第1400話 子供達が暮らす家を児童館と呼ぶ事にしました



「そ、そうか、そうだよなぁ。ははは……」

「ワフ……」


 ちょっとだけ情けない姿を見せてしまい、苦笑して頬をかく俺……レオから溜め息を吐かれた、ちくせう。

 カイ君達や、ロザリーちゃんにも笑われているけど、まぁ皆楽しそうだから俺がちょっとくらい恥ずかしい思いをしたって構わないか。

 親しみやすい引率係って事で。


「それじゃあ皆、この家……シェアハウス? うーん……」

「タクミ様?」

「パパ、どうしたの?」

「ワフ?」


 なんとなく言いづらかったので少し考える。

 他の家特別というか、何かあったり頼んだりするときに伝わりやすい言い方がないかと……。


「とりあえず、今日からここは児童館だ。一応子供達の方が多いからね。まぁ、成長してからは呼び方を考えなきゃいけないけど、一先ずって事で」


 例えば、子供達を呼んでほしい時に、「家に子供達を」と言うより「児童館から」と言った方が伝わりやすいだろう。

 別に児童館って呼び方じゃなきゃいけないわけじゃないので、暫定ではある。

 他に呼びやすいのがあれば、そっちにしよう。


「児童館、ですか。呼びやすくていいかもしれません」

「ワフ」


 ロザリーちゃんやレオも頷いて、受け入れてくれた……とりあえずしばらくは児童館って事で良さそうだ。


「わー!」

「待てー!」

「こら、ちゃんとタクミ様にご挨拶しなさい!」

「すみません、タクミ様、子供達が……」

「ははは、いいんだよ。楽しかった宴会の気分がまだ続いているんだろうし。子供は明るく元気なのが一番だ」


 児童館に入ると、すぐに部屋へと駆け出す子供達……誰が一番最初に部屋へ入るか競争しているかのようでもある。

 カールラさんが注意の声を上げて子供達を追いかけると、カイ君とメンティアちゃんが申し訳なさそうに俺へと頭を下げる。

 とはいえ、宴会後で散々フェンリル達と遊んだ後だからな、まだまだ興奮しているようなものなんだろう……料理もたらふく食べていたみたいだから、おそらくそろそろスイッチが切れると思うけど。


「ワフ……」

「さすがにレオは入れないな……というか、通れないか」

「ママはリーザやライラお姉さんと一緒に待ってよー?」

「ワウ」


 中に入った俺達の後ろ、玄関から鼻先だけ入れて残念そうに鳴くレオの声。

 児童館は多くの人が入るのを見越して、多少大きめに玄関の扉が作られているけど、さすがにレオがそのまま通れる大きさじゃない。

 入ってすぐの居間のような場所は、レオがいられる大きさだけどだからといって、無理矢理入ると家その物を壊してしまいかねないからな。

 背中に乗ったリーザと、おとなしく待っていてほしい……俺も挨拶したらすぐ出るから。


 ちなみに児童館の中は、造りとしてブレイユ村で俺やフィリップさん達が泊まった家とほぼ同じ。

 一階に居間や土間などの共用スペースがあり、個別の部屋は二階にある。

 家族用とかもそうだけど、多分平均的な村の家というのは大体こういった間取りや作りになるんだろう。

 建物自体が大きいから、共用スペースも大きく二階の部屋数も多いけど。


「タクミ様……おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


 児童館内を、玄関に入ってすぐの場所で見渡している俺の服の袖が、不意に引っ張られる。

 そちらを見てみると、四人いる子供達の中で唯一残った女の子、一番おとなしい子が恥ずかしそうにしながら挨拶をしてくれた。

 俺が挨拶を返すと、さらに恥ずかしくなったのかコクコクと頷いて、赤くなったほっぺに両手を当てたまま二階への階段に向かってテテテ……と駆けて行った。

 うーん、人見知りとか恥ずかしがり屋なのかな?


「マリエラは、タクミ様に懐いていますね。――でも、ちょっと注意しておいた方がいい気がするけど、メンティア?」

「そうね……タクミ様には、クレア様がいらっしゃるから……」


 駆けて行った女の子、マリエラちゃんを見送りつつカイ君やメンティアちゃんが、少し困った様子で話していた。


「注意をする必要はないし、クレアは関係ないと思うけど……懐いてくれているのなら、嬉しい限りだよ」

「あ、そうではないのですが……」

「マリエラの事は、私達がしっかり見ておきます。ありがとうございます、タクミ様」

「あ、う、うん……?」


 首を傾げる俺に、言いにくそうにしているカイ君。

 なんとなく、メンティアちゃんに誤魔化された気がするけど、とりあえず戻ってきたカールラさんにも挨拶をして、児童館を出た。

 明日は宴会後なので、盛り上がり過ぎて動けない人もいるだろうから、改めて明後日屋敷に集合する事を伝えておくのを忘れない。

 薬草畑をすぐに開始するわけじゃないけど、準備とかがあるからな。


「お待たせ、レオ、リーザ」

「クゥーン……」

「お帰りー!」

「おかえりなさいませ、タクミ様」


 児童館を出てすぐ、ちょっとしょんぼり気味に伏せをしているレオと、その背中に乗るリーザに手を振る。

 鼻をスピスピさせながら、甘えるような鳴き声を出すレオと、両手を上げて迎えてくれるリーザ。

 対照的だな……。

 レオがしょんぼりしてしまっているのは、子供達がいなくなったからだろう……ライラさんとロザリーちゃんは、そんなレオを慰めるように体を撫でていた。


「レオ、子供達とはまた明日遊べばいいだろ?」


 色々あって、レオとシェリーは子供達と触れ合う時間が少なかったからな。

 ……シェリーは、俺が広場を離れる時にオーリエちゃんやテオ君といて楽しそうにしていたので、不満はなさそうだけど。


「もう遅い時間だし、しっかり寝れば明日いっぱい遊べ……るかな?」

「ワフゥ?」

「遊べないの?」

「いや……遊べる、と思う。多分」


 明日また、と考えて不安になり自信がなくなった。

 遊ぶ時間はあると思うし、準備などは明後日からとして余裕はあるはず……薬草畑に関してはそうでも、俺やクレアは屋敷の方でやる事があると思うからなぁ。

 特に、エルケリッヒさんやテオ君達の事もあるし。


「リーザお嬢様とレオ様が、タクミ様と離れてはしまいますが、屋敷を出て子供達と遊ぶのでもいいのではないでしょうか?」


 とりあえず広場へと向かいつつ、レオを撫で続けているライラさんがそう提案してくれる。

 成る程……俺はユートさんやエルケリッヒさん、テオ君達と話す事があるとしても、レオやリーザが絶対その場にいる必要はなさそうだからな。

 俺と一緒にいて退屈するよりは、子供達と遊んでいた方が楽しめるだろう。

 ……エルケリッヒさんは、残念がりそうだけど――。



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