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第1422話 おかしな誤解が広まりそうでした
第1422話 おかしな誤解が広まりそうでした
「んで、タクミ君はティルラちゃんやリーザちゃん。それから他の子供達にも慕われているからね。男女問わず。だから、オフィーリエはタクミ君にってわけ」
「言われると確かに。でも、子供達はレオやフェンリルとの繋がりがあるからだろうけど」
ティルラちゃんは兄様のようにと言われたし、リーザからはパパと呼ばれている。
特別年下の女の子に慕われるような経験や実感はないし、そういう人物だとも思っていない。
レオと一緒にいる事や、フェンリル達と遊んでもらったりするから、近くにいる俺に懐いているように見えるだけだと思う。
「そのレオちゃんやフェンリル達も、タクミ君だからだと僕は思うけどね。レオちゃんがいるとはいえ、フェンリルがあれ程穏やかに、人とじゃれる姿なんて見た事ないよ」
「まぁ、フェンリルと親しくなるのは、ジョ……初代当主様以来みたいだから、そりゃ見た事ないだろうけど」
「あの人も、フェンリルとは親しかったけどね。でも他の人と遊ばせようなんてしていなかったよ。結局、タクミ君はタクミ君で人だけでなく多くの何かを引き寄せる素質があるのかもね。僕も、こうして懐いているし」
「……信じられない程長生きしている人に、懐いているなんて言われたくないよ」
そもそも、誰かに懐くとかって人じゃないだろうに。
俺やレオも含めて、いい遊び相手とか面白いから見に来ている、といった感じが強いからなユートさんは。
「えー、こんなにタクミ君の事を慕って、ここまで来ているのにぃ」
不満そうにしながらも、両手を頬に当てて体をくねらせて、俺に寄りかかろうとするユートさん。
慌てて距離を取りつつ、注意する。
「変なしなを作らない! 寄りかからない! 誤解を招くから!」
「「……」」
ほら、ゲルダさんを手伝っているメイドさんの何人かが、俺とユートさんを見ているから、嬉しそうだから!
その気もないのに、おかしな文化をこの世界に広める気は一切ない。
「ユート様ズルいです! 僕もタクミさんと話したいです!」
「おっと……! はは、テオドールトは本当にタクミ君に懐いたねぇ」
「いい事なのか悪い事なのか……」
レオを拭く作業が終わったのか、俺とユートさんの間に飛び込んでくるテオ君。
チラリと見ると、拭き終わって満足そうなリーザと、ゲルダさんに感謝を伝えるように頬を寄せるレオが見えた。
その際、視界の隅で先程のメイドさん達が、テオ君の乱入に輝くような表情をさせていた気がするけど、見ないようにしておく。
「テオ君、レオを拭いてくれてありがとう」
「いえ、これくらいなんでもありません! タクミさんには、すごくいい話をしてもらいましたし、教えてもらいましたから!」
「へぇ~、一体何を教えたのかな?」
うぅむ、聞きようによってはまた誤解を招きそうな事を……今度はユートさんじゃなくて、テオ君がだけど。
何やら黄色い声がメイドさん達の方から聞こえた気がするが、おそらく勘違いだろう、うん。
「変な事を教えたりはしていないつもりだけど……あ、そうだ。ユートさんに聞きたいんだけど」
「うん、なんだい? 僕に答えられる事ならなん……」
「テオ君の事でね、そうテオ君の事! えっと、とりあえず移動しながら……」
わかっているのかいないのか、またおかしな言い回しをしそうだったので、大きめの声で割り込む。
いつまでもホールに留まっているのもどうかと思うので、体を拭き終わって何やらムフーと鼻息を漏らすレオを連れ、皆でクレア達がいる客間へ行きながら、川辺で水道だとかの事を考えていた時の話をする。
主に、テオ君に話して良かったのかとかだな、後ついでにまたレオの毛の中に引っ込んだフェヤリネッテの紹介もだ。
名前や妖精というのはともかく、紹介は後回しにしていたからな……またユートさんが追いかけ回さないようにでもある。
テオ君に関してのユートさんからの答えとしては、俺の事を信頼しているし、それくらいなら何も問題ないとの事だった。
そもそもユートさんとしては、この先テオ君がどう考えて、どういった事をするのか、成功するも失敗するも、本人の自由だと。
テオ君の前では言わなかったけど、後日ユートさん自身から「長く生き続けている事もあって国を興したのが自分だとしても、究極的に今の僕は傍観者なんだ。ある程度干渉はするけどね」なんて言われた。
干渉するなら傍観者と言えないんじゃないか、と思ったけど、その時のユートさんの寂しそうな表情を見て何も言えなかった。
……何百年も生きるっていうのは、それだけいい事だけじゃなく悪い事、苦しい事、重荷を背負う事だってあるのかもしれないな。
だからって、すぐに「だから今は、とにかく面白そうと思った事を追及して、面白おかしく生きようかなって」と言ったのはどうかと思ったけど――。
「失礼します」
「タクミさん、お帰りなさい」
「兄しゃまー!!」
「っとと……オーリエ、いきなり飛びついたら危ないよ?」
「でも、兄様がいなくて……」
客間に入ると、聞いていた通りクレアやエッケンハルトさん、エルケリッヒさんとオーリエちゃんがいて迎えてくれる。
オーリエちゃんは座るクレアに横から抱き着いていたけど、テオ君の顔を見た瞬間に飛びついていた。
よっぽど寂しかったらしい、一度だけ様がしゃまになっていたし。
「ふむ、オフィーリエがテオドールトを呼ぶ、兄様だけど……変えた方がいいかもしれないね?」
そんな二人、特にオーリエちゃんを見て呟くユートさん。
すぐにいい事を思いついたとばかりに、表情を明るくさせた……頭上に電球が見えた気がする。
「そうだ! お兄ちゃんでいこう、うん。全世界の男が呼ばれて嬉しい呼称だ!」
「……僕は特に嬉しいとは思わないのですけど」
「それは単なるユートさんの趣味なんじゃ……?」
テオ君と二人、ジト目でユートさんを見た……テオ君、ユートさん相手にいい目をする。
お兄ちゃん、そう呼ばれる事を嫌がる男は少ない……かもしれないけど、逆に呼ばれたがる男ばかりでもない。
日本でレオと遊んでくれていた女の子から、そう呼ばれる事があったけどただの呼び方なだけで、特にこだわりもなければ思い入れもない。
いや、あの時の女の子は今元気だろうか? くらいに思ったりはするけど――。
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