第1453話 新しい薬には裏の考えもありました



「人は目立つ物にまず目が行きますから。大多数がそちらにだけ意識を向けて、一部の人が疑問を抱いても探るのは難しい状況になります」


 まぁ、『雑草栽培』が関わっている薬でもあるので、深くまで探られると危険もあるが、そう言った場合は警戒と対処ができる。

 探ろうとしたら逆にこちらからマークして……といった事が可能になるからだ。


 何せ新しい薬だ、他でその薬の詳細を探ろうとしても情報なんてないため、知ろうとすればこちらと関わる必要がある程度出て来る、絶対じゃないけど。

 あと、当たり前の事だけど薬の製法や原料に関しては、よっぽど悪質でない限りは秘密にできる。

 だから薬の詳細を聞かれたとしても、『雑草栽培』に関しては話さなくていいし、それでもしつこく知りたがる人はあらかじめ要注意人物とできるわけだ。

 要は新しい薬というのは、利益以外に俺の持つギフト『雑草栽培』を守る盾みたいなものだな。


「成る程な、まず大勢をふるいにかけ、興味を持つ物を少数にしたうえで周囲も巻き込むか。やはりよく考えられておる」

「その周囲に、公爵家を巻き込んでしまってもいるのは、申し訳ないですけど」


 周囲というのは、薬を買って恩恵にあずかりエルケリッヒさんがいうふるいにかけられた人達の事以外にも、公爵家も混ざっている。

 ふるいにかけられた人達は、薬の謎を解き明かす事よりもその効果が重要。

 だから、おかしな考えを持つ人の抑止力になってくれる……かもしれない、下手すると助長させる方になるかもしれないけど。

 ただ、そう言った人達がいるかもしれないというだけで、動きにくくなる人がいるのも事実。


 注目されているのだからな。

 また、公爵家もというのは領内で評判がいいのもあって、怪しむ人が少ないだろうという事。

 他には、公爵家との拘わりがあるのだから、下手に探って咎められないようにと考える人が出るだろうという事でもある。

 行き過ぎた手段で探ろうとすれば、当然取り締まられるし、公爵家に直接伝わるわけだから。


「なに、構わんさ。クレアも関わっている事だからな。というより、これはクレアとセバスチャン辺りが考えた事だろう? いや、三人が共同で考えたというところか。タクミ殿と話して感じる誠実さとは、また違った印象を受ける考えだ」

「お爺様には、わかってしまいますね」

「ほっほっほ、私はほんの少し助言をしただけです。ほとんど、クレアお嬢様とタクミ様が考えられた事ですな」


 さすがエルケリッヒさん、鋭い。

 この考えは俺だけじゃなく、セバスチャンさんやクレアさんとも考えた事……他の使用人さんもだったりもするけど。

 公爵家を巻き込む、というのは俺の方が利用してしまう気がして乗り気じゃなかったんだけど、クレアがどうせだからとか、お父様なら喜んで協力すると言ってくれたからだ。

 エッケンハルトさんなら、面白がるのが俺も想像できたので使わせてもらった。


 とはいえ実際には、本当に公爵家の力を借りるのではなく、できる限りこちらで対処するつもりではあるけど。

 犯罪をしようものなら、単純に俺や公爵家というより、ただ捕まえて引き渡すだけだしな。


「ふむ、私はただただ売れる物だと。薬草畑の運営も安泰だと思ったくらいだが……」

「……まぁ、ハルトはそれでいいのだろうな」


 キョトンとした表情のエッケンハルトさんは、エルケリッヒさん程の深読みはしなかったようだ。


「お父様はどちらかというと、お爺様やお婆様のような貴族の政治を考えるよりも、商売の方が得意ですから。仕方ありません」

「……なんだか、娘に呆れられた気がするんだが」

「旦那様は、大旦那様の仰る通り、そのままでいいのでしょう。その分、我々使用人がお支えするのですから」

「そうだな。何も全て一人できなくても良い。ワシなんて、公爵領内での商売に関してはほとんど任せっきりだったからな。利益は出ていたが、それは公爵家の信頼だけは裏切らないようにしていた事や、妻のおかげが大きい」


 エッケンハルトさんは、政治的な事よりも商売の方が得意なんだな……剣の腕とか見た目からは、むしろ歴戦の戦士と言った風格が滲み出ているから、戦う方面にばかり向いていそうではあるけど。

 フィリップさんが思わず涙を流してしまう程、厳しい訓練とかもやっているみたいだし。

 後で聞いた話だけど、エッケンハルトさんは戦う場合は先陣を切って皆を率いるタイプで、政治的な事ができないわけじゃないけど商才の方が目立つ人。

 エルケリッヒさんは人並み以上に剣などの腕は立つが、後方で的確な指示を出しながら統率するタイプで、商才は本人が認めるようにあまり恵まれないが大きく損はせず、奥さんや使用人さん達の補佐もあって政治方面が得意なタイプ……らしい。


 クレアはまだまだこれからみたいだけど、どちらかというとエルケリッヒさん……というかお婆さんに近いタイプで、戦闘はしないけど政治で商売の方も上手くいかせるのではないか、と予想されている。

 その政治に関しても、領内を治める立ち場からではなく、いやその視点もありながら領民の目線に立って考えるタイプだとかで、エルケリッヒさんの奥さんと全く同じというわけではないらしい。

 なんにせよ、リーベルト家の人達は才能豊かという事で……平凡な俺から見ると羨ましい限りだ。


 あと、初めて会った時くらいのクレアはともかく、今のリーベルト家の人達はティルラちゃんも含めて、皆自分で全てを完結させるのではなく、誰かと共に、意見などを取り入れるという考えがある。

 そこが、テオ君に俺が教えた事と近いかな。


「……ん?」


 ふと、クイクイと袖を引っ張られる感覚に気付き、振り向く。

 そちらには、何やらキラキラとしてた目で俺を見上げるテオ君がいた。

 今テオ君の事を考えていたから俺の所にきた、というわけではないと思うけど、どうしたんだろう?


「タクミさんは、これだけの人達を前に……それも、公爵家の方々を前にしても怯まず堂々と……やっぱり凄い人です!」

「えーと……?」


 

 美少年がほんのり頬を染めて、さらに目も輝かせて俺の袖を引っ張りつつ、称賛している……なんだこれ?

 一体どうして、こんな事に……?



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