第1452話 大まかな予定の発表を終えました



「ただ、あくまでこれは予定ですので、これから先の状況で変わる事があります。その際には、皆との相談、意見を取り入れて決めて行こうと考えています」


 エメラダさんがなんとか話終えて、クレアがそう締めた。


「考えるべき事は考えてあるのだな。うむ、私から言える事は特になさそうだ。無軌道に、そして計画もなく危うい運営になりそうであれば、何か言うべきかと思っておったが……その必要はないな」


 顎を片手でさすりながら、感心した様子で頷いてくれたエッケンハルトさん。

 実は、当初はエッケンハルトさんと相談しながら決めて行こう、と考えていた。

 だけど、クレアの考えや俺の頼りきりになりたくない、という事から先にある程度運営の方向性を決めて、それを発表のような形で話そうと決めていたんだ。

 そのために、別邸を出発する大分前から……ミリナちゃんが薬の試作を完成させたくらいに、使用人さん達と話し合いを続けていたんだよな。

 ミリナちゃんの薬が、販売できるかどうかまで完成していたから、早めに色々考えておかないとというのもある。


「クレア、そしてタクミ殿。無理はせず、何かあれば他の者とも相談し、意見を求め、時には意見をぶつけ合い、切磋琢磨していくよう望む。これから先、この村やレオ様、タクミ殿、クレアは公爵領にとって重要な位置付けとなっていく事を確信している。二人共、頼んだぞ」

「「はい!」」


 何はともあれ、エッケンハルトさんの言葉にクレアと同時に深く頷き、エルケリッヒさんも頷いているのを見て、ようやく認められた気分になる。

 クレアも俺と同じようで、こちらを見て顔を綻ばせている。


 使用人さん達の何人か、特に経理で重要な話をしていたキースさんや、アルフレットさんが特にホッとしていた。

 ライラさんは……表面上はあまり変わらないけど、口元が綻んでいるのが見えた。

 俺も、多分今笑っているだろうな、上手くいって良かった……いや、実際にはまだ始まっていないから、本当に上手くいくかどうかはこれからなんだけどな――。



 全体への話は終了となり、弛緩した空気の中少しの休憩をして、従業員さん達はキースさんや数人の使用人さん達の所へ。

 新居や屋敷で暮らす話や、雇用に関する書類などがあるためだ。

 そちらはキースさん達に任せるとして……後で確認する必要があるんだろうけど。


「お疲れ様、クレア。それからエッケンハルトさんとエルケリッヒさんも、ありがとうございます。おかげで、スムーズに進行できました」


 話しているクレアやエッケンハルトさん達の所に行き、挨拶というかお礼。

 一部、余計な話は混ざったと思うけど、二人が時折冗談っぽい事を混ぜてくれたおかげで、あまり堅苦しくなりすぎなくて済んだ。

 まぁ、二人がいたから慣れていない従業員さん達が、緊張していたりもしたんだけど。


「タクミさん、お疲れ様です」


 すぐにクレアが俺へと振り返り、微笑んでくれる。

 これだけで、気を張っていた疲れが取れる気がするなぁ。

 とはいえ、エッケンハルトさん達の前だから、あまり緩み過ぎるわけにもいかないと、思わず締まりのない表情になりそうになるのを意識的に引き締めた。 


「いや、中々面白かったぞ。特に、新しい薬を作って売り出そうとする考え方など、ユニークでこういう方法もあるのだと思わされた」

「そうだな。立場上、ある程度わかっているフリをする必要はあったが、驚かされた」

「ははは、俺だけの考えというよりは、皆で考えた事でもありますから。でも、適度にエッケンハルトさんやエルケリッヒさんが話してくれたおかげで、ちゃんと皆にも意図が伝わったと思います」


 ミリナちゃんの作った薬は、『雑草栽培』から目を逸らすためという意図が大きい。

 それでもちゃんと利益が出るように、とは考えているけど。

 意図を伝えつつ、売れる物だと思わせるのは難しかったので、エッケンハルトさん達に助けられた部分もある。


 やっぱり、俺が信用されているかどうかに関わらず、公爵家の二人が売れると確信を込めて言ってくれたのは、従業員さん達にとって保証に近い印象を受けただろうから。

 使用人さん達も、エッケンハルトさんが売れると言ってくれた時、少しホッとしたようになっていたからな。

 

「タクミ殿のギフトは聞いているし、先程の話でも言っていたが……あまり広く知られない方がいいとも思うからな」

「そうですね」


 エルケリッヒさんの言葉に頷く。

 あまり考えたくはないが、『雑草栽培』を悪用しようとしたらとんでもない事になると思う。

 それこそ、強力な毒を作ったりもできるかもしれないし、自然の植物や土にとんでもない影響を与えたりする事だってできるかもしれない。

 というか、多分できるだろう。


 ユートさんのギフトのような派手な事は多くなくて、地味かもしれないけど、代わりに水面下で人知れず動いて、気付かれた時には取り返しがつかないように……なんて事だって考えられなくもない。

 いや、ユートさんのギフトも体を完全に透明にしたり、隠密で動いて裏で暗躍なんてのもできるのかもしれないけど。


「ギフトは、それ自体が強力だ。あまり多くの者に知られて、タクミ殿が利用されないようにせねばならん」

「父上の言う通りです。利用法次第で、公爵領だけでなく国内を混乱に陥れる事もできなくはないでしょうからな」

「うむ、タクミ殿にその意思が一切なくともな。まぁ、そういった者はレオ様が近くにいるから、ある程度は何とでもなるだろうが……」

「はい。そのために、エッケンハルトさんに剣を習っていますから。最低限、自分の身を守れるように」


 どこの世界にも、特殊な能力を悪い事に使おうとする人はいるものだ。

 それはわかっているし、以前エッケンハルトさん達にも言われたからな。

 悪事でなくとも、私利私欲で利用しようと考える人だっているわけで……どこからどこまでが私利私欲と言えるのかは、『雑草栽培』を収入を得るために使っている俺がどうこう言えるか微妙だが。

 とにかくそういった人に知られないようにするべきだし、もしもには備えておかないといけない。


「だが、頑なに隠そうとすると、暴こうとする者が出るのも常だ。目を逸らして、興味を持った者の意識を向けさせないというのは良い案だ」


 エルケリッヒさんの言う事はもっともで、隠そう隠そうとしているから人によっては怪しく見えて、何を隠しているのかと興味を持つ。

 だったら、一つ……薬は結局三つ作ったけど、目立つ物を据えてそちらに意識を向ければいい――。



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