん頷いていて、エルケリッヒさんは涙ぐんでセバスチャンさんに大きめのタオルを渡されていた……ハンカチじゃないのは、先の事を見据えてだろうか?
幼い孫娘の発表会? に感動するお爺ちゃんはともかく、挨拶にあったティルラちゃんによる、スラム住人の生活改善案だな。
これは、以前ラーレに乗ってティルラちゃんが突撃して行った事に端を発している。
そしてその時考えていた事を骨子として、セバスチャンさんやアロシャイスさん、他の使用人さんや護衛さん、それからニックの意見を聞いてティルラちゃんなりに考えた事だ。
ティルラちゃんがラクトスのスラムと関わる事に対しては、ラーレが付いている事と、ディームがいなくなり俺やレオの噂が広まって大分安全になった事で、エッケンハルトさんからも一応の許可が出ている。
あと、姫と呼ばれている事や、密偵をエッケンハルトさんが忍ばせているからというのもある。
とはいえ、スラムに対して本当に何か行動を起こす許可は、ティルラちゃんの意見が受け入れられたらの話。
クレアはある程度別邸の近くにある街や村に対する裁量権を、エッケンハルトさんから認められていたらしいけど、まだ成人していないティルラちゃんは面倒でも許可を求めないといけない。
ある程度安全の担保はできているとはいえ、スラムと関わる事での危険性もあるからな。
「ティルラ、あなたが考える意見というのを聞かせてちょうだい?」
「わかりました! えとえと……」
真剣な目で見据えるクレアに促され、持っている紙束をめくるティルラちゃん。
あの紙束には、ティルラちゃんの意見をまとめた事が記されているんだろう。
カンペみたいな物だな。
「まず後々の案になりますけど、スラムに今も住んでいる子供達を、孤児院で受け入れてもらいます!」
「む、孤児院? しかしティルラ、ラクトスの孤児院はいっぱいだとの報告を受けているが……?」
「お父様の言う通り、ラクトスの孤児院は新しい子供を受け入れる予定はありません。タクミさんが、何人かこの村に連れてきていましたけど、それでもです。ですから……」
いきなり孤児院の話になるとは思わなかったけど、エッケンハルトさんが口を出したように、ラクトスの孤児院には今余裕がない。
ランジ村に連れてきた子供達もいるから、少しの空きが出たとしてもすぐに埋まるだろう。
スラムからか、それとも別の所からかはともかくとして。
けどティルラちゃんは、現状の孤児院に余裕がない事は知っており、それでも受け入れてもらうための方法を考えていたようだ。
以前、俺とクレア、院長のアンナさんとで話していた孤児院の拡張案。
子供が入れる余裕がないなら広げてしまえばいいという、少々強引な案だな。
ただそれは、既存の建物を増築するにしても、新しく建てるにしても、今すぐ子供を受け入れられるようにできる事じゃないはず……あぁ、だから後々の案とティルラちゃんが言ったのか。
「セバスチャンの入れ知恵ね? あの時ティルラはいなかったし、話してもいなかったはず。お父様には報告しているけれど」
「うむ、確かにクレアからの報告にあったな」
「ほっほっほ、私はただ、そういった話がございますよと、悩んでおられたティルラお嬢様に言っただけですよ。入れ知恵などとはとてもとても。ティルラお嬢様がお考えになった事です」
溜め息交じりのクレアに、頷くエッケンハルトさん。
セバスチャンさんは笑いながらどこ吹く風だ……まぁこうしろとかこうした方がとまでは、セバスチャンさんの事だから言っていないんだろうけど。
でも多分、ティルラちゃんが乗っかると思ってアンナさんとの話を伝えたんだろうな。
それを聞いて、どう考えるかまでを見るために。
「まぁ入れ知恵かどうかはさておくとしてだ、孤児院の拡張をするにしても、すぐに受け入れられるようにはできないだろう。それはどうするのだ? ティルラは孤児院の拡張を待ってから、行動をするために意見を言っているわけでもあるまい。そうであれば、今こうして急いで発表する必要もない」
エルケリッヒさんが、俺と同じ事を考えていた内容をティルラちゃんにぶつける。
ただ、口調は厳しい風なのに表情は緩み切っているので、傍から見ていると全然厳しく感じられない。
いやまぁ、厳しくする必要もないんだけど――。
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